ポルノグラフィティ「この場所を本当に大切にしていきたい」 ファンとの信頼と“ライヴバンド”の強さを示したツアー最終日

ポルノグラフィティの全国ツアー『20thライヴサーキット“水”』のファイナル公演が7月8日、東京ガーデンシアターにて開催された。
今年2月に配信リリースされた5曲入りEP『種』の楽曲も組み込みながら、全国各地を巡ってきた今回のツアー。ツアータイトルに掲げられた“水”という言葉は、ステージセットや演出の随所にも反映されていた。会場に入るとまず目を引くのは、ステージ中央にそびえる大きな木。開演時間を迎えると、オーロラのような幻想的な光が会場中に広がり、その木がさまざまな色へと表情を変えていく。静謐でありながら、どこか生命力を感じさせる空間。その美しい演出に見入っているうちに、しばらくぶりにポルノグラフィティのライヴを観る筆者のなかにも、彼らのステージが始まる前特有の高揚感が少しずつよみがえってきた。
ライヴ本編は「サボテン」からスタート。間奏では水のせせらぎが聞こえ、ステージ上の木は鮮やかな赤色に染まる。岡野昭仁(Vo)の歌声は、序盤から会場の空気を一気に掌握。繊細な言葉の運びと、サビで大きく広がるボーカルの力強さによって、楽曲に宿る情景が立体的に浮かび上がっていく。続く「月飼い」では、イントロが始まった瞬間に客席から自然とクラップが発生。バンドの演奏と観客の手拍子が重なり合うと、曲終わりにはスクリーンにツアータイトルが映し出され、この日が“水”ツアーの終着点であることをあらためて印象づけた。



「IN THE DARK」に入ると、岡野は「ようこそ〜!」と客席へ呼びかける。その一言で、会場の熱量はさらに上昇。低く深いグルーヴのなかで、岡野のボーカルは楽曲の奥行きを鮮やかに引き出し、新藤晴一(Gt)のギターはその世界に確かな輪郭を与えていく。序盤からふたりのボルテージも上がりきっており、ステージに立つだけで広い会場の空気がポルノグラフィティのものへと変わっていく感覚があった。
アコースティックギターの静かな前奏から始まった「一雫」では、岡野と新藤の歌唱が重なり、序盤の流れに深い余韻を残す。音数を抑えた導入から、徐々に演奏が厚みを増していく展開は、このツアーが掲げる“水”というテーマとも響き合っていた。派手に盛り上げるだけではなく、楽曲の持つ余白や湿度を丁寧に届ける。その表現力の豊かさも、ポルノグラフィティのライヴの大きな魅力だろう。

4曲を披露し終えると、この日最初のMCへ。岡野が「どうもみなさんこんばんは!」と挨拶すると、会場は温かな拍手に包まれる。デビュー当時と比べて男性ファンが増えたことにも触れながら、客席の反応を受けて軽快にトークを広げていく姿は実に自然体だった。そんな和やかな空気のなか、新藤は「本当にこのファイナルを皆さんといいライヴにして、この『水』ツアーを完成させたい」と語る。この日のライヴが、ステージ上のふたりだけで完結するものではなく、観客とともに作り上げるものなのだという思いが、その言葉には込められていた。
続くブロックでは、「残響」「アポロ」「スパイス」を披露。「残響」はツアー中に生まれたという新曲で、岡野によれば歌のレコーディングもまだ終わっていないとのこと。完成された楽曲をなぞるのではなく、現在進行形で生まれている音楽をそのままライヴの場で届ける。そこには、キャリアを重ねてもなお創作を続けるバンドの生々しい呼吸があった。
「アポロ」では、客席から息の合った手拍子と歌声が響き渡る。ポルノグラフィティの始まりを象徴する楽曲が、懐かしさだけに回収されることなく、今もライヴのなかで力強く鳴り続けていることが何より印象的だった。さらに「スパイス」では、軽快なサウンドに乗せて会場の空気が一気に弾んでいく。ライヴで初披露された楽曲ということもあり、イントロが鳴った瞬間の客席の反応からも、この曲を待っていたファンの喜びが伝わってきた。
ここからはEP『種』に収録された楽曲が続く。「峠の鬼」では、情熱的でエキゾチックなサウンドが会場を包み込み、ポルノグラフィティの楽曲が持つ土着的な熱を浮かび上がらせる。続く「土竜」では、より重心の低いグルーヴが響き、「デッサン#4」ではメロディの美しさと言葉の余韻が際立っていた。3曲それぞれが異なる質感を持ちながら、ひとつの流れとして提示されることで、EP『種』の楽曲群がライヴのなかでまた新たな表情を見せていた。

