なきごと、原点を見つめてさらにタフなバンドへ 確かな“生の実感”が未来を切り拓いた新体制初ワンマン

なきごと、新体制初ワンマンレポ

「これからのなきごとをめちゃくちゃ楽しみにしていてほしい!」

 この日のそんな一言が、ニンゲン's(なきごとファンの総称)にとって、そして水上えみり(Vo/Gt)自身にとって、どれだけ大きな意味を持つものだったか。未来に向かう意志を堂々と宣言できるようになったことが、全13公演に及んだ『ビタースイートベイビーツアー2026』の充実を力強く物語っていた。本稿ではそのファイナルとなった5月30日のZepp Shinjuku (TOKYO)公演をレポートする。今年初にして、現体制初ともなったワンマンライブだ。

なきごと ワンマンライブ

なきごと ワンマンライブ

 長年相棒だったギタリストの岡田安未が昨年末をもって卒業し、約半年前に新体制で再スタートを切ったなきごと。だが今回のツアーを観て感じたのは、形は変わっても水上がなきごとの音楽に込める願いは変わらないということ――いや、それどころか、様々な節目を経て、なきごとで音楽を届けることの大切さや重みに向き合い直したことで、“泣き言を歌にするバンド”としての衝動がダイレクトに響いてくるライブになっていたことだった。

 重複するようだが、なきごとの音楽は水上自身の泣き言が起点となっている。そして、その音楽を受け取った誰かの泣き言と重なり合った瞬間、まったく別々の人生のはずなのに、そこに1つの“安心できる居場所”が生まれる。水上はライブ中、何度も「あなたに会いたかった」「あなたがいるから音楽を鳴らせている」と口にしていたが、それは中盤のMCで語られた「私には音楽しかなかった」という言葉とも同義なのだろう。なきごとはニンゲン'sにとって居場所であり、ニンゲン'sが楽曲を聴いて届け返す想いもまた、水上を動かす糧となっている。そうやって、音楽を介して安心できる居場所を求め続けるすべて人々のために、なきごとはある――そう思わせてくれる瞬間が何度も訪れた。

なきごと ワンマンライブ

 例えば〈あー、相も変わらず/やめられないままでいるのね〉と歌う「あいわらず」から、〈あなたがいつかえって来てもいいように/部屋を片付けて/「待ってる。」〉と歌う「癖」へと繋がったオープニングの2曲。恋愛感情を超えて、まるで互いを必要とし合う人間の不完全さを肯定するような歌詞として鳴り響き、言葉の心地よい重みが水上の揺るがぬ決意となって胸に刺さった。さらに、言霊のようにオーディエンスとコール&レスポンスを重ねた「甘々吟味」、ライブすることの愛おしさを何度も確かめ直すように歌った「0.2」、互いを思い合う時間が終わらないでほしいと切に願う「短夜」、ニンゲン'sへの気持ちを〈オーダーメイド〉な言葉で届けるかのような「またたび」……など、水上にとって大切な“あなた”へ向けられた楽曲たちが次々と繰り出され、なきごとというバンドの輪郭を鮮やかに彩っていく。

なきごと ワンマンライブ

なきごと ワンマンライブ

 そんな水上の想いを支えるのは、驚くほどアグレッシブに生まれ変わったバンドサウンドだ。これまでもなきごとの世界観を支えてきた敏腕プレーヤーたちに、流麗かつパッションに溢れたギターを弾き倒す竹内サティフォ(Gt/ONIGAWARA)が加わり、サポートの域を超え、もはや“1つのバンド”としか思えないほど血肉沸き立つエッジの効いた演奏を展開。その凄みに終始魅了された。奥村大爆発(Dr)のキレに呼応するように竹内がギターソロを炸裂させた「Summer麺」、地を這うように生々しい山崎英明(Ba/siraph)のベースラインがグルーヴと緩急を支配する「ユーモラル討論会」や「セラミックナイト」、近年はアレンジも手がけている高田真路(Key/chef’s)の華やかで時に切ない鍵盤が彩りを与えていく「たぶん、愛」、なきごと流グランジを極めたかのようなおどろおどろしいエネルギーが蠢いた「ハレモノ」、タイトさも爆発力も増した演奏で往年のニンゲン’sを熱く沸かせた「知らない惑星」……など例を挙げたらキリがないのだが、“バンド なきごと”として、楽曲のアイデンティティを演奏陣がしっかり引き継いでいるのが本当に素晴らしかった。また「204号室」でのパワフルな演奏が水上の「ずっとそばにいてほしい」という素直な感情の推進力となっていたり、「ドリー」の衝動的な演奏がシャウトにも近い水上の強烈な歌唱を引き出していたりと、演奏とボーカルのシナジーを感じられるシーンも多数。なきごとを体現しているのは水上だけではないーーそんな決意の滲み出た、メンバーたちの“楽曲を理解した”演奏がライブの感動を一層高めていた。

