a子、ロックへの共感を強めた新境地 『lovely moments』に至る創作の進化と再構築されたサウンドに迫る

a子は天使にも悪魔にもなる。甘い夢を見させるようなウィスパーボイスを聴かせたかと思えば、ハウスとロックを仄暗い音色で結合させたような、怪しくゆらめくダンサブルな楽曲で感傷を誘う。ビジュアルにはいつだって鋭さがあった。フランス映画の『アメリ』に暗黒エキスを注入したような、ダークでファンシーなルックとその世界観――〈I am a villain〉というリリックがこれほど似合うシンガーもそういないだろう。彼女の表現はカラフルだが、しかしいつもうっすらと闇が漂っていた。
a子ははじめからミステリアスだった。匿名じみたアーティスト名、霞の奥から聴こえてくるようなサウンド、物憂いメロディとリリック、か細いボーカル、その声を殺さないためのソフトな音色のドラミング。私が初めてライブを見たのは2023年頃だったが、輪郭を掴ませない音像の中で、真紅の髪だけが確かな存在感を放っていた。
つらつらとa子の所感を書いてみたが、そうしたイメージに囚われていると、彼女の進化に置いていかれてしまう。5月20日にリリースされた2ndアルバム『lovely moments』は初っ端からガツンとくる。「恋は生まれた」のまるでロックバンドが歌う抒情的なミッドナンバーのような幕開け。音のシルエットはこれまでになくくっきりとしており、彼女の声もどこか生々しい。まるでa子の実像に不意に触れるような錯覚......声だけではない。これほどギターの音が前景化した楽曲は、彼女のディスコグラフィでは初めてではないだろうか。何よりアルバムを聴き終えた後に沸き上がってくる、この爽やかなバイブスはなんだろう。
メジャーのフィールドで重ねてきた変化
まずは1作目のアルバム『GENE』(2024年7月)からの流れを振り返ってみよう。はじまりは「ときめき」だった。『GENE』を発表した4カ月後にリリースしたシングルで、それまでのイメージを刷新するような華のある曲調とMV。言うなれば「ときめき」はモータウンからの影響を消化した虹色のポップソングである。アルバムには未収録ながら、あの楽曲で彼女の表現域は広がったように思う。
その後に続いた3曲のアニメタイアップ――「MOVE MOVE」(『宇宙人ムームー』)、「Turn It Up」(『ダーウィン事変』)、「ハーモニー」(『霧尾ファンクラブ』)の制作でも随分刺激を受けたはずだ。かねてから『攻殻機動隊』や『AKIRA』からの影響を公言していたa子である(※1)。「racy」のMVにはその影響がはっきりと表れているように、アニメの世界で自身の作品が聴かれることは本望だろう。無論それは新しいリスナーにリーチする期間にもなったはずで、『lovely moments』がメロディ、及びa子のボーカルを強く前へと出していく作風になっているのは、そうした状況の変化も影響しているのではないだろうか。昨年は上半期に心斎橋BIGCAT、EX THEATER ROPPONGIにてワンマンライブを行い、下半期には自身最大規模のZepp DiverCity(TOKYO)にてツアーを完走。今年6月から自身初となる全国ツアー『a子 LIVE TOUR 2026 “JUNO”』を控えるなど、彼女は日に日にポピュラリティを獲得している。いわば自身の音楽をメジャーのフィールドで鳴らすのを楽しみながら、a子はそのサウンドデザインを再構築してきたのだ。
『lovely moments』に刻まれた実験の軌跡
『lovely moments』は瑞々しい作品だ。まず印象的なのは、存在感のあるベースに対し、ドラムはクリアで軽いアタック感のものに統一していること。どんな楽曲もリズムは圧が少なく、ひんやりとしている。上音も含めて透度が高いというか、それによって引き立っているのがメロディだろうか。アルバム前半部は特に快い。タイトなリズムと目まぐるしい音の差し引きで踊らせる「モナリザ」、インディーズ時代から続くハウス興味の最新系「朝が近い夜」、パワフルなファンキーソウル「magic」、硬質なビートと乾いたウィスパーボイスが不穏な印象を与える「Turn It Up」と、彼女の声はこれまでになく音と共に踊っているようだ。
はっきり言って「ラヴ・レター」は何度聴いても引き込まれる。というか、何度聴いても不思議だ。地面から5cm浮いている感じというか、現実離れしたシンセが暴れているのだが、無機質なトラックとともにa子の歌は力強く突き抜けていく。音だけ聴いていると奇妙な気分になるものの、歌には本作屈指の引力を感じるのである。とびきりメロディアスな曲調を、勝手気ままな上音で包み込んだような曲だ。ポップなメロディに遊び心のあるサウンドを結びつけるという点で、この曲はここ数年のa子の研鑽が表れた楽曲ではないだろうか。
