文芸書ランキング、社会の“SOS”を反映か? 『52ヘルツのクジラたち』や『お探し物は図書室まで』が伝える声

 9位の青山美智子『お探し物は図書室まで』は、本屋大賞2位を受賞した作品。『52ヘルツのクジラ』に比べれば明るい読み心地だが、こちらも声なき声を発する人々を描きだしている。

 人生を暗闇に突き落とすのは、生死にかかわるような大事件だけでなく、自分だけ何ももっていないように感じてしまう劣等感や、出産によってキャリアプランを変更せざるを得なかった口惜しさ、といった他人からみれば些細に思える葛藤もまた、生きていくために乗り越えていかなくてはならないものだ。小学校併設のコミュニティハウスにある小さな図書室を偶然訪れた人々が、風変わりな司書に導かれるようにして自分にぴったりの本と出会い、人生を好転させていく姿を描き出す。

 人の悩みや苦しみに大小はつけられず、本人にとっては等しく深刻な問題だ。物理的に傷つけられていないから、生活には困っていないのだから大丈夫だろうと思っていた人が、唐突に命を絶ってしまうことだってある。『52ヘルツのクジラ』と『お探し物は図書室まで』の2冊が本屋大賞の上位2作となったことは、想像するよりもはるかに多くの人々が、声にすることのできないSOSを発しているという証左かもしれない。

 大小はないといいながら、終わりの見えないコロナ禍で尋常ならざる苦境に立たされている人たちが存在するのは事実。緊急出版と銘打たれた10位の夏川草介の『臨床の砦』は、現役医師である著者がコロナ禍の最前線で目の当たりにしてきた光景を、とある病院に務める内科医を主人公に描きだす。

 2020年末から急増した感染者と重症化患者。他の病院から受け入れを拒否されて患者は次々と運びこまれ、ベッドは満床続き。病院に勤める人たちはみんな一年近く休みなし。これから先も状況が改善される気配はないどころかどんどん悪化し、医療は崩壊どころか壊滅状態。それでも行き場のない患者を見捨てることなどできない――。行間の隙間から溢れだす現場の“声”に、ぜひ耳を傾けてほしい。

■立花もも
1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行う。

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