日本の音楽はこれから新時代へ向かっていく、『Zipangu』伝説の始まり 史上最大の海外フェスが見せた絶景

 リトルトーキョーの喧騒を抜け、東に車を約10マイル走らせると景色は一変した。パサデナの雄大な山並みを背に、緑豊かな丘と鮮烈なサファイアブルーの空が広がる。黄金の国「Zipangu」――13世紀、マルコ・ポーロが『東方見聞録』で記した伝説の国・日本。その名を冠した、日本国内アーティストのみが出演する海外音楽フェスとして過去最大規模のイベントが、5月16日(日本時間17日)、アメリカ・ロサンゼルスエリアにあるBrookside at the Rose Bowlで開催された。

 Ado、新しい学校のリーダーズ、ちゃんみな、HANA、MAN WITH A MISSION、千葉雄喜、10-FEETといった日本のトップアーティストたちが集結した『CLOUD NINE presents “Zipangu” JAPANESE MUSIC EVENT 2026』――。日本の音楽の魅力を世界へ示す、新たな夜明けの一歩となったこの日をレポートする。

 開催地である世界的なビッグイベントの聖地・Rose Bowlに隣接する野外ステージ「Brookside」は、収容人数3万5000人。ステージ前にたどり着くと、オープニングアクトのTeddyLoidによるDJパフォーマンスはすでに佳境を迎えていた。アニメ『NARUTO -ナルト-』(集英社/テレビ東京系)の主題歌「GO!!!」が鳴り響くと、観客は拳を突き上げ、期待に満ちた笑顔を見せる。日本とアメリカを行き来し、ジャンルや国境を越えて活躍するTeddyLoid。自身が手がけたAdoの「唱」「踊」では激しく踊り出す観客も現れ、会場のボルテージは一気に高まった。

 「What’s up HANA! We are HANA!」――CHIKAのドスの効いた雄叫びが、薄曇りの空を切り裂くように響き渡った。瞬間、ロックなビートが炸裂。色鮮やかな衣装と髪色のメンバーたちのオーラで一気に華やいだステージは、MOMOKAの気迫のこもった歌声で〈全部bet全部全部bet〉と「ALL IN」から始まった。続く「NON STOP」では、桜吹雪が舞う富士山のバックビジュアルを背に、アグレッシブなドリルビートで強い意志を刻み込んでいく。日本を背負ってやってきた――そんな覚悟を彼女たちは宿しているのだ。

 MCでJISOOが流暢な英語で「“HANA”は英語でどういう意味かわかる?」と問いかけると、会場から「Flower!」という元気な返事が返ってきた。自身たちにとってアメリカでの初パフォーマンスとなったこの空間への喜びと感謝を伝えると、温かい拍手が沸き起こる。「Where are you from?」とNAOKOが明るく客席に投げかけると、ニューヨークやカナダなど遠方からきたファンが声を上げ、メンバーたちは大きな感謝を口にした。

 「Cold Night」や「Bad Girl」では、ステージ前方でラフに語りかけるように歌う。MAHINAやKOHARUは、笑顔を浮かべ、等身大の魅力を振りまいている。「Blue Jeans」のイントロが流れると、YURIの「Everybody say!」の掛け声とともに、〈Blue Jeans 古いスニーカー〉という大きな合唱が起こった。

 惜しむような歓声のなか最後に披露された「ROSE」では、情熱的なラテンのビートにオーディエンスは体を揺らす。そこには、感激して涙を浮かべるファンの姿もある。出会いを待ち望んでいた現地オーディエンスの期待に十分に応える、心のこもったパフォーマンスでステージを締めくくった。

 『ドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…』の壮大な音楽が鳴り響くなか、10-FEETの3人がステージに登場した。タオルを掲げるファンの姿が大型スクリーンに映し出されると、会場の期待感はさらに高まる。

