ISHIYA × TOSHI-LOWが語る、ハードコアパンクのつながり 「本当はみんな、自分の心の中にある大事なものでつながりたい」
FORWARD/DEATH SIDEのボーカリスト・ISHIYAの著作『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』が、1月10日の発売以降、各所で話題を呼んでいる。重版を記念して、過日に掲載した後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)によるレビューに続き、今回は著者ISHIYAと本書の帯コメントを書いたTOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)の対談記事を掲載。さらに、同書の特設サイトも公開した。
TOSHI-LOWはハードコアシーンをどのように見つめ、ISHIYAにどんな影響を受けてきたのか。また、本書を通じてなにを感じたのか。ビールを酌み交わしながら語り合った。(編集部)
『ISHIYA私観: ジャパニーズ・ハードコア30年史』特設サイトhttps://blueprint.co.jp/lp/ishiya-japanese-hardcore/
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みんなが知りたかったことがすごく書いてある
TOSHI-LOW:ISHIYA本、売れているみたいで。ディスクユニオンの売り上げランキングの1位がこの本で、2位が柳家睦だったのを見て、俺は今日世界が終わるんだと思ったよ(笑)。あと、俺の本じゃないのに、帯のコメントを見て、いろんな人から「買ったよ」って連絡がたくさんくる。
ISHIYA:俺もAmazonやディスクユニオンのランキングを見てガッツポーズしたよ(笑)。氣志團の翔やんもnoteの連載の時に読んでてくれたみたいで、ほかにもいろんな人から感想をもらっているところ。
TOSHI-LOW:翔やんはこの本、大好きだろうね(笑)。みんなが知りたかったことがすごく書いてあるから。それに、これまでハードコアについて書かれたレビューなどはたくさんあったけれど、こういう身内からのルポルタージュ的な手法で書かれた本はなかった。読んでいる方も心が入りやすいんだよね。
ISHIYA:自分で読んでいても読みやすい(笑)。noteの連載を書籍化するにあたって、何度も読み直してかなり加筆修正をしたんだけれど、こうして本になってさらに読みやすくなったと思う。
TOSHI-LOW:自分も多少文字に触れている人間として、すごく丁寧な仕事をしているなと思った。良い本、本当に。ISHIYA君のブロマイドでしおりを作ってくれたら、もっと良かった(笑)。
ISHIYA:モヒカンの形で?(笑)。TOSHI-LOWにもらったコメントも好評で、「まさにその通り」という感想を言う人が多いよ。
TOSHI-LOW:それは嬉しい! タイトルに「ジャパニーズ・ハードコア」と入っているから、正直なところ、生半可な覚悟では触れられない。この本に登場する悪魔超人みたいな方々が必ず手に取るであろう本の帯を書くわけだから、逃げ出そうかなって思った(笑)。でも、逆にいえば、この本は俺みたいに当時、怖がりながらもライブハウスに行ってジャパコアを聴いていたような連中も、きっと好奇心を持つはずだと。言ってみれば最初は「実話ナックルズ」を読むような気持ちで、この本を手に取る人がいるんじゃないかなと。でも、実際に読むと、暴力やゴシップではなくて、人と人との繋がりや、そこからどんな風に新しい音楽が生まれたのかとか、人生の別れについて真摯に書かれていて、涙があふれてきてさ。その感想をできるだけシンプルに、そのまま文字にしたのがこのコメントなんだよね。地元の先輩にも「お前のコメントと同じ感想だった」と言われて、「やったー!」と思った。
ISHIYA:そもそも、TOSHI-LOWと初めて喋ったのは何がきっかけだった?
