平野啓一郎、文学ワイン会で明かす『マチネの終わりに』創作秘話「けっこう僕は、愛を書いてきた」
2杯目のワインは、蒔野と洋子がパリのレストラン再開したシーンを念頭に置き、フランス・ボルドーの赤ワイン。ここからは再び、映画『マチネの終わりに』の話題に。蒔野役の福山雅治、洋子を演じた石田ゆり子について平野は、「石田さんは、以前から原作を読んでくださっていて。洋子はすごく仕事ができる女性として描いているんですが、とてもチャーミングに演じてくださいました」、「福山さんも原作を気に入ってくださっていたらしくて。ミュージシャンだから、ギターの扱いも上手い。しかも、すごい努力でクラシックギターを練習されて。取り組みの姿勢に感銘を受けました。何度か食事にも行きましたけど、本当にカッコいいんですよ」とコメントした。
イベント中には、小説の技巧、描写に対する考え方を披露する場面も。「小説は文字記号で表わすものだけど、読者の語感に訴える描写が大事」、「小説は時間芸術だから、全体を考えるときは、音楽を比喩的に参照したほうが構成しやすい。アルト、ソプラノがいて、それぞれがどう絡み合い、進行していくか…というふうに。ただ、各場面は、絵画的に考えたほうがいいんですよね」、「小説は人間を理解するためのもの」など、平野文学の本質が垣間見えるような言葉を数多く聞くことができた。
最後は参加者からの質問コーナー。「子供の頃の印象的な思い出は?」「小説の題材、テーマはどうやって決めるんでしょうか?」「小説を書く際、取材はしますか?」「どんなワインがお好みですか?」といった質問に丁寧に答えた。ちなみに筆者の質問は「クラシックギターで1曲弾くとしたら、どの曲を選びますか?」(平野はギター好きとしても知られる)。答えは「『カヴァティーナ』は弾いたことあります。映画『ディア・ハンター』のテーマ曲。映画の狂気の世界と、美しい曲の組み合わせが効果的だった。それは『マチネの終わりに』を書くときも念頭にありました」だった。
現在、平野は新作『本心』を北海道、東京、中日、西日本新聞で連載中。AI・VRをテーマにした本作では、社会の状況と向き合いながら、野心的にした普遍的な作品を追求し続ける平野の新たな文学世界にも大いに注目してほしい。
(取材・文=森朋之/写真=北沢美樹)
■書籍情報
『マチネの終わりに』(文春文庫)
平野啓一郎 著
価格:935円(税込)
発売/発行:文藝春秋
『マチネの終わりに』特設サイト:https://k-hirano.com/lp/matinee-no-owari-ni/