「What’s up Pasadena!」。TAKUMA(Vo/Gt)の第一声に、熱い歓声が返ってきた。「We are not serious, but we have many many many passion! よろしく!」とTAKUMAが力強く叫ぶと、疾走感あふれるパンクチューン「VIBES BY VIBES」が炸裂。ギターをかき鳴らすTAKUMAの痛快な歌声に、NAOKI(Ba/Vo)がステージを軽やかにターンしながら低音を響かせ、高揚感を一気に高めていく。

 続く「スパートシンドローマー」では、歪みのある重厚なサウンドが観客を呑み込み、次々と歓声が沸き起こる。彼らの音楽がアメリカの土壌にもしっかり馴染んでいることをリアルに感じさせる。

 MCでは、TAKUMAがMetallicaやGUNS N' ROSESを自身らのインスパイア源として挙げると、KOUICHI(Dr/Cho)が後方から「レッチリー!」と叫ぶ。TAKUMAがすかさず「Red Hot Chili Peppers!」と言い直し、「ソーリー、彼、英語がダメなんですよ。日本語もね」と英語で冗談めかして伝えると、会場は笑いに包まれる。彼らのユニークで親しみやすい人間性がよく伝わる。ステージには「ファイトー!」という声援が飛んでいった。

 「Make some noise!」の掛け声とともに、映画『THE FIRST SLAM DUNK』エンディング主題歌「第ゼロ感」をドロップ。サビでは大合唱が起こり、代表曲「RIVER」ではジャンプとシンガロングで会場が一体となった。日本のトップバンドの底力を見せてくれた。

 ダークで不穏なトラックが流れると、「What's up, LA!」という叫び声とともに、ちゃんみながブルーグラデーションの美しい髪をなびかせてステージ中央へ駆け込んできた。黒のサングラスにブラトップというクールな装いで登場し、HANAを輩出したオーディション番組『No No Girls』のテーマソング「NG」から、媚びない強い意志を放つ。女性ダンサーふたりを加えた「美人」では、鋭いアームムーブと艶やかなフロアワークで観客を魅了した。サングラスをステージに投げ捨てると、TeddyLoidとの共作曲「ダイキライ feat. ちゃんみな」で、エレクトロニックなビートに獣のようなシャウトを重ねる。観客の度肝を華麗に抜いていく。

 日本語/韓国語/英語を自在に操るトリリンガルアーティストであるちゃんみな。「私の夢が叶いました!」と、意外にもこれがLA初パフォーマンスだと笑顔で喜びを語る。自身がプロデュースするHANAを「家族みたい」と愛を伝えると、スクリーンに映ったHANAのメンバーたちが指ハートで応え、会場は温かな空気に包まれた。2年前にLAで制作したというミニマルなハイパーポップ「FORGIVE ME」をキャッチーに歌い上げ、「Can you forgive me? I love you so much……」とはにかむように呟いた。そしてギターを手に持ち、「I’m Not OK」へ。「ツラい時や落ち込んでいる時は、私と一緒に『I’m Not OK』と叫んでください」と語りかけ、力強いストロークと心のこもった歌声で観客の心に寄り添う。会場をエモーションで包み上げた。

 Bad Religionの楽曲「Man with a Mission」をバックにステージに現れたのは、MAN WITH A MISSIONだ。「Hello everybody!  We are MAN WITH A MISSION!」――Jean-Ken Johnny(Gt /Vo/Raps)が挨拶すると、会場は大きな歓声とクラップの嵐に。イントロから疾走感あふれる「Raise your flag」で観客は即座に腕を振り上げ、興奮の渦が巻き起こる。躍動的なギターリフが轟く「Get Off of My Way」、壮大なサビが圧巻の「Merry-Go-Round」と続き、熱量が止まらない。

 「『Zipangu』ハ日本ノ音楽ヲ届ケルベキダヨネ。デモ次ノ曲ハ西洋ノバンドノカバーダヨ」とJean-Ken Johnnyが笑いを誘うと、AC/DCの名曲「Thunderstruck」をMAN WITH A MISSION流のアレンジで披露。原曲のストレートなロックの力強さを活かし、観客の心を完全に掴んだ。10-FEETのTAKUMAをステージに呼び込んだ「database feat. TAKUMA (10-FEET)」で、盛り上がりは最高潮に達する。