TOSHI-LOW:喋って仲良くなったのは、Origin of Mのガイ君を通してだったと思うんだけれど、俺は90年代の終わりの方でISHIYA君が企画した『BURNING SPIRITS』にも出演しているから、触れ合ったのはそれが最初じゃないかな。あの時のISHIYA君は、「ありがとな」みたいな感じだったと思う。
ISHIYA:あの時は俺もクラクラで、何やってるか全然わからなかったな(笑)。
TOSHI-LOW:当時、鉄アレイのKATSUTA君に誘われて「『BURNING SPIRITS』に出なよ」と言われて出て行ったんだけれど、会場についてみたらKATSUTA君はある事情で現場にいなかったという(笑)。ギャラも代わりにRYO君から渡されて、「俺、この人からお金もらっていいの?」って感じで。しかも俺、その時バイクの事故で足を折っていて、そういう超人ばかりの楽屋で一人動けない状態で。その時にISHIYA君たちが、「お前、今どこに住んでいるの?」「今はコンテナに住んでいるんだよね。夏になると50度くらいあって暑いんだよ」みたいな会話をしていたのはすごく覚えている(笑)。「俺は今、とんでもないところにいるぞ」って思ったね。
ISHIYA:(笑)。まあそんなこともあったけれど、2011年の復興支援でさらに仲良くなっていった感じだよね。
TOSHI-LOW:悪魔超人の中でも、特に優しさの太い人たちと仲良くなっていきました(笑)。
あの頃の原宿の竹下通りには、とにかくパンクスがいっぱいいた
TOSHI-LOW:ISHIYA君の文章は、体験記としてすごく面白くて。めちゃくちゃアウトローな体験をしているのに、そういうことを単に突き放すんじゃなく、入り込んで書いている感じがする。一方で、書けない話もたくさんあると思うんだけれど、それもうまく匂わせるに留めていて、実は品があるんだよね。昭和のハードコアパンクというと、暴力性だとか血生臭さが前面に出てきてしまいがちだけれど、そういう風には書いていない。ちゃんと“今を生きている”人の書き方なのよ。
ISHIYA:見た目通りの品の良さだろ(笑)。正直、過激なものはライブハウスでいくらでも表現できるから、ゴシップはどうでも良いの。本人的には、普通に体験してきたことをただ書いているだけ。でも、どうやら俺の経験は一般の人とだいぶ違っていて、他人から見ると面白いみたい(笑)。だから、変にゴシップに寄せる必要はなくて、誰とどんな風に遊んでいたのかとか、楽屋での話をそのまま書けば良いと思った。逆に、書いてみたらみんなが思っていた以上に読んでくれるから、「マジ?」ってびっくりしている。
TOSHI-LOW:「私観」というのもすごいよね。一人の目線で書かれているからこそのリアリティがあるし、ISHIYA時系列だから、同じ人が何回も登場してくる。それがすごく良くて、誰がシーンにおけるキーパーソンなのかが、だんだんわかってくるの。「あ、またこの人バンドを解散しちゃった!」みたいな(笑)。漫画とか映画にしてほしいもん。
ISHIYA:クドカン(宮藤官九郎)とかにドラマ作ってほしいね。浅野(忠信)君とかTOSHI-LOWが主演で(笑)。
TOSHI-LOW:俺の代わりにうちの嫁使ってください(笑)。
ISHIYA:俺の話はとにかく女っ気がねーんだよ(笑)。もしも創作だったら女の子の話とか書きたかったけれどさ、俺にはそういう才能はない。ノンフィクションの辛いところだね。
TOSHI-LOW:たしかに(笑)。ところで、にら子供(ISHIYAが活動初期の頃に組んでいたバンド)について書かれた回あるじゃない? あの話、俺はキュンキュンきちゃって。高一の時、原宿に遊びに行って、お金ないからただその辺を見て帰るだけなんだけれど、その帰り道でにら子供のテープを拾ったの。
ISHIYA:あはは(笑)! たぶん、原宿でにら子供の誰かが売っていたんだな。
TOSHI-LOW:それで、拾って聴いたらとんでもない作品だった。「野方1丁目クソばばあ Fuck OFF」や「Fuck the ニコマート」が入っていたんだけれど、その歌詞の情報が全て事実だという(笑)。あのにら子供がISHIYA君のバンドだったなんて、この本を読んで初めて気づいたよ。
ISHIYA:にら子供はドキュメンタリーだから(笑)。あの頃は家もなくて、みんなで溜まって生活しているような奴らがいっぱいいたよ。本では、そいつらと遊んでいたことをただ書いているだけなんだよね。
TOSHI-LOW:街を歩いていて、パンクスに「行くとこないの?」って聞かれて、そのまま一緒に住んじゃうのとか、時代背景が見えて良いなと思った。
ISHIYA:あの頃の原宿の竹下通りには、とにかくパンクスがいっぱいいたの。真ん中に弁当屋があったんだけど、そこでミッキーちゃん(にら子供)とか、ヒロシ(ASYLUM)とか、ショウジ(鉄槌)とかも働いていた。ショウジは真面目だから、弁当屋のバイトリーダーみたいな感じだった(笑)。いつもライブハウスで会っていた連中だったから、「何やってんの?」「家がないんだよ」「じゃあ一緒に家に来て遊ぼうよ」みたいな感じになって、付いて行ったら似たような奴がいっぱいいて。まだ10代だったから、そういうノリだったんだよね。