稲葉浩志、歌声が生む確かな説得力 誕生日に振り返る、他者との“共鳴”を通じて新たな表情を魅せた1年

 日本のロックシーンを代表する存在の一人である稲葉浩志。長きにわたり、B'zのボーカリストとして第一線を走り続けてきた彼だが、その表現欲求の発露はひとつの場所にとどまらない。本日9月23日、彼はまた新たに歳を重ね、誕生日を迎えた。この佳節にあたり、この稀代のシンガーがこの1年間で歩んできた軌跡をじっくりと振り返ってみたい。なぜなら、ここ最近の彼のパーソナルな活動は、これまでの長いキャリアのなかでも特筆すべきほどに“他者との共鳴”と“ジャンルの越境”に満ち溢れていたからだ。

福山雅治、スカパラとの共演からWBCテーマ曲まで 多彩なコラボに富んだ一年

 まず振り返っておきたいのが、昨年12月24日に配信リリースされた福山雅治とのコラボレーション楽曲「木星 feat. 稲葉浩志」だ。福山が主演を務める映画『映画ラストマン -FIRST LOVE-』の主題歌として制作された本作は、作編曲、プロデュースを福山、作詞を稲葉が手がけたロックバラード。制作時は、まるで学生時代のような時間を2人で過ごしたそうで、そうした親密な空気感がそのまま楽曲に滲み出ている。ちなみに、ジャケットに記された「木星」の文字は、タイトルが決まった際にレコーディングスタジオで稲葉が書いたものがそのまま採用されたという。『第76回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の特別企画でテレビ初披露されると、しっとりと溶け合う2人のハーモニーが大きな反響を呼んだ。この曲との縁は年をまたいでも続き、今年8月23日、京セラドーム大阪で行われた福山のドームツアー千穐楽に、稲葉がサプライズで登場。「木星」だけでなく福山の代表曲「HELLO」まで肩を並べて歌ったという。

福山雅治 - 木星 feat. 稲葉浩志(映画『映画ラストマン -FIRST LOVE-』主題歌)

 もうひとつの大きな軸となったのが、東京スカパラダイスオーケストラ(以下、スカパラ)との共演だ。スカパラが2022年から展開する「VS.シリーズ」は、単なるフィーチャリングではなく、楽曲制作の段階からゲストと戦うように音楽を作っていく企画。それまでALI、Chevon、TK(凛として時雨)を迎えてきたシリーズの第4弾に稲葉が抜擢され、生まれたのが「Action (VS. 稲葉浩志)」「タイムカプセル (VS. 稲葉浩志)」の2曲である。ホーンセクションが跳ねまわるアッパーなスカサウンドに乗せて、メロディをはみ出さんばかりのパッションで歌いまくる稲葉の姿が話題を呼び、3月には「THE FIRST TAKE」にも登場。2曲は今年3月に発売されたスカパラのオリジナルアルバム『[SKA]SHOWDOWN』にも収録されている。さらに3月31日には東京ガーデンシアターで同名のライブイベントが開催され、歴代のゲスト陣が一堂に会するなか、稲葉もステージに立った。個性の異なるアーティストたちがスカパラを軸に集うという、シリーズの集大成にふさわしい夜になったようだ。

東京スカパラダイスオーケストラ VS. 稲葉浩志 - Action / THE FIRST TAKE
タイムカプセル (VS. 稲葉浩志) [from[SKA]SHOWDOWN 2026.3.31 at TOKYO GARDEN THEATER ]

 今年3月に開催された『2026 ワールドベースボールクラシック』でも、稲葉は重要な役割を担った。日本が前回大会王者としての連覇を賭けたこの大会を、Netflixが日本国内で独占ライブ配信するにあたり、大会応援ソングに選ばれたのが、あだち充原作のアニメ『タッチ』(フジテレビ系)の主題歌として1985年に世に出た名曲だった。世代を超えて愛されてきた野球アニメの定番曲を今の時代にふさわしい形でどう鳴らすか、その答えとして、稲葉の起用が制作陣のあいだで自然な流れで固まっていったという(※1)。稲葉は原曲へのリスペクトを込めながら、自身のパッションを注いだカバーを作り上げたのだろう。3月6日から配信をスタートさせ、翌週10日には東京ドームで行われた日本対チェコ戦の試合前にライブ初披露し、球場を沸かせた。さらに稲葉は、連覇に挑んだ選手たちの舞台裏に迫ったドキュメンタリー映画『戦いの向こう 侍たちの記録 2026 WORLD BASEBALL CLASSIC』(Netflix)のために、テーマソング「果てなき夜を」を新たに書き下ろし。勝ち続けなければならないという重圧のなかで戦った日本選手たちの心情に、静かに寄り添うような稲葉のまなざしが感じられる仕上がりとなっている。

稲葉浩志 / タッチ
『戦いの向こう 侍たちの記録 2026 WORLD BASEBALL CLASSIC』×稲葉浩志「果てなき夜を」主題歌フルバージョン・コラボPV|Netflix Japan

 福山雅治とのラブソング、スカパラとのスカアンセム、アニメ主題歌のカバーと書き下ろしのロックバラード――。稲葉は楽曲ごとにボーカリストとしての表情を巧みに変え、それぞれの音楽に確かな説得力を与えてきた。しかも、そのどれもが一度きりのスタジオワークに終わらず、「THE FIRST TAKE」での一発撮りや、ツアー千秋楽でのサプライズ歌唱のように、その先まで熱を保ち続けているのが印象的だ。外の世界と積極的に交わり続けるこの姿勢こそが、稲葉の歌が色褪せない理由のひとつでもあるのだろう。62歳を迎えたその声が、これから先どんな相手と、どんな景色を見せてくれるのか。ロックスターの可能性は、まだまだ無限に広がっている。

※1:https://www.sanspo.com/article/20260219-CNATEEM7RRLZXJGFFHBJPH2AVY/?outputType=theme_wbc

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