エルスウェア紀行 安納想×映像ディレクター 阿部友紀子 “括れない好き”が生んだ「温度と一部」MV秘話

エルスウェア紀行がメジャー1st EP『ghost walk e.p.』を発表した。エルスウェア紀行は前身バンドからの改名を経て、“どこでもない場所を旅する記録”を掲げ、2020年8月に始動した安納想とトヨシの2人組。その楽曲は“魔改造シティポップ”や“令和のニューミュージック”と呼ばれ、懐かしくも新鮮な現代のポップスとして響く。
リード曲「温度と一部」のMVは、これまでも一緒に作品を作ってきた映像ディレクターの阿部友紀子が監督。2021年に発表した「ひかりの国」からの連続性を感じさせる内容は、以前からのファンに深い感動を与え、新たなファンにはフレッシュな刺激を届けるはずだ。“括れない好き”をテーマにした「温度と一部」の話を軸に、安納と阿部にエルスウェア紀行のこれまでとこれからを語り合ってもらった。(金子厚武)
“積み重ね”が生むクリエイティブ
――まずはおふたりの出会いについて教えてください。
安納想(以下、安納):8年前ほど前、トヨシさんとも出会って間もない頃にTwitter(現X)でフォローしていた方のリツイートで、友紀子さんが撮った8秒くらいの動画をたまたま観て。心がぎゅっとなる感じがして、とても惹かれました。当時はまだMVを作ったことがなくて、自分たちが作りたい世界観も定まっていなかったんですけど、前身の名義で初めてのEPをリリースしようというタイミングで「トレーラーを作りたい」みたいな話が出ていて。とにかく友紀子さんの映像が素敵だったから、半分衝動的に「ご一緒したいです」と連絡したんです。そうしたら、その翌週に、栃木(安納とトヨシの出身地)に来てくださって。
阿部友紀子(以下、阿部):カメラひとつだけ持って栃木に行って、特に何を撮るとも決めずに、おふたりに街を案内されるがまま、歌っている姿や演奏する姿を撮影させていただきました。
安納:そんなにすぐにお会いできるとは思っていなくて(笑)、とても嬉しかったです。「一回打ち合わせをしましょう」ということもなく、初めてお会いした日にそのまま撮った感じでしたよね。
阿部:曲を聴いて、本当に素敵で。どこか郷愁的で情緒的な空気感が、自分が映像で表現したかった方向性と重なった感じもあって、すぐに撮影してみたいと思ったんです。当時は映像制作会社でディレクターをやっていて、広告がメインの会社だったんですね。また別の軸としてずっと音楽が好きだったので、音楽を作る人と、一緒に時間をかけて大切に映像を作りたい気持ちがあって。流行的なものではなくて普遍的な美しさを感じる楽曲から、おふたりの音楽に対しての誠実さを感じて。ふたりとならそれができそうな気がしたし、音楽そのものだけではなく、飾らない真っ直ぐな人柄を本当に好きになったんです。
安納:私が友紀子さんから音楽を教わることもたくさんあって、Lampもそうだし、KIRINJIさんが提供したNegiccoの「愛は光」は撮影中にみんなで聴いて、ヘクとパスカルの『fish in the pool』も、友紀子さんのお家でかかっていて好きになったり。
阿部:Lampは学生時代からよく聴いていて。縁あって一緒に映像を制作したり、昨年の夏にライブがあったんですけど、それも撮影で参加させてもらいました。
――安納さんは阿部さんの映像のどんな部分に惹かれたのでしょうか?
安納:最初は感覚的に、直感的に「好きだ!」と思ったんですけど、一緒にMVを作らせてもらうようになって「友紀子さんは光の使い方がすごいんじゃないか」と思うようになりました。あとは、構図が唯一無二だと思う。何か越しに撮ったり、角度のつけ方だったり。1カットへの執念もとんでもなくて素晴らしいです。でも、言葉で説明するのはなかなか難しくて、友紀子さんが作るものはとにかく好きなんですよ(笑)。

――では逆に、阿部さんから見たエルスウェア紀行の魅力は?
阿部:エルスウェア紀行の曲は歌詞もメロディもすごく豊かだなって、毎回本当に思っていて。今回のEPも一曲ごとに感じる景色や表情が違うから、それぞれ異なる作家が手がけたオムニバス小説を読んでいるような心地もあるけど、でも最後まで聴いていくと「やっぱり全部エルスウェア紀行なんだよな」という感覚になる不思議というか。時代の流れとか、これまでもいろいろな変化があったと思うけど、いつも“エルスウェア紀行”というアイデンティティを貫き通しているふたりの真っ直