なきごと ワンマンライブ

なきごと ワンマンライブ

 こうした鉄壁のアンサンブルに、“なきごとを委ねられた”ことも大きかったのだろうか。水上自身が内なる想いを伝えることに対して、より衒いなく、真っ直ぐになったような気がした。それを特に強く感じたのが本編終盤、未発表の新曲「ひといき」披露の瞬間だ。

「あなたに届ける音楽の一つひとつが、魂を削って作った曲。あなたが受け取ってくれて、楽しんでくれて……死にたくないなって思うのは、あなたがいてくれるから。生きることを選んでくれて、伝えにきてくれて、ありがとう」

「新しい曲ができました。たくさんの愛を受け取った今だからできた曲」

 そんなMCに続いて演奏された「ひといき」。1番は水上の弾き語りで、2番からバンドサウンドが重なっていく形で届けられた。本編を締め括った「生活」と表裏一体な楽曲にも聴こえたが、「生活」が呼吸を重ねることさえ困難な苦しくて耐え切れない瞬間の記憶を書き綴ったものだとすれば、「ひといき」は自分が放った想いに誰かが反応した瞬間や、ほんのささやかな出会いの瞬間に、確かな“生”を実感している歌のように思えた。かつて、部屋から出られないほど何もかも諦めていた自分がいたからこそ、なきごととして誰かの背中をさする音楽を届けられている今がある。「ひといき」は希望と呼べるものかはわからないけれど、これまでの多くのなきごとの曲がそうだったように、挫けそうな時こそ握りしめていたいお守りであることは間違いない。なきごととしてのブレない意志と、同じハートを共有するバンドメンバー、そしてなきごとを求め続けるニンゲン’sの存在。それらがツアーを通してクロスする中で自然と生まれ落ちた、今だから歌える人生のテーマソングなのだろう。

なきごと ワンマンライブ

なきごと ワンマンライブ

 オーディエンスのアツい拍手と叫びに呼び寄せられたアンコールでは、本日2曲目となる未発表の新曲「ミッドナイトシンドローム」を初披露。これがまたエネルギッシュに駆け抜けるアッパーな名曲。山あり谷ありの人生だろうと「なきごとを通して楽しんでやる」と言わんばかりの決意表明にも聴こえ、直前のMCで発表された夏の3カ月連続コンセプトワンマンライブにも通ずるようなポジティブな気概がメロディに満ち溢れていた。そして、アンコールは「憧れとレモンサワー」、ダブルアンコールは「深夜2時とハイボール」の大合唱で締め括られた。会場一体となって歌われた〈また、僕はあなたに/救われてしまったなぁ〉(「憧れとレモンサワー」)、〈死にたくなった 死にたくなった/そしたらキミが笑ってバカっていうから/いきたくなったいきたくなった〉(「深夜2時とハイボール」)の歌詞に、変わらないなきごとの軸を改めて感じたフィナーレ。リスタートを切ったタイミングで、原点を見つめながらバンドとして強靭な進化を遂げた素晴らしいワンマンだったのではないだろうか。

なきごと ワンマンライブ

 なきごとがなきごとたる意味を水上自身の手の中でもう一度確かめ、メンバーやニンゲン’sともそれを分かち合った今、とにかく“未来”が楽しみになるライブだった。“ビタースイート”な人生を歌い鳴らすバンドだからこそ、その音楽を求める人たちはきっとたくさんいるはず。なきごとという物語の真骨頂はこれからだ。

なきごと ワンマンライブ

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