中嶋ユキノ、浜田省吾と10年で築いた特別な信頼関係 『Traveling Heart』に詰め込んだ人生と音楽の旅路

メジャーデビュー10周年を迎えた中嶋ユキノが、3年ぶりの新作『Traveling Heart』をリリースする。フルアルバムはなんと8年ぶりだが、これまで配信リリースしてきた6曲に、書き下ろしの新曲7曲を加えた13曲入り。既発曲を新たに録音したものもあり、今の中嶋ユキノの歌が詰まった作品になった。メジャーデビュー以来のプロデューサーである浜田省吾が今作でも共同プロデューサーとして名を連ね、楽曲制作にも協力している。10年分の想いを込めた新作について語ってもらった。(今井智子)
過去も未来も全部抱きしめながら人生の旅をしていきたい

ーーリリースは2023年のEP『新しい空の下で』以来ですが、フルアルバムは8年ぶりになるんですね。さぞ力の入った制作だったかと思いますが。
中嶋ユキノ(以下、中嶋):はい、この3年も配信シングルをコンスタントに出していたんですけど、アルバムをつくるという喜びはすごいものがありました。パッケージになっていない曲が増えてきたこともありフルアルバムを出そうとスタッフと話をして、配信でリリースした6曲プラス新曲に、と。やはりCD世代なので、かたちで残したいという思いがありました。
ーー親しんできた曲があるから聴きやすさもありますね。
中嶋:ライブでやっていた曲もあるので、10周年を彩るベストアルバムのような1枚になったなと思います。
ーーアルバムタイトルが『Traveling Heart』。1曲目の「こころトラベル」がリードトラックということでしょうか。他にも旅がモチーフの曲がありますね。ツアー「アコ旅」などで全国を旅してこられたからこその作品かと。
中嶋:タイトルの候補はいろんなのがあったんですね。私、9月13日生まれで13という数字にピンとくることがあって。今回13曲入りなので“13 stories”がいいかなとか思いながらレコーディングに入ったんですけど、「こころトラベル」のレコーディングをした時、今の等身大の自分を表現している曲になったと思ったんです。アルバムはタイトルを英語表記にしたものですけど、“こころの旅”ということで、日常の暮らしの中で、目の前で起きていることだけではなくて、ふと過去にあんなことがあったなとか、「これからどうなって行くのかな」と未来を考えたりとか、誰もが日常でこころの旅を気づかないうちにしてると思うんです。今も過去も未来も全部抱きしめながら人生の旅をしていきたい、ということからこのタイトルにしました。
ーー人生を旅に例えることはよくありますが、比喩的な意味だけでなく中嶋さんは実際の旅も多いから、そうした経験とも重なっていますね。
中嶋:そうですね。このアルバムの曲作りがスタートしたのが2025年夏頃なんですけど、新曲を作ろうという時にライブで大分に行くことがあって。ドラムから始まる曲にしたいなと思いながら、羽田から大分に行く飛行機の中から東京を見下ろしたら、「自分のいる場所ってこんなに小さいんだ!」って。そして大分空港から街に向かうバスの中から見えた海がとても広く感じて。その時に、これだ! とiPhoneのメモに歌詞を書きました。まさに旅の中で書いた曲なんです。イントロのドラムはデモの段階で自分で打ち込んで、本番は絶対生ドラムで録音したいと思っていました。サビでドッカーン! というより全体で広い大地を思い描いてもらえるような歌にしたかったんです。
ーー順番に伺いますが2曲目「カンガルーファイター」は、よく映像で見るカンガルーのボクシング的な姿を思い浮かべますが、浜田さんとの共作ですね。このタイトルのワードが中嶋さんのアイディアか浜田さんなのか興味が湧きます。
中嶋:タイトルの「カンガルーファイター」を考えて下さったのは浜田さんです。この曲は、歌詞とメロディをフルサイズで書いてデモを作って、浜田さんに聴いていただいたんですね。テーマは同じなんですけど、全然違う歌詞を書いていました。そしたら浜田さんが後日「こういう歌詞はどうかな?」と新しい歌詞を送って下さったんです。これはライブでも歌っているんですけど、サビのところで「パンパンパパパン」という応援の手拍子を、お客さんやメンバーと一緒にやると、会場にいる全員をそれぞれ応援してるみたいで、すごくいいんですよね。
ーーそれに続く「Can’t stop this feeling!」はパワフルなロック曲で、浜田さんへのオマージュかと思ったりもします。
中嶋:この曲はパソコンに溜めていたデモを整理していたら、ギターをかき鳴らしながら歌ってるロックテイストな曲が出てきて、今までにはない感じのロックな曲ができるかもしれないと思って書いたんです。浜田さんのライブサポートをやらせていただいているので、影響を受けているのかもしれませんね。
ーー4曲目「あとほんの少しだけ」は、しっとりしたピアノの弾き語りで中嶋さんのパーソナルな感じが伝わります。
中嶋:これは2009年、私が20代半ばぐらいに書いた曲なんです。ライブでも1回ぐらいしか歌ったことがなくてずっとパソコンの中にしまわれていたんですけど、ライブで「未発表曲です」と去年やったこともあって、かたちにしたいなと思って17年の時を経て完成させました。20代の頃に書いた曲は3rdアルバムぐらいまでにだいたい収録されているんですけど、この曲を作った頃はいろいろうまくいかなくて、好きな人ともうまくいかないみたいな時期があって、自分の思いを人に伝えることができなかったんです。その時の自分を「大丈夫」と抱きしめてあげるというか、その時の自分を肯定するというか。こんな私もいたなって思う曲です。
ーー「夕日のひと滴」はアコギでの曲ですが、これも浜田さんとの共作ですね。フォークロック調と言いますか、浜田さんらしさも感じさせるアレンジが印象的です。
中嶋:この曲は、カントリーっぽい歌を作ろうということで、私がギターを弾きながらラララで歌った曲のデモを送ったところ、10日後ぐらいに浜田さんから「こんな歌詞を書いてみたんだけどどうかな?」ってメールが来たんです。その歌詞を見たら、この曲はこの歌詞以外にないなという気持ちになりました。
ーーそういうデータには浜田さんの仮歌が入っているんですか?
中嶋:ないんです! 浜田さんはメロを聴いて作られていると思うんですけど、符割が合わなくて「ここはどうやって歌うんですか?」「合うはずなんだけどな〜」ってメールでやりとりしながら(笑)。レコーディングで歌録りして行く中で、サビの2行目の〈コードが見つからない〉、最後の〈コーダが見つからない〉、浜田さんはここを最後の最後まで悩まれていて。コードは和音、コーダは曲の最初に戻ることですけど、言葉ひとつひとつの意味を大切にされているのを実感しました。

