KREVA、すべてを“自ら手掛ける”トラックメイカーとしての矜持 激動の40代を経て、50代を迎える胸中に迫る

“Less is more”を体現する「やらない良さ」

――制作環境、つまりハードやソフト、音源周りの変化についてはいかがですか? それこそ前作の14年前からはもちろん、『嘘と煩悩』の2017年から見てもかなり進化したんじゃないかと思いますが。

KREVA:やっぱりできることがすごく増えましたね。『嘘と煩悩』の頃と比べると、わからなかったことも理解できるようになって。たとえば、Aの曲とBの曲を並べた時、もはや数値で同じボリュームにできますからね。でも、それに頼りすぎず、「デカいかな?」と思ったら数値で見て、確かにデカくても俺の耳的にアリなら「そのままでよし!」とか、そういうジャッジができるようになったのも大きかったですね。

――何を使っても、最終的には当人のセンスやジャッジやスキルですものね。

KREVA:自分のスキルも上がっていると思うけど、ただ、そうしたスキルを詰め込みまくったものが求められているのかというと、やっぱりそうではないと思うし。あれもこれもできるとやりたくなっちゃうけど、“Less is more”(=より少ないことはより豊かなこと。20世紀の建築家 ミース・ファン・デル・ローエが提唱した言葉)というか、生っぽさみたいなところも含めて、「やらない良さ」があるのもまたヒップホップだと思うんで。

――今作とは方向性が異なりますが、KREVAさんは昨年ご自身が開催した展覧会『ラッパーと紙とペン』に合わせた音源『R.P.P.B.G.M.』もデジタルリリースされました。ラップの一方で、アンビエント的なアプローチへの関心が高まったりされていますか?

KREVA:いえ、それはまったくないです。ラップからオーケストラ、インストまで、というふうに、「ここからここまで」みたいな感覚も特にないです。シンプルに、「こういうもの“も”打ち出しておいた方がいいかな」というマインドというか。たとえば、世間的にラッパーとしての存在はある程度認知してもらえていると思うけど、トラックメイクまでしているとはあまり思われていないんだろうなぁと感じるし。

――それって、たしか2007年に『BEST OF MIXCD NO.1』を作った時の動機でもありましたよね。今でも肌感覚的にそう感じられますか?

KREVA:ですね。俺が自分の曲の何から何までを手掛けているかなんて、ファン以外のリスナーはほとんどピンときてないと思うんです。最近で言うと、大同特殊鋼さんのテレビCMに出させてもらっていますけど、あれはありがたいことに出演だけじゃなくて音源のデモからミックスまでのすべてを任せていただいているんです。でも、そこを最近の取材や会話なんかで誰かから指摘されたことも特にないし。

――なるほど。まあ、超ざっくりかつ乱暴な言い方になっちゃうけど、総じて「KREVA=いい曲を書く人」という傾向はあると思います。つまり、メロディメイカーでありソングライターとしてのイメージの方が強いというか。それはKREVAさんのメジャー感の裏付けでもあるわけで。

KREVA:うん、それはわかります。

――アルバムを聴いて個人的に殊更に感じたのは、KREVAさんの曲ってトラックはトラックで「すごく歌っているよなぁ」ということでした。

KREVA:そうなんですよ。「ちょっとメロディアスすぎるな」と自分でも思いました。「メロディがない曲、ないのかよ?」って(苦笑)。トラックにあまりコード感やメロディを帯びないのが今のトレンドなのに、俺の場合は入れちゃうっていうか、入っちゃうっていうか。80’sの音はどう聴いても80’sの音の薄さがあるし、90’sの音はちょっと曇っているとか2000年代はすごく派手とかあるじゃないですか、それで言うと、今って割と同じ音というか、スーパーフラットだと思うんですよね。

――おっ? 急に村上隆的なワードが。

KREVA:ちょうど先日村上さんのYouTubeを見たから(笑)。あと、俺のトラックはスネアドラムがめちゃくちゃデカい。今なら6デシベルくらい小さくてもいいのに「スネア好きすぎだろ」って(笑)。

――でも、そういうトラックと歌メロが相まってこそ、「いい曲だな」になる部分も大きいのでしょうし。

KREVA:そうですね。俺の場合、いつもトラック先行で、メロディや歌詞から曲が生まれることは一切ないので、「トラックこそが曲のオリジンなんだよ」というのも、この機会に感じてもらえたら嬉しいですね。まあ、原曲を作った時は自分自身「ヤバい」と思って作っていたし、実際どれもヤバかったんだけど、時が経てば「もっとこうすればよかったな」は必ず出てくるものなので。たまに昔の写真とか見ると、誰でも「うわ、何この服」とか「眉毛、キモい」みたいな。そういうところはちょっと更新しつつ。今回の『BEST OF MIXCD NO.3』もアップデートという感覚に近いですね。今の自分ならどう並べ、どう繋ぐかの積み重ねをパッケージした作品です。これからも多分、何かのタイミングでまたこうして自分のトラックを見つめ直す作業をすると思うし、クリエイターとしての健康診断みたいなものなのかもしれないですね。

――とはいえ、KREVAさんは相当楽曲が古びないというか、かなり普遍的なナンバーを積み重ねてこられている部類のアーティストじゃないですか。

KREVA:ライブで歌い続けられる曲ができたし、歌い続けているからこそ普遍的になっているし。まあ、そこも常に更新しつつ。

――アップデートを重ねながら、「KREVA、やっぱラップのスキル、半端ねえな」も「KREVA、いい曲書くよな」も嬉しいけど、やっぱりヒップホップDJ育ちとしてはもっとトラックメイカーとしても認知してほしい、という感じですか?

KREVA:というか、もっと「いろいろやってんだな」ということを知ってほしい、という感じですね。いい写真家や美術家にとっての額装というか、「この人の作品の実物を見たら、額まで自分で選んでたわ」みたいなことを知ってもらうためには、今回みたいに、時たま言っていかなきゃなって。もはや、音楽が手軽に作れる昨今の状況下に、トラックメイカーとしての自分をそこまで強調することもないんじゃない? という気持ちもなくはないです。でも、やっぱりアレンジやミックスにも、よくも悪くも自分の記名性が強いメロディが感じられるわけだから、そこの個性はアピールしてもいいと思うし。あとは自分にとってヒップホップ DJってめちゃくちゃ面白いカルチャーなので、そこも伝播させていきたいですね。

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