MCでは、「泉天空の湯 有明ガーデン」とのコラボ企画の話題からサウナトークへ。岡野と新藤がファンも交えながら話を広げていくやり取りは、まるでラジオのトークコーナーのような親密さがあった。壮大な世界観を持ったライヴを展開しながら、MCではぐっと客席との距離を縮めていく。この振れ幅もまた、ポルノグラフィティが長く愛されてきた理由のひとつなのだと感じた。
ここからは後半戦。「暁」ではドラマチックなメロディが大きく広がり、「渦」ではタイトル通り、うねるようなサウンドが会場を呑み込んでいく。「Zombies are standing out」では、鋭いバンドアンサンブルと岡野のパワフルな歌声がぶつかり合い、ステージ上の熱量はさらに増していった。幻想的なセットのなかで、ロックバンドとしての肉体的な強さを真正面から鳴らす。このツアーならではの見せ場だった。


そこから空気を一変させたのが「SETOUCHI BOYS」。コールの権利を勝ち取ったマネージャーの“山田マン”が、水色の学ラン姿でステージに登場する。さらに、自分にも部下ができたことを報告し、新マネージャーの伊藤も加わると、会場は一気に祝祭的なムードに包まれた。岡野も合流し、コール&レスポンスはこの日屈指の盛り上がりに。大きな会場でありながら、どこか身内感のある温かさと遊び心が広がる時間となった。
「ヴィヴァーチェ」を経て披露された「アゲハ蝶」では、客席の「lalala」の合唱が会場中に響き渡る。誰もが知るフレーズを、今この場にいる全員で歌う。その光景には、単なるヒット曲という言葉では収まりきらない、楽曲が長い時間をかけてファンの人生に根づいてきたことの重みがあった。「THE REVO」でライヴの熱をさらに加速させると、「はみだし御免」へ。終盤に差し掛かっても、岡野のボーカルはまったく衰えを見せない。むしろ、ここにきてより一層パワフルに、楽曲の持つエネルギーを真正面から放っていく。
本編ラストを前に、岡野は「生きづらい世の中かもしれんけどね。今日のことを忘れず、そして次に聴いてもらう曲を胸に抱えて持って進んでくれたら嬉しいなと思います」と観客へ語りかけた。その言葉に続いて届けられたのは「愛が呼ぶほうへ」。温かなメロディと歌声が、会場に静かに広がっていく。本ライヴで聴く〈綺麗な水をあげよう 望むまま〉というフレーズはあまりにも美しく、岡野の歌声に乗って届いたその言葉が、じんわりと胸に染み込んでいった。
オーディエンスの声に導かれてアンコールが始まると、岡野はツアー序盤に自身の体調不良で公演が見合わせとなったことを振り返りながら、病床で再びステージに立つことを思い描いたとき、客席からの温かな言葉や空気を信じることができたと語る。そして、「あなたたちがわしらに元気をくれて、前に進めてくれてるってことにあらためて気がつきました」と感謝を伝え、「大切な信じられる仲間がいて、信じられる場所がここにあるので、この場所を本当に大切にしていきたい」と続けた。このライヴを通して感じたのは、ポルノグラフィティとファンの関係が、ステージから客席へという一方向のものではないということだ。互いに力を受け取り、背中を押し合いながら続いてきた時間があるからこそ、この日の東京ガーデンシアターには、深い信頼が生む揺るぎない一体感があった。
アンコール1曲目は「ミュージック・アワー」。客席は総立ちとなり、飛び跳ね、手拍子をしながら、会場全体が大きな一体感に包まれていく。続くラストナンバー「ライラ」では、スタッフもステージに登場し、タオルを振り回す光景が広がった。ステージ上も客席も、最後の最後まで全力でタオルを回し続ける。その光景は圧巻であり、何より純粋に楽しい。ライヴの幸福感が、そのまま目に見える形になったようなフィナーレだった。

最後までファンに手を振り、何度も感謝を伝えながらステージをあとにした岡野と新藤。冒頭にも書いたように、この日のライヴは“水”というテーマに沿った幻想的な演出から始まり、楽曲ごとに濃密な表情を見せながら、最後にはポルノグラフィティとファンの信頼関係そのものが浮かび上がるような時間となった。ポルノグラフィティが長い時間をかけて築いてきたファンとの信頼関係と、今もなお更新され続けるライヴバンドとしての強さ。その両方が余すところなく提示されたツアーファイナルだった。


























