『本好きの下克上』『PUFF パイは異世界を救う』……異世界ラノベ、新潮流は“知識の活用”?

 本への欲求と紙作りの知識がマインを救ったのだとしたら、羊山十一郎の『PUFF パイは異世界を救う』で吉見龍太郎という男を救ったのは、歌舞伎町で培った呼び込みの才能だ。仕事中に殴られた龍太郎が気付くとそこは異世界。世話になった食堂の娘が奴隷として売られようとしていたのを救おうとして、「ぱふぱふ」する場、つまりはおっ◯いパブを開店して金儲けを始める。

 『本好きの下克上』の舞台にも劣らず、娼館があって奴隷もいて性病もあるリアルでシリアスな世界が舞台。神様による異能も与えられていない龍太郎にあったのは、呼び込みとして鍛えに鍛えたコミュニケーションの能力だけだったが、商売敵の妨害をしのぎ、みかじめ料を求めるヤクザを納得させ、起こる連続娼婦殺人事件すら解決して店をしっかり軌道に乗せる。

 第2巻では、雇った娘たちに金を持ち逃げされるピンチに直面し、劣情を誘う呪いをかけられた本来はうさぎの少女を救おうと奔走する。悲惨な境遇から女性たちを救いたいという願いを持った龍太郎の商道に明るい未来はあるのか。追いかけていきたいシリーズだ。

 「小説家になろう」などネット発の作品を単行本化する試みでは後発の講談社レジェンドノベルズも、ある種のパターンからズレた異世界転生物をネットからピックアップし出している感じ。のらふくろう『予言の経済学1 巫女姫と転生商人の異世界災害対策』は、大学で経済学を学んでいた青年が転生した先で、誰も信じようとしない巫女の予言を経済の知識で補い、説得力を持たせ戦力を動かして魔物の厄災から国を救う。

長田信織『数字で救う! 弱小国家 電卓で戦争する方法を求めよ。ただし敵は剣と火薬で武装しているものとする。』(電撃文庫)

 学問といえば、電撃文庫から4巻まで刊行中の長田信織による『数字で救う! 弱小国家 電卓で戦争する方法を求めよ。ただし敵は剣と火薬で武装しているものとする。』シリーズも、現代から異世界へと転移した青年が、持てる数学の知識を活かしてお姫さまをサポートし、国の危機を救うというもの。重版がかかりコミカライズも進んで次はいよいよアニメ化か?

 紙作りでもお◯パブの運営でも予言者やお姫さまの補佐でも、武力や異能ではなく知識そのものが役立つ異世界転生物をずらりと並べて言うとしたら、女神の恩恵などあてにせず、ちゃんと勉強はしておこう、いつか来るかもしれないその時に備えてということか。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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