爪切男×カマたくが語る、頑張りすぎない“中道”の生き方 「悩みがないことが、むしろ僕らの悩み(笑)」
悩みがないという悩み
爪切男:想像力って大切だなって思うんです。僕が親父から教えてもらったのは、好奇心や発想力を持つこと。昔、父親が買ってくれた粘土で遊んでたら突然殴られたんですよ。
カマたく:え!? 何それ。お父さん……。
爪切男:「この粘土は、山から掘り出された土がたくさんの工程を経て作られたものだ! お前は粘土に対する感謝が足りない!」って。食事の時もそうでした。「食べ物がここにあることに感謝しろ」と言われて、いろいろ想像してたら、卵を食べられなくなってしまったんです。卵を見るとヒヨコやニワトリの顔が浮かんできちゃうんです(笑)。いくらとか子持ちししゃももダメで。
カマたく:ちょっと、そこまでいくとヤバくない!?
爪切男:あと、よく「お酒の力を借りて女を口説く」ってあるじゃないですか。あれもお酒を造っている人に申し訳が立たなくて。だから僕はいつもルノアールで女の子を口説くんです。コーヒーを飲んだあとで熱々のお茶が出るじゃないですか。あれを一気に飲んだ勢いで口説く(笑)。
カマたく:ウケる(笑)。そう考えると、みんな型にはまって窮屈さを感じることがありますよね。なんでもマニュアル通りで。私、かつて働いていたとき、会社が用意したマニュアルをほぼ無視した接客で、全国1位をいただいたことがあるんです。
爪切男:実は僕も某社で電話の窓口をやっていて、お客様からの好感度ランキングで優秀賞をとったことがあるんです。その頃はカマたくさんと同じく、会社が作ったマニュアルは参考程度でしたね。
カマたく:プラモデルひとつ作るのも、絶対に説明書通りに作らなければいけないと思う人が多いみたいです。私なんて、部品が足りないとなったら、その人なりの組み立て方をすればいいのにって思っちゃうタイプなんですが。なかにはもうひとつ同じプラモデルを買い足して、その部品だけ使う、みたいなことをやっている人が多い。
爪切男:型にハマった人生を送る必要はないですよね。僕も「作家としての目標は?」といった質問をいただくんですが、そんな高尚なものはなくて。「あとは余生」くらいに思っているんです。しいて言えば、大好きな蕎麦屋でバイトをやりたいくらいですね(笑)。
カマたく:私もー。もう一度バイトしてみたいとよく思ってます。いちいち明日とか、1週間後のことを考えて心配してもしょうがないんです。それに、今は苦しくても、そのうち笑えるよって思います。私だって、小さい頃はしんどいこともあったけど、32年間生きてきて、トータルで見たら「まあまあ面白かったな」って感じていますから。
爪切男:トータルで人生を見たら、いいことも悪いこともまあまあになるのかもしれませんね。
カマたく:いま目の前に、スウィッチを押したらパッと自分の存在が消える機械があったら、すぐに押せますもん。自分のこれまでの人生をなかったことにして、周囲の方々の記憶からも全部リセットしてくれるのであれば、すぐ押すと思う。でも、「毎日辛くて……」って人生相談しにくる方に限って、意外と押せないんじゃないかな。たぶん、悩んでいるうちは押せないんですよ。
爪切男:悩みがないことが、むしろ僕らの悩みかもしれません(笑)。
カマたく:うーん、でもヘビーなことをヘビーなままで受け取る必要はないですよね。むしろ私は、不幸なことがあるとワクワクしてしょうがない。いつどうやって楽しく話そうかって思っちゃう。たぶん、そういう病気です(笑)。
爪切男:僕もこの前、新宿のトイレに入ったら紙がなかったんです。その時、久々に「あぁ、生きているなぁ」って実感しましたね。「さあ、この状況をどうしよう」って(笑)。僕も若い頃は水道を止められて公園の水で体を洗っていたくらいだし、そういうのも全部、笑い話にしたい。だから今、なにかに悩んでいる人は、恥ずかしがらずに人に話してみてください。大体のことは人に話せば楽になりますから。
■書籍情報
『もはや僕は人間じゃない』
発売元:中央公論新社
発売予定日:2月24日
価格:本体1,100円+税