父と空手から教わった“強さ”、海を越えた日本で広げた友情 BOY SODA、初来日インタビュー

2025年1月にリリースした「Lil’ Obsession」がバイラルヒットし、同曲でオーストラリア最大級の音楽賞『ARIA Awards』の「Best Soul/R&B Release」を受賞したBOY SODA。同年10月には、自身のルーツや家族との関係、失恋、喪失、友情などを描いたデビューアルバム『SOULSTAR』を発表し、2026年6月には新曲5曲を加えたデラックス版をリリースした。
ネオソウルやジャズ、ファンク、2000年代R&Bを横断する彼の音楽。その魅力は、卓越したボーカルだけにとどまらない。ホーンやストリングス、バックコーラスが織りなす豊かなアンサンブルと、痛みや葛藤をユーモアとグルーヴへ昇華するソングライティングが、楽曲に独特の体温をもたらしている。
『SUMMER SONIC 2026』への出演を機に初来日を果たしたBOY SODAに、日本でのライブの手応え、シドニーで築いたコミュニティ、「Lil’ Obsession」以降の変化、『SOULSTAR』を貫く“執着”と“手放すこと”、SNS時代の創作、父親と空手から受け継いだ強さまで、じっくり話を聞いた。(黒田隆憲)
僕が手でハートを作ると、会場中から一斉にハートが返ってきた(笑)

――『SUMMER SONIC 2026』のステージはいかがでしたか?
BOY SODA:僕にとって、これまでで最も素晴らしいライブでした。今回はバンドのメンバーも日本へ連れてくることができたので、あの観客の熱気をみんなで体験できたことは、本当に特別でした。日本の観客は最高ですね。僕が手でハートを作ると、会場中から一斉にハートが返ってきた(笑)。お互いにエネルギーを与え合えたことが、とても嬉しかったです。
この投稿をInstagramで見る
――セントラルコーストにいた頃は、R&Bなどの好きな音楽を共有できる仲間を見つけるのが難しかったと、以前のインタビューで話していました。シドニーへ移り、現在のバンドメンバーをはじめとするコミュニティと出会ったことは、音楽表現にどんな影響を与えましたか?
BOY SODA:僕はずっと、自分のバンドで演奏することを望んでいました。少しずつ仲間が増えていき、シドニーで自分の“トライブ”を見つけることができたんです。今のバンドメンバーは、僕の親友であり、それぞれの役割において最高のミュージシャンでもある。もちろん自分の曲をひとりで歌うこともできますが、その音楽を一緒に作ってくれた人たちと分かち合うほうが、僕は好きなんです。
――「Lil’ Obsession」は、もともと執着を手放すよう自分自身に語りかけた、とても個人的な曲だったそうですね。多くの人に共感され、この曲が自分ひとりのものではなくなったことをどう感じていますか?
BOY SODA:そこが、音楽を作ることのいちばん素晴らしい部分だと思います。曲は世に出た瞬間から、もう完全には自分だけのものではなくなる。聴き手それぞれの人生のなかで、異なる形で生き続けていくんです。
この曲は、僕がある人物にものすごく腹を立て、その時の感情や実際に起きたことを正直に書いたものです。そんな個人的な出来事を、今ではたくさんの人が知っている(笑)。ある意味、クリエイティブな復讐とも言えますよね。同時に、個人的な体験を曲にすることは、その出来事を理解し、消化する助けにもなるんです。
――歌詞には、銀行口座への少額送金を使ってメッセージを残すという場面も描かれています。これも実際に起きたことなのでしょうか?
BOY SODA:そうです。僕がその人をブロックしたので、銀行口座が僕に連絡できる唯一の手段だったんです(笑)。
――切実な内容でありながら、歌詞にはユーモアがあり、サウンドには軽やかなグルーヴがあります。なぜ、踊れる曲にしたのでしょう?
BOY SODA:それが僕のユーモアの感覚なんです。たとえば喪失の悲しみのような重いことを歌うとしても、どうせならステップを踏める曲にしたい。それが僕にとっては面白いし、同時に物事を理解していくための方法でもあります。重いテーマも、少しセクシーな音楽に乗せることで、受け取りやすくなると思うんです。
――とても個人的な歌詞でありながら、多くのリスナーが自分自身の物語として受け取れたのは、なぜだと思いますか?
BOY SODA:ストーリーテリングも大きな要素ですが、物事をできるだけ簡潔に伝え、少ない言葉でできるだけ多くのことを語るようにしているからではないでしょうか。考えすぎて物事を難しくしてしまうのは簡単ですが、そうすると聴き手とのコミュニケーションを失ってしまいます。複雑なものを理解しやすい形にする。その技術のなかに、魔法があると思っています。
移動生活のなかで大事にする“相手との親密さ”の求め方

