『ビブリア古書堂の事件手帖』著者・三上延が語る、横溝正史へのオマージュとシリーズ10周年の構想
「ビブリア」シリーズ10周年に向けて
ーー扉子というキャラクターは、いつごろ思いつかれたんですか?
三上:第1部の6巻か7巻あたりから、作中の時間と書いている現在の時間が離れてきました。そこで、子供が生まれていたらどんな感じになるかを考えているうちに浮かびました。いるとしたら一人娘で、やっぱり栞子に似ていて……といった感じにイメージが膨らんでいきました。
ーー母親が「栞」で娘が「扉」。名前は本の部分から取ってますね。「天」や「背」ではなく。
三上:あまりこだわりはなかったんですが、読者的にイメージを浮かべやすいでしょう。小口はスピンオフ(峰守ひろかず著『ビブリア古書堂の事件手帖スピンオフ こぐちさんと僕のビブリアファイト部活動日誌』)ですでに使われていたので、被らない方がいいだろうと。
ーー最新刊で扉子は、母親に負けない推理力を『獄門島』が出てくる第二話で見せてくれます。これからはやはり扉子が主役になっていくんですか?
三上:次かその次あたりで主人公は完全に扉子にして、大輔や栞子は出てきても直接事件に関わらない形にしていきたいと思っています。まだはっきり決まっている訳ではないですが、大輔や栞子に海外出張が入って、どちらかが不在で、店番に扉子がいるといった感じになるのでしょうか。
ーーとても楽しみです。でも、本に関するネタを考えるのは大変そうですね。
三上:3巻か4巻くらいでネタはほぼ尽きて、やりくりしながらやってきました。毎度のことですが、もうダメだ、思いつかないといった所から走っています。続けて行く難しさはいつも痛感しています。ただ、来年の2021年には出すつもりです。「ビブリア」の10周年でもあるので、出ていた方がいいだろうなと。2021年の話にするか、もっと未来の話にするか、はるか昔の事件を振り返るか。まだはっきり決まっていませんが。
ーーコロナ禍もあって、同時代をどう描くかが大変になっていますし。
三上:今の状況にはびっくりしました。まさかオリンピックがなくなるなんて。こうした状況を書くか書かないか……新型コロナウイルスが流行しなかった世界を描くという選択肢もありますが、「ビブリア」に関しては難しいですね。東日本大震災が起こったのにコロナ禍が起こっていないということはないでしょう。普段、本を読んだりする時の心理は、その時に何が起こっているかに左右され、影響される。古本業界だと、大きな震災があると本が市場に出てきたりします。手放したりとか。そういうことを無かったことにするのは、私の中には納得できないものがあります。
――最後に最新刊の読者、「ビブリア」シリーズのファンにメッセージを。
三上:今回の巻に関しては、横溝の要素をいろいろな形でバラバラにして入れてあるんですよ。どこにどんな要素があるのかを探しながら読んでもらえると嬉しいなあ。好きな横溝作品のことも言いましたが、今回の第1話の冒頭は『車井戸はなぜ軋る』のオマージュなんです。読んで「おっ」と思ってくれる人がいたら嬉しいですね。
■三上延(みかみ・えん)プロフィール
1971年神奈川県横浜市生まれ。10歳で藤沢市に転居。市立中学から鎌倉市の県立高校へ進学。大学卒業後、藤沢市の中古レコード店で2年、古書店で3年アルバイト勤務。古書店での担当は絶版ビデオ、映画パンフレット、絶版文庫、古書マンガなど。2002年に電撃文庫『ダーク・バイオレッツ』でデビュー。2011年に発表した「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズは累計700万部を突破するベストセラーになり、TVドラマ化、実写映画化、コミカライズ、スピンオフ小説などのメディアミックス展開もされている。
■書籍情報
『ビブリア古書堂の事件手帖II~扉子と空白の時~』(メディアワークス文庫)
著者:三上延
イラスト:越島はぐ
発行:株式会社KADOKAWA
発売:2020年7月18日※電子書籍同日配信
定価:本体630円+税
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000211/
【あらすじ】
ビブリア古書堂に舞い込んだ新たな相談事。それは、この世に存在していないはずの本――横溝正史の幻の作品が何者かに盗まれたという奇妙なものだった。
どこか様子がおかしい女店主と訪れたのは、元華族に連なる旧家の邸宅。老いた女主の死をきっかけに忽然と消えた古書。その謎に迫るうち、半世紀以上絡み合う一家の因縁が浮かび上がる。
深まる疑念と迷宮入りする事件。ほどけなかった糸は、長い時を超え、やがて事の真相を紡ぎ始める――。