社会は同性愛に対して本当に寛容になったか 昭和の“百合”描く『夢の端々』の問いかけ

 「anan」のインタビューで作者の須藤が「若い人同士の“百合のその後”を描いてみたかったんです」と語っているように、作品に登場する2人の想いが通じた“その後”には厳しい現実が待ち受けているのだ。

 特に女学生時代には優秀で恵まれた容姿を持ち、自信に満ち溢れていた貴代子がミツと生きる未来を捨て、結婚という道を選んだ理由は切ない。同性愛だからというわけではなく、結婚する・しないという選択肢すらまともに与えられなかった当時の女性たちが、普遍的に抱えていた葛藤が伺える。

 当時に比べれば、今は女性の生き方も多様になった。第1話の冒頭で、シングルマザーの杏奈がバツイチの友人とルームシェをするという話を聞き、ミツが「いいわね。今時友達っていっておけば同じ部屋に住むこともできるし同じお墓に入ることだってできちゃうんだもの」と羨む場面があるように、もちろん社会が良い方向に変わった面もある。だが、今なら貴代子とミツが胸を張って共に生きていくことができるか、と言われたら答えに戸惑ってしまうのだ。

 『夢の端々』は繊細で美しい描写で展開され、読了後には思わずため息が出てしまうような満足感を得られる。けれど、同時にずっしりと「二人の結末を先に繋げていかねばならない」という責任が心にのしかかるだろう。貴代子とミツが結ばれなかったから“美しい”のではなく、2人が結ばれて初めて“美しい”と思えるラストを。そのために、私たちに何ができるのか、どうすれば心から愛し合う貴代子とミツが「共に生きる」という人生を選び取ることができるのか、昭和から令和3年の現在まで何が変わって、変わらなかったか。読み終わった後、そんな風に一人ひとりが自問自答する時間を本作は与えてくれる。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■書籍情報
『夢の端々』上下巻(フィールコミックス)
著者:須藤佑実
出版社:祥伝社

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