オリエンタルな音色と速いテンポで踊らせる「MOVE MOVE」、どことなくY2Kの気分を感じる「Happy Summer Baby」も佳曲である。でも、なんといってもこのアルバムは「ハーモニー」だろう。この曲の涼やかな透明感がすべてをさらっていく。今後、このミュージシャンを“ダーク”や“ミステリアス”という言葉で安易に形容することははばかられるくらいだ。さりげなく物語の始まりを感じさせるギターリフ、エモーショナルなバンドサウンド、そしてa子は切ない慕情を綴った歌詞を、感情的になりすぎず、甘やかなウィスパーで歌っていく。このバランス感覚こそが彼女の魅力だろう。a子の声は言葉の意味を強調しすぎず、どこまでも曖昧なニュアンスを残す。だからさらりとリスナーの耳に届くのだ。
どことなくBeabadoobeeからの影響を感じるのは気のせいだろうか。「恋は生まれた」と「ハーモニー」の印象からか、『lovely moments』はこれまで以上にロックへの共感を強めた作品のように思える。いや、かねてから「土台はロックにある」と語っていたa子である(※1)。元来持っていた強みが、改めてここで強調されたと見るべきだろう。いずれにせよ、こうした方向は今後も折を見て顔を出していくはずだ。
a子の音楽は、キャリアを経るごとに色彩を増してきた。端的に言えば自分だけのポップを掴み取るための試行錯誤、それがここ数年のa子の創作である。とりわけJ-POPへの目配せが発露したのは『Steal your heart』(2023年12月)からで、この2年半はその実験を楽しむ道中だったはず。『lovely moments』がその道のマイルストーンであることは間違いないだろう。メロディアスな曲調と言葉を活かしたサウンドを志向しつつ、耳を楽しませる音楽的な工夫も失われていないのである。
改めて「londog」というチームの強さを実感する。彼女を中心としたクリエイティブチームであり、a子の楽曲はそこで作詞、作曲、編曲、その他MV等の制作までが行われる。だから彼女の創作には1本の幹が通るのだ。音の質感を変えても不変の魅力が際立つのは、a子の作品には“音”と分かち難く彼女自身の“美意識”が結びついているからだろう。
〈来世に期待して ハイになりたいの/春の匂いがしたら ナイーブな時期が来る〉(「朝が近い夜」)
〈変わらないままで生きてよね 変わらないなんてできないさ〉(「ずっと消えない」)
〈しあわせなんて嘘で良かった〉(「MOVE MOVE」)
刹那的で、奔放で、ちょっぴり憂鬱。a子が綴る恋はあけすけで不安定だが、それ故に魅惑的だ。
※1:https://spincoaster.com/interview-ako-steal-your-heart


■リリース情報
2026.5.20(水)リリース
a子 2nd アルバム『lovely moments』
Pre Add / Pre Save:https://lnk.to/AKO_lovely_moments
[発売形態]
・CD Only / PCCA-06480 / 3,300円(税込)
・CD + Blu-ray / PCCA-06479 / 5,940円(税込)
<収録内容>
[CD収録曲]全12曲収録
1. 恋は生まれた
2. モナリザ
3. 朝が近い夜
4. magic
5. Turn It Up (TVアニメ「ダーウィン事変」エンディング主題歌)
6. ずっと消えない
7. ラヴ・レター
8. MOVE MOVE (TVアニメ「宇宙人ムームー」第2クールオープニング主題歌)
9. Happy Summer Baby
10. フィールヤング
11. Earl Gray
12. ハーモニー (TVアニメ「霧尾ファンクラブ」エンディングテーマ)
Blu-ray特典映像 「Endless Vacay」
・a子 LIVE TOUR 2025 “Odyssey” at Zepp DiverCity(TOKYO)
・ako vlog in London
・ako vlog in Paris
a子『lovely moments』特設サイト
https://akolondog.net/lovely_moments/
■関連リンク
a子 Official web site:https://akolondog.net/
























