斉藤和義が鳴らすロックの衝動 “戦争の対義語としての日常”が示す平和、『日常Days』で挑む新たな音像

斉藤和義、『日常Days』で挑む新たな音像

不穏な世相のモヤモヤと“戦争の対義語=日常”

ーーたとえば書き下ろしの新曲「ウグイス」には〈素手にはナイフで/ナイフにはピストルで/ピストルには爆弾で/その次は?その先は?〉というリリックが出てきます。曲調こそ70年代テイストの解放感あふれるロックチューンですが、そこに滲む危機感は今の時代状況と響き合ってるとも感じました。

斉藤:関係、してると思いますね。やっぱりラジオで日々のニュースを聴いていると、世の中どうなっちゃうんだろうと不安になりますし。世界中で大きな戦争が起きていて、しかもそれが、権力によってなし崩し的に追認されていく状況があってね。自分たちの足もとを見ても、価値観の押し付けとか分断がどんどん酷くなってる。これが社会のデフォルトになったら本気でヤバイんだけどなって。それこそ日常を暮らしながらアルバムを作ってく中で、絶えずその思いは頭にあったので。歌詞もサウンドも自然とそっち寄りになっていったんだと思う。要は「それも含めて日常だよね」ってことで。

斉藤和義 - ウグイス[Audio Video]

ーーそういうモヤモヤとか切迫感も、アルバムの随所に出ていますね。

斉藤:そういえば最近、ラジオでこんな話を聴いたんですよ。“戦争”の対義語は何かと問われたら、たぶん多くの人が“平和”と答える。ただ“戦争”のイメージって誰にとっても明確ですが、”平和”の方は意外と曖昧じゃないですか。「あなたにとって平和の定義とは?」って聞かれても、すぐには答えられない。だけど、”戦争”の対義語を“日常”と捉えてみたらどうだろうと。

ーーなるほど、“日常”なら誰にとっても具体的な手触りがある。

斉藤:俺もそれを聞いて「たしかにね」と思ったんですよ。なんてことない今日のこの暮らしが、明日もまた続いていく。そういう状態が要するに、“平和”という状態なのかなと。実は『日常Days』というタイトルも、最初はこの「ウグイス」に仮で付けてた曲名だったのね。でもこっちをアルバム全体に持ってきた方が、より今の気分が伝わる気がして。最後の最後に「やっぱこっちで!」と差し替えました。

ーーそれでいうと、アルバムの最後を飾る「Sweet Little Sixty」も鮮烈でした。チャック・ベリーの名曲に引っ掛けた、ユーモアと毒気たっぷりの還暦ブルースといいますか……。

斉藤:はははは、うん。そうかも。

ーー陰謀論、核武装論、排外主義。自分たちの社会にはびこる不寛容な空気をまとめて蹴飛ばすような曲調で。めちゃめちゃスカッとしつつ、どこか救われた気分になります。

斉藤:これも「ウグイス」と同じで、特に深い意見とか政治的立場を表明してるわけでもない。最近とみに感じてる個人的なイライラ、モヤモヤが素直に出ただけの曲だと思います。楽曲の構成もほとんどリフ1発という感じで、かなりシンプルですしね。イントロで鳴ってるブルースっぽいカッティングとか、俺の毎度の手癖が全開になってる(笑)。それをメンバーとのスタジオセッションで厚みのあるバンドサウンドに仕立てて。最後にストリングスをレコーディングして、思いきりサイケデリックな味付けを加えてみたという。

──聴き手の内面に食い込んでくるような、アグレッシブな弦アレンジですよね。本作では11曲のうち6曲にストリングスが大々的に入っていて。ときに激しく、ときには優しく“日常”を彩っています。

斉藤:そうですね。自分の楽曲でここまでがっつりストリングスと向き合った経験はなかったので。とりわけサウンドの面では、確実に今回のアルバムカラーを作ってくれたと思います。これについては何と言っても、アレンジャーの高野勲くんとの再会が大きかった。キーボーディストとしては何度か共演してたんですけど、正直、彼にこんな得意分野があるとはそれまでまったく知らなかったんですよ。

斉藤和義 - Sweet Little Sixty[Audio Video]

ーーそれがどういう経緯で今回『日常Days』に参加することに?

斉藤:きっかけは本当に偶然で。今年1月、松嶋菜々子さん主演のドラマ『おコメの女-国税局資料調査課・雑国室-』(テレビ朝日系)の主題歌に「鏡よ鏡」という曲を作ったんですね。その際、共通の知り合いのディレクターが「高野さんの弦アレンジ、すごく変わってて面白いんだよ」と教えてくれまして。だったら気心も知れてるし、何かしら曲のフックになればと思って、わりと軽いテンションでお願いしてみたと。そうしたらたった数日で完璧なデモが上がってきて……いやあ、あれはびっくりしました(笑)。ベースのヒロくん(山口寛雄)、ドラムの豊夢くん(玉田豊夢)のスリーピース演奏と、高野勲の変態っぽいストリングスが絡み合っていて。バンドだけのテイクとはまったく違う表情を見せていた。

ーーその「変態っぽい」というのは、斉藤さんの中でどういうフィーリングなんでしょう?

斉藤:さっき話に出た「Sweet Little Sixty」もそうだけど、やっぱりある種のサイケデリック感ですかね。ロックやポップスの弦アレンジって、普通は歌メロに寄り添いつつ、全体を包みこんだり感情を盛り上げたりするものが多いでしょう。でも、高野くんのはそれだけじゃなくて。それこそThe Beatlesの「A Day in the Life」とかLed Zeppelinの「Kashmir」「The Rain Song」にも通じるような、ヘンテコでかっこいいアレンジを書ける。フレージングも独特だし、何より(ボーカルの)譜割りにぴったり合わせず小節を跨いでいく感覚がね。少なくとも俺は、他ではあまり聴いたことがなかった。

ーー演奏は数多くのアーティストから信頼を寄せられている美央ストリングス。楽曲ごとに参加人数が変わり、たとえば「鏡よ鏡」では第一ヴァイオリンが4人、第二ヴァイオリンが3人、ヴィオラが2人、チェロが1人の合計10人編成です。リーダーの美央さんはどういった繋がりで?

斉藤:高野くんの紹介ですね。彼女がまた、こだわりとガッツのあるミュージシャンで。俺がこれまでスタジオで出会ったストリングスの人って、基本的には譜面通りに弾かれる印象が強かったんです。もちろん技術は申し分なく、プロとして時間内できっちり仕上げるイメージ。でも美央さんはアプローチがまったく違っていて、ちょっとしたフレージングの強弱ひとつにしても、高野くんと一緒に「ああでもない、こうでもない」と試行錯誤をされていた。すごいときは10時間くらい、ぶっ通しでスタジオに詰めてましたし(笑)。そもそもロック好きな人だから、何も言わなくてもグルーヴのツボを感じとってくれる安心感がありました。で、アルバムを作っていくうちに、この高野・美央コンビの参加楽曲が自然と増えていったという感じです。

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