ーー浜田さんが中嶋さんに歌って欲しいと思って書いてるのがわかる気がします。次の「いつかキミと海辺の町で」は歌詞が浜田さんとの共作ですね。歌詞にあるように、本当にその町で暮らしてみたいと思ったりも?
中嶋:この曲は、2023年に『新しい空の下で』ツアーが終わって、海が近くにある町で10日間ぐらいギターやキーボードを持ち込んで一人音楽合宿をしたんです。その時に作った曲なんですけど、メロディが先にできて、どんな歌詞にしようかなと思いながら商店街を歩いていたら、楽しそうに買い物するご夫婦や、仲良さそうに歩くカップルがいて、そういう風景を歌詞にしたらいいかなと。街中で育ったので、海が見えるところに住む生活を初めてしてみて、このままゆったりした時間が流れるのもいいなと思ったりもしました。ただ私は車の免許を持っていないので住むには不便だなと思いましたけど、でもすごくいい合宿でした。歌詞を全部私が書いた後で、何カ所か「こんなアイデアはどう?」と浜田さんにご提案をいただいて、歌詞を磨いていきました。
ーー具体的に、どんなふうにブラッシュアップしていかれるんでしょう。
中嶋:1サビの〈汐風 潮騒 裸足歩く砂浜〉という部分とか、そういう細かい描写ですね。私は実際に起きた出来事とか、鉤括弧でセリフを入れるのが好きなタイプですが、浜田さんには、風景の細かい描写などを足していただきました。〈あんなに暑かった夏なのに〉というところは「買い物袋を片手ずつ持って」と書いていたら、「買い物袋という言葉はこの歌には合わないかも…?」と言われて、「確かに!」って(笑)。



















