乃木坂46×西加奈子「サムのこと」は4期生たちの歩む道程まで照らす ドラマ版の再解釈を読む

 西加奈子の最初期の短篇「サムのこと」が乃木坂46の4期生メンバー主演でドラマ化(全4話)され、3月20~28日にかけてdTVにて順次配信を開始した。また3月6日には、「サムのこと」をはじめとする西の短篇3作で編まれた、『サムのこと 猿に会う』(小学館文庫)も刊行されている。もともと、西のデビュー作『あおい』(2004年、小学館)に収録されていた「サムのこと」に、ドラマ化と新たな文庫刊行によって新たな形で光が当てられたことになる。同書の表題に掲げられているもう一つの短篇「猿に会う」もドラマ化され、4月10日からの配信が予定されている。

西加奈子『サムのこと 猿に会う』(小学館文庫)

 「サムのこと」は、事故で急逝した青年「サム」の通夜に集まった仲間たちのやりとりを通して故人の断片が語られていくうち、やがてその記憶を介して仲間たち自身の内面や生きるスタンスが照射されてゆく作品である。今回のドラマ化と文庫刊行の連動は、一方では西のキャリア初期の創作を掘り起こしてみせるものであり、また他方では乃木坂46がデビューから一貫して志向してきた、俳優を涵養するグループとしてのあゆみに新たな一歩を加えるものだ。

 乃木坂46は舞台演劇と映像作品との両輪を用いて、かねてより「演じる」機会を意識的に設けてきた組織である。舞台については演劇企画「16人のプリンシパル」シリーズを端緒として育成を続け、演技に適性のあるメンバーを演劇界に輩出してきた。今回のドラマでメインキャストとなる4期生たちも2019年、谷賢一の演出で後継企画「3人のプリンシパル」を経験している。

 他方で映像作品においては、いまや累計400作をゆうに超える乃木坂46の独自コンテンツ「個人PV」や、ドラマ型MVを絶えず制作してきた歴史がグループの礎となっている。そうした蓄積を踏まえて、よりドラマに特化したプロジェクトとしてあるのがdTVによる「乃木坂46×西加奈子」企画だといえる。昨年末にFODでスタートした「乃木坂シネマズ」も含め、個人PV等の発展的な派生プラットフォームとして、乃木坂46はこれらの動画配信サービスを活用し始めたとみることができよう。

 さて、「乃木坂46×西加奈子」の第1作として配信されているドラマ版「サムのこと」(監督:森淳一、脚本:三嶋龍朗)は、原作と比べて基本設定に大きな改変がみられる。それだけに、ドラマ版オリジナルの世界観が西による原作のエッセンスをいかに継承しているか、そしてまたドラマ版特有の設定が、主演を務めるメンバーの身体を通してこその作品解釈として、いかに有機的なものになっているかが肝となる。

 サムの通夜に集まった仲間たちのやりとりを主にした物語の展開は、小説版もドラマ版も共通している。しかし、原作小説では学校やアルバイト先を通じて友人同士になった、カップルを含む男女グループとして登場するサムの仲間たちが、ドラマ版ではサムを含めた5人組の女性アイドルグループの元メンバーたちに置き換えられている。そしてドラマは、グループ解散後それぞれの道を歩む彼女たちが再会するサムの通夜パートと、グループ活動時のサムと各メンバーとにまつわるエピソードを回想する過去パートを前後させながら進行する。

 一見するとこれは、「乃木坂46」であるメインキャストたちの属性にシンプルに引き寄せた改変ではある。とはいえ着目すべきは、登場人物たちが同一の仕事を共有しながらともに時間を過ごすことになるこのオリジナル設定によって、サムという人物の独特のとらえがたさと周囲の人物たちが抱える葛藤との対照が、原作とはまた違うスタイルで明快に表現されている点である。

 遠藤さくらが演じるサムは、ときに配慮を欠いた振る舞いを見せ、ときにおせっかいさと鋭い観察眼を併せ持つ、いくぶんやっかいな人物として仲間たちの前に立ち現れる。セクシュアルマイノリティとしての自己認識をもつアリ(早川聖来)に対して、サムは「LGBT」という言葉を流行りのフレーズとして軽薄に消費してみせ、またアルコールに依存しトラブルを起こしたキム(田村真佑)に対しては、土足で踏み込むように粗雑な「解決」へと導いてみせる。モモ(掛橋沙耶香)やスミ(金川紗耶)が抱える葛藤にも、サム特有の目ざとさや偶然か意図的かわからないタイミングのよさで介入し、彼女たちの行動に変化を起こす契機を作ってゆく。

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