――『SOULSTAR』のデラックス版に追加された新曲についても伺わせてください。「Front Door」では、環境や生活が変化するなかで、人間関係を保ち続ける難しさを歌っていますね。
BOY SODA:音楽活動の広がりとともに、頻繁に旅をするようになった頃に書いた曲です。それ自体は素晴らしいことですが、大切な人にいつでも会えるわけではなくなってしまう。状況が違えばうまくいったかもしれない関係や可能性を残したまま離れざるを得ない感覚について歌っています。「僕の家のドアは、いつでも君が見つけられるようにしておくよ」と伝える、それが僕なりの方法なんです。もしいつか相手が戻ってこられる可能性があるなら、その道は閉ざしたくないと思っています。
――移動の多い生活のなかで、大切な人との関係を保つために意識していることはありますか?
BOY SODA:相手との親密さを、意識して求め続けることだと思います。頻繁に移動して友人と離れていると、気づけば孤立していたり、忙しさを理由に連絡を怠ったりしがちです。だから、自分から連絡し、電話には出て、メッセージも返すように心がけています。返信するのは本当に苦手なんですけど(笑)。どれほど強い関係でも、大切に育てず、言葉を交わさないままにしておけば、少しずつ薄れてしまう。そのことがわかっているからこそ、大切な人とのつながりを失わないようにしたいんです。
――「Elements」では、惹かれ合いながらも、根本的には相容れないふたりが描かれています。どんな思いから生まれた曲なのでしょう?
BOY SODA:自分にとってよくない、時には毒にさえなり得る相手に惹かれることについて書きました。火と水は交わらないとわかっていても、そのふたつが一緒になる瞬間を想像すると、どこかスリリングで魅力的に感じられる。でも、同時にこの曲は、自分を壊すような関係や自分のためにならない状況へ入っていかないようにするための、自分への警告でもあります。本当は、何が自分のためになるのかわかっている。だから、相容れないものを無理に交わらせてはいけない、と。
――「Chase Your Tail」は、同じ失敗や関係を繰り返すことを歌っています。なぜ人は、うまくいかないと分かっている行動を繰り返してしまうのでしょう?
BOY SODA:同じサイクルを繰り返している友人たちを見て書いた曲です。彼らの多くは、ひとりで過ごす時間を持ち、自分自身と向き合うことを避けていました。だから、同じ場所をぐるぐる回り続け、そこから抜け出せない。外から見ている僕には状況がよく見えるのに、本人には見えていなかったんです。人は同じことを何度か経験しないと、その教訓が本当の意味では腑に落ちないものだと思います。程度や形は違っても、誰にでもそういう部分がある。僕にも自分なりの悪い癖や、繰り返してしまう行動はあります。
――「Chase Your Tail」と「Elements」は、MXXWLLとの共同制作です。彼と組んだからこそ生まれたものはありますか?
BOY SODA:MXXWLLとの仕事は大好きです。彼はオーストラリアではレジェンドと呼べる存在であり、音楽の天才。「Chase Your Tail」では、ライブに新しいエネルギーを加えたいと思っていました。僕は普段、90BPM前後のゆったりした曲を好んで作るので、ライブで映えるファンキーな曲がほしくなったら、“ファンク・ドクター”のところへ行くしかない。それがMXXWLLです。
「Chase Your Tail」は、彼なしでは絶対に作れませんでした。彼ならではのエッセンスや音楽的な知識、プロダクションのセンスが、曲全体に息づいています。音数自体は決して多くありませんが、その一つひとつが明確な役割を果たしているんです。




















