『魔法科高校の劣等生』高校生編完結で新展開へ、『わたしの幸せな結婚』は全巻ランクイン ラノベ週間ランキング

 1500万部にはまだ遠いが、伸びる勢いなら負けていないのが顎木あくみ作、月岡月穂イラストの『わたしの幸せな結婚』だ。ランキングで1位となった9月14日発売の最新巻『わたしの幸せな結婚 四』で100万部となり、追いかけるように120万部まで達していたことが発表された。2月発売の第3巻時点では20万部だったから半年で6倍の増加ぶり。ランキングでは既刊も上位を占めた。

 月岡月穂キャラクター原案で、高坂りとが漫画を描くコミック版『わたしの幸せな結婚』(スクウェア・エニックス)も、9月9日に最新の第2巻が出て即増刷。これほどまでの人気は、作品がどこまでもまっすぐな純愛ストーリーになっているからだろう。

 明治・大正の日本といった雰囲気の国では、異能によって異形を討伐できる者が生まれる家系が古くから存在していて、帝を護って国を支えていた。ヒロインの斎森美世も、そうした一族の長女として生まれ育ったが、能力が発現しないまま母を早くに亡くし、その後は父親と再婚相手の継母、継妹の香耶から虐げられ、使用人以下の扱いを受けていた。

 そんな美世に縁談が持ち上がるが、相手は九堂清霞という軍人で、冷酷無慈悲な人物としてよく知られ、過去に婚約者として久堂家に入った良家の子女たちが、3日ともたずに逃げ帰っていた。そんな相手に美世が嫁いだところで、すぐに叩き出されるのがおち。ついでに斎森家からも追い出すことを狙った縁談だったが、意外にも美世は清霞に受け入れられ、強い信頼関係で結ばれるようになっていく。

 虚勢を張らず、自分ができることを精一杯にやろうとした美世に、九堂の家名や清霞の容色が目当ての候補者たちとは違う真心を感じたことが理由。職場や学校、家庭などで居場所を得られず、すっかり自信をなくしてしまった人たちが、ありのままの自分で良いんだと我が身を重ね、自信を取り戻していけることが、評判になっている背景だろうか。男性に従順で、控えめな女性だから受け入れられたのだといった、男尊女卑的な構図だけではない二人の関係に惹かれるのかもしれない。

 文字通りの和風シンデレラストーリーだが、お姫様に選ばれて終わりとはならないところが童話とは違う。『わたしの幸せな結婚 三』では、清霞の母親が斎森家の継母や妹にも劣らない厳しさで美世に接して虐めるが、すでに通った道であり、清霞からの信頼も感じて乗り越えていく。自分に自信を持つこと、信じられる誰かを側に得ることの大切さを教えられる展開だった。

 そんな純愛ストーリーに並行して走っていた、伝奇バトル的な要素が最新巻の『わたしの幸せな結婚 四』で濃さを増してきた。第3巻の終わりに「娘よ」と登場した甘水直(うすいなおし)という男が、美世に秘められていた能力を取り込み、国家に弓を引こうと陰謀を企てる。国家に仇をなす異能心教の活動も活発化。危険を察した清霞は、美世を自分が勤める対異特務小隊の駐屯所に通わせて守ろうとするが、そこで護衛として当てられたのが、陣之内薫子という女性軍人だったことから、美世の心がザワつき始める。

 高い戦闘能力を持ち、清霞の任務の助けになっている薫子に比べ、自分は無能だから身を引くべきなのではと迷う美世。薫子も内心では清霞を思い続けていて、美世に優しく接するようで自分の有能さを見せつける。繰り広げられる女の戦いは、美世のなかなか抜けない卑下と自虐の性質を浮かび上がらせる。

 内にも敵はいて、美世の母親の家系が国家に徒なす碓氷家だという理由から、対異特務小隊の駐屯所内で美世に疑いの視線が浴びせかけられる。それ以前に、ただ女性だからという理由で、男には敵わないという固定観念から、美世だけでなく薫子までもが同僚たちから見下される。将棋界が舞台の柳本光晴の漫画『龍と苺』でも描かれた、男尊女卑の風潮に立ち向かう美世が、「ガラスの天上」に負けない強さを読者にもたらすだろう。

 ヒットを祝うように、人気声優の石川界人が清霞、上田麗奈が美世、八木侑紀が香耶を演じたPVが公開。ハマり過ぎの声にキャラたちが肉体を持って浮かび上がってくる。次はアニメ化か映画化か。大いに期待したくなる。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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