 日が暮れゆくなかでも熱は冷めず、ラストチューンへ。最後に披露されたのは、アニメ『鬼滅の刃』刀鍛冶の里編(フジテレビ系)のオープニング主題歌「絆ノ奇跡」。和楽器の音色とヘヴィロックを融合させたネオミクスチャーサウンドでここに集まったすべての人間の感情を沸かせ切る。長年積み重ねてきた海外活動で磨かれたグローバルな実力と存在感を強く刻みつけた。

 燃え盛る校舎を映し出したバックスクリーンを背に、新しい学校のリーダーズの4人がステージに登場した。横一列に整列し、ピンと伸ばした両手をゆっくりと下ろすと、SUZUKAの合図とともに一斉に激しく垂直ジャンプ。会場が瞬時に熱狂に包まれた。

 「Toryanse」では、エレクトロニックなビートに合わせ、RINが激しく首を横に振り、童謡「通りゃんせ」の“門”をくぐるようなユニークなフォーメーションで観客の視線を釘付けにする。新曲「Chanka Chanka」では、妖怪のごときコミカルな動きで夏祭り感を演出し、SUZUKAの演歌調ボーカル、RINの高速ラップ、MIZYUとKANONの清らかなコーラスが融合した多彩なサウンドとともに日本文化を表現した。ヒット曲「オトナブルー」の独特な首のアイソレーションで魅せると、新曲「Oi AG!」では箒をスタンドマイクに見立てたコミカルなステージングを展開。学ランを羽織った「Pineapple Kryptonite」では激しいダンスで会場を盛り上げた。まさに自由自在、万華鏡のように舞台は矢継ぎ早に色を変えていく。

 SUZUKAが「ATARASHII GAKKO! Los Angeles, 『Tokyo Calling』!」と次なる楽曲のタイトルを叫ぶと、禍々しいビートと炎の映像も相まってヒートアップ。SUZUKAはステージからダイブし、観客に担がれながらも歌い続けた。途中で眼鏡を失ったようだが、動じずパフォーマンスをまっとうする姿の見事なまでの潔さ。見ているだけで力を与える強さである。

 ラストの「One Heart」では、〈最高〉の大合唱と色とりどりのペンライトが会場を染め、前向きなエネルギーでステージを締めくくった。世界最大級の音楽フェスティバル『Coachella Valley Music and Arts Festival』出演や33都市におよんだワールドツアーで万単位の観客を動員するなど躍進を続ける彼女らの熱量と独自の世界観に満ちたパフォーマンスは、この日のハイライトのひとつでもあった。

 ブルーとグリーンのスポットライトが交差するなか、千葉雄喜が飄々とした雰囲気で登場した。白Tシャツにパーカーを引っかけたラフなスタイル、シンプルなDJセットで「重てえ」を披露すると、早くも会場からは「OMOTEE!」とレスポンスが返ってきた。「お邪魔してます」と丁寧に右手を上げ、「こんばんはー! 千葉雄喜です!」と深々と頭を下げる姿に歓声が上がる。「5カ月前にこちらに引っ越してきました。I love here! 最高すぎます!」と語りかけると、「Yuki、サイコー!」という歓迎の声が飛んでいった。

 「ひとつ皆さんに日本語をお教えします。Don’t worry, 『心配無用』!」と力強く叫んで披露されたのは、もちろん「心配無用」。観客を巻き込みながらコール&レスポンスで会場を盛り上げていく。空がすっかり暗くなった頃、「What a beautiful sky!」と夜空を指さし、スマートフォンのライトアップをリクエスト。会場中に現れたのは、美しい光の海だ。ここでアンビエントな「もらいもの」を投下。この日いちばんの静かなエモーションを生み出した。

