『鬼滅の刃』冨岡義勇の「決断」が物語を動かした 炭治郎を信じ続けた漢の想い

 物語の終盤――宿敵・鬼舞辻󠄀無惨との最終決戦において、炭治郎が右手1本で刀を握り(左手は使えない状態にある)、荒ぶる無惨を建物の壁に突き刺している場面がある。徐々に朝日は昇り始めており、あと少しだけ無惨の動きを封じられれば、陽の光が彼を灼き尽くしてくれることだろう。

 だが、炭治郎の右手の力は尽き始めていた。頼れる仲間も近くにはいない。それでも刀を放すわけにはいかない彼は、「心を燃やせ」というあの漢(おとこ)の言葉を思い出す。と、そのとき、どこからかグッと力強い左手が伸びてきて、彼の刀の柄(つか)を一緒に掴んでくれるのだった。そう――それは、かつて柱合会議の席で、もしも禰󠄀豆子が人を襲った場合は自分も腹を切る、とまで言ってくれた「水柱」の頼れる手だった!

 ここから先の展開を書くのはよそう。ただ、ひと言だけ言わせてもらえば、第205話の最後に描かれている、集合写真の中の冨岡義勇の顔だけは見落とさぬようにしてほしいものである。それは、辛い過去を背負って戦い続けてきた「水柱」が、ようやく仲間たちに見せることのできた、穏やかな、優しい笑顔だった。あえてそれを海の水の状態にたとえて言うならば、「凪」という言葉がふさわしいだろう。

※読みやすさを優先し、引用したセリフの一部に、句読点を打ちました。ご了承ください(筆者)

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■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『鬼滅の刃(5)』
吾峠呼世晴 著
定価:本体400円+税
出版社:集英社
公式サイト

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