『探偵はもう、死んでいる。』『竜と祭礼』……新時代を拓く、新人賞発の尖ったラノベたち
アニメ化で盛り上がった山口悟『乙女ゲーム破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(一迅社文庫アイリス)(以下・はめふら)や、ランキング常連の日向夏『薬屋のひとりごと』(ヒーロー文庫)は、ネット連載が評判になって書籍化された。もっとも、ライトノベルのレーベルが開催している新人賞も、作家になる門戸として今も大きな役割を果たしている。目利きともいえる選考委員や編集者のセレクトを経る分、どこか尖った所を持った作品が出てくるのだ。最近の新人賞組で、新時代を拓きそうなシリーズや作家を並べてみた。
第15回MF文庫Jライトノベル大賞で大賞を獲得した作品が二語十『探偵はもう、死んでいる。』(MF文庫J)。『はめふら』のように長文で説明的なタイトルが増える中、シンプルな上に意味深なタイトルは珍しく、読んでみようかと興味を惹かれる。探偵が登場するならミステリだろうか。そう思わせておいて物語は、とんでもない方向へと転がっていく。
君塚君彦という男子中学生が、飛行機の中で「お客様の中に、探偵の方はいらっしゃいませんか?」というCAの呼びかけに答え、「はい、私は探偵です」と立ち上がった美少女にむりやり助手にされ、ハイジャック犯を捕まえる。シエスタと名乗った美少女は名探偵で、以後3年にわたって君塚を引っ張り回し、そして死んでしまう。
ここまでがプロローグ。ヒロインで名探偵というキーパーソンがいきなり不在となって大丈夫か? そう心配させた物語は、高校生になった君塚の前に夏凪渚という少女が現れ、彼の顔を自分の胸に押し当てる。ラブコメでも始まるのかと思ったら、《人造人間》を作り世界を脅かす秘密組織で、シエスタを殺した《SPES》を相手にした戦いへと進み、異能バトルの様相を呈してくる。
病弱だった渚に移植された心臓が鍵となって、不在の探偵を蘇らせる展開が"遺志"を受け継ぐ物語なのだと理解して、続く『探偵はもう、死んでいる。2』を開いたら、無関係に見えたシエスタと渚のつながりが浮かび、死んでしまったシエスタが以前から出会いを仕組んでいたことが分かってくる。そして、6月25日発売の最新刊『探偵はもう、死んでいる。3』で、人類対異星人といった壮大でSF的な設定が見えてくる。
異世界転生ものなど、特定のジャンルにある決まり事の上で工夫されるアイデアを楽しむタイプの物語とは真逆の、巻を重ねるたびに設定が増え、ジャンルが広がっていくびっくり箱のようなシリーズ。最新刊でロンドンブーツ1号2号の田村淳が帯にコメントを寄せていたのにも驚かされた。意外な読者層を獲得しながらどこまで話が広がっていくのか。続きが気になって仕方がない。
第11回GA文庫大賞で奨励賞を獲得した筑紫一明『竜と祭礼 ―魔法杖職人の見地から―』(GA文庫)は、異世界ファンタジーだが転生や異能とは無縁。魔法に使う杖を作る職人の弟子だったイクスを尋ねてきた少女が、父から受け継いだ杖の修理を依頼する。調べると力の源となる芯材が千年以上前に絶滅した竜の心臓と分かり、実在するかも怪しい材料を求めて2人は旅に出る。
見つけ出すまでの道程で2人は図書館で文献を調べ、人から伝承を聞き、推理も重ねて竜の心臓とは何か、竜とは実在するのかといった謎を解き明かす。形式化している祭りの本来の意味を考え過去に迫るなど、民俗学や文化人類学のようなアプローチ方法が学術ミステリとしてのテイストを味わわせる。
最新刊『竜と祭礼2―伝承する魔女―』(GA文庫)では、村はずれの森に住み、祭りの時に人をさらい喰うと言われている不老不死の魔女についての探求から、伝承が生まれる背景と、それが人間の暮らしに果たす役割を教えられる。続く第3巻では何を題材に扱うのか? 引きつけられるシリーズだ。