 ラストは、「チーム友達」。丁寧にコールを指南すると、「TOMODACHI」の大合唱が起こる。客席にダイブし、ハイタッチをしながら猛スピードで会場を駆け回るなど、積極的に観客にアプローチした千葉。Feidとのコラボ曲「Medellín Takai」が流れるなか、「ありがとうございました!」と大声で挨拶し、颯爽とステージを去った。

 会場の中央に大きなボックスが出現する。会場には、ヘッドライナー・Adoを待ち望んだ観客から大きな歓声が上がった。軽快なリズムに乗せて、〈半端なら K.O.〉とヒット曲「踊」の伸びやかな歌声が広がる。ミドル丈スカートにベルボトム、高いポニーテール姿のシルエットが浮かび上がると、赤と青のペンライトが激しく揺れた。「What’s up 『Zipangu』!」というシャウトに、歓喜のレスポンスが返ってくる。激しいビートの「唱」、「逆光」と続く。Adoが鋭い声を響かせると、会場は大きく沸いた。デビュー曲「うっせぇわ」では、〈うっせぇわうっせぇわうっせぇわ〉という喉が裂けんばかりの日本語の大合唱が響き渡る。激しい怒りのリリックがスクリーンに映し出されるなか、Adoが感情を爆発させた絶唱で会場を興奮の渦に包み込んだ。

 攻撃的なギターから始まる新曲「綺羅」は、本イベントがライブ初披露。〈「もっと先へ、もっと自由に、/そこに足跡はない」〉という力強いメッセージで観客の背中を押す。言語の壁は、音楽の上には存在しないのだと、あらためて思う。続く「アイ・アイ・ア」では、ボックスが電飾で輝き、キレのあるダンスと変幻自在の歌声、そこから一転して生々しい感情の高ぶりを見せる表現力は圧巻であった。

 松原みき「真夜中のドア/Stay With Me」のカバーで会場の空気を優しく緩めたあと、流暢な英語で語り始めた。「今日ここに立てていることはとても幸せです。日本の音楽を愛してくれる皆さんが、私に力をくれています。本当にありがとう」。そして、出演したすべてのアーティストへ感謝を伝え、日本語で「『Zipangu』が開催できたことは、ここにいる皆さんのおかげです」と続けた。

 ラストは映画『ONE PIECE FILM RED』の主題歌「新時代」。日本の楽曲として初めてApple Music「トップ100:グローバル」1位を獲得した、Adoが切り開いた日本の音楽の“新時代”を象徴する一曲だ。

「I sing for every single one of you here.Believing in dream.Believing in future.This is “New Genesis”!」(ここにいる皆さん一人ひとりのために歌います。夢を信じ、未来を信じて、これが“新時代”!)

 一言ずつ丁寧に想いを届けると、その圧倒的な歌声がパサデナの夜空へと響き渡った。

 「日本のアーティストがこれからも夢と希望を持って音楽制作を続けていくため」「日本の音楽業界が今後も活動規模を拡大していけるように」(※1)――主催であるクラウドナイン代表取締役社長・千木良卓也氏のそんな思いが込められた、日本の音楽の挑戦=『Zipangu』。実際に会場で感じたのは、日本の音楽シーンが持つ豊かな多様性だった。

 ロック、HIPHOP、ダンス&ボーカル、ボーカロイドカルチャーまで、ジャンルも表現方法も異なるアーティストが海外・アメリカの地で一堂に会した空間で、観客は素直な熱狂を見せ、初めて触れるであろう音楽にも身体を揺らしながら楽しんでいた。言語や文化の違いを超えて音楽が届く時代となった今だからこそ、こうして日本のアーティストが同じステージに集い、それぞれの個性を世界へ発信する意義は大きい。

 この日の熱狂には、日本の音楽がさらに世界へ広がっていくたしかな可能性が宿っている。夢物語でもなんでもない。日本の音楽は、これから新時代へ向かっていく。世界中で愛される音楽になっていく。その本当の意味での船出が、この『Zipangu』だったのだ。

※1:https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h11724

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