ナチスに恐れられた義足の女スパイ 歴史の影に隠れた女性の活躍
もう一つはヴァージニア・ホールという傑出した女性を中心に浮かび上がる社会の中での女性の活躍の難しさである。
同僚男性とは比べものにならないほど実績を上げ、信頼を築き、仲間から忠誠を尽くされるまでになったヴァージニアであったが、指揮権やリーダーとしての権限はいつまでたっても得られることがなく無能な男性が意思決定の立場に居座り続けた。それは戦争が終わり平時に戻る事でさらに顕著に現れてしまう。
そんなヴァージニアがレジスタンスを組織し武器や物資を手配しフランスで初めて自国民によってドイツ軍から村を解放する。
男性社会への歯がゆさの中、フランスという異国の地でアメリカ人女性がレジスタンスから“崇拝”され、ナチスドイツの圧政から解放するという歴史の事実としてもあまりにヒロイックな話であるが、読書中、「聖母マリア」と呼ばれたヴァージニア・ホールが義足で力強く立つ姿を何度も頭に思い浮かべてしまった。
■すずきたけし
ライター。ウェブマガジン『あさひてらす』で小説《16の書店主たちのはなし》。『偉人たちの温泉通信簿』挿画、『旅する本の雑誌』(本の雑誌社)『夢の本屋ガイド』(朝日出版)に寄稿。 元書店員。
■書籍情報
『ナチスが恐れた義足の女スパイ』著者:ソニア・パーネル
翻訳:並木均
出版社:中央公論新社
https://www.chuko.co.jp/tanko/2020/05/005307.html