『鬼滅の刃』ノベライズ100万部突破で注目 JUMP j BOOKS編集長が語る、公式スピンオフにかける熱意

 集英社JUMP j BOOKS編集部(以下j BOOKS)から刊行された『鬼滅の刃』のノベライズ版が『しあわせの花』『片羽の蝶』の2冊で累計発行部数100万部を突破した。ヒットマンガは数あれど、何十万部も売れる小説版タイトルを複数抱えているのはj BOOKSだけだ。しかも2018年に千葉佳余編集長になって以降、売上が伸び調子にあるという。千葉編集長に現在のj BOOKS好調の背景とオススメ作品を訊いた。(飯田一史)

j BOOKSはファンのツボを突いたスピンオフに強い

千葉編集長が手がけた『岸辺露伴は叫ばない』『岸辺露伴は戯れない』。

――千葉さんをご存じない読者に向けて、まずはj BOOKSでどんな作品を担当されてきたのかをお話ください。

千葉:私は少女小説のコバルト文庫、ライトノベルのスーパーダッシュ文庫、児童文庫の集英社みらい文庫を経て、2016年に副編集長としてj BOOKSに異動してきましたが、ここでは担当はほぼ持っていないんです。ただ私が中心となりまとめたものとして『岸辺露伴は叫ばない』『岸辺露伴は戯れない』という『岸辺露伴』シリーズがあります。実は私は入社時に「週刊少年ジャンプ編集部でジョジョを担当したい!」と言っていたほどの岸辺露伴大好き人間でしたので、この本を担当できたときには「自分の夢が全部達成できた……」と思うくらい嬉しかったですね。

 『ジョジョの奇妙な冒険』のノベライズには乙一先生、西尾維新先生、上遠野浩平先生、舞城王太郎先生といった著名作家さんが手がけたものがあります。でも『岸辺露伴』はほぼj BOOKSやスーパーダッシュ文庫の新人賞出身者で固めたアンソロジーなんですね。作家さんの知名度は乙一先生たちほどではありませんが、みなさんジョジョ愛が非常に深く「これは露伴が言いそう!」というセリフに満ちていて、読者の反応もすごくよかったです。

――先日、『鬼滅の刃』の小説が累計発行部数100万部突破というプレスリリースが出されましたが、それ以外で好調なタイトルをいくつか教えてください。

『サスケ烈伝』。原作ではあまり描かれなかったサスケとサクラのスピンオフ。

千葉:そもそものj BOOKSの特徴を申しますと「スピンオフに強い」んですね。たとえば『ONE PIECE』の小説版と言っても、みらい文庫では原作のお話をそのままなぞるほうが好まれますが、j BOOKSでは「小説オリジナルでエースの話を掘り下げる」といったものの方が好まれます。映画のノベライズを除くと基本的にはいずれもスピンオフです。

 そして数あるマンガ作品の中にも、小説と特に親和性がある作品があります。

 「烈伝シリーズ」というかたちでノベライズを展開している『NARUTO ‐ナルト‐』の『サスケ烈伝』が去年ヒットしました。表紙はサスケとサクラなのですが、岸本(斉史)先生がこのふたりを描き下ろした表紙はすべての『NARUTO -ナルト‐』の本の中でこれだけなんです。ふたりがカラーで並ぶのはすごく珍しい。小説の内容的にも国内のみならず海外からも「ありがとう!」「まさかやってくれるなんて!」というメッセージが届きました。ノベライズを執筆された江坂純さんは語学が堪能でTwitterに英語での感想が来るとご自身でリプを返していらっしゃいましたね。烈伝シリーズはだんだん分厚くなり最新巻ではハリウッド大作のような星を救うスケールのアクションになって全キャラ出てくるという、すごい読み応えになっています。私は読みながら脳内で『アルマゲドン』のサントラが流れ出しました。

――(笑)。今も続いていて巻数が一番多いタイトルというと……?

千葉:『ハイキュー!!』ですね。各キャラ、各学校にファンがいる作品ですから、まったくネタ切れせずに続けられています。最近本誌で「2年後……」という時間を一気に飛ばす展開がされてみなさん驚かれたと思いますが、われわれからすると「その2年間のことを書ける!」。それは「週刊少年ジャンプ」編集長の中野(博之)にも言われました。もちろん読者それぞれがその2年のことを想像して楽しんでいらっしゃると思います。j BOOKSは「小説で書かれていることが公式の見解です」とまで強くは言いません。ただ「こんな話もあっていいのでは」くらいに受け取ってもらえればと思って作っています。

「公式」感の追求

――でも公式感は大事にされていますよね?

千葉:私たち自身、その点には自負を持って制作しています。マンガ家さんの監修があり、絵も描いていただくという点に限らず、小説家も担当編集者も作品に思い入れがある人を選び、原作ファンに寄り添い、本当に喜んでいただけるものをつくることで公式感を最大化したい。

 小説まで買ってくださるのは想いの強いファンです。また、間近でマンガ家さんや編集部の苦労を見て「毎週あの熱量のマンガを作るのはどれだけ大変か」をひしひしと感じていますから、原作者ではない別の作家が書くものであっても「このキャラの言葉は本物だ」と読者が思ってくれるものを目指して作っています。

 ですからネットの反応は良いことも批判的なことも両方受けとめ、次に活かしています。「このキャラをこんな風に書いたら反響がよかった/よくなかった」は顕著にわかりますから。

――企画の立て方はどんなパターンが多いですか?

千葉:一番多いのはマンガ担当とノベライズ担当がやりとりをして出てきたネタを作家さんに話してプロットを出してもらう、というものですね。「もともと小説を書きたかった」というマンガ家さんもいて、積極的にアイデア出しをしてくださることもあります。

 私は今のj BOOKS編集部の中では新参者の方なんですね。私以上に社員3人、フリー4人のスタッフのほうが「j BOOKSはどうあるべきか」がよくわかっていますから、どんなかたちで出てきたネタであれ、作家と担当編集から生まれてきたものに対して私はなるべく口を出さないようにしています。編集長権限での却下はしない。

――j BOOKS作品は書店でコミックスと並べて置いてもらえるように発売日はコミックスと同時か1カ月違いになるべく設定していると聞いています。それって小説の内容の調整が難しくないですか? どこまで書いていいのかの加減が。

千葉:コミックス派の人がショックを受ける内容にならないように「どこまで書いていいか?」ということはマンガの担当に確認します。ただそれだけでなく、コミックスとの内容的な連動も意識しています。たとえば『鬼滅の刃』の2冊目では同時発売のコミックスでしのぶの急展開が描かれていましたので、小説版では彼女が子どものころの話を入れました。また、『約束のネバーランド』では「マンガではつらい展開が続いているから小説では楽しかったころを描こう」と方針を立て、みんながママと楽しく暮らしていた時期のこと、あるいはシスタークローネがシスターになるまでのお話などを書いたんですね。

 発売タイミングでどのキャラクターをフィーチャーするかは編集部発、先生発に限らずアイデアを出し合いながら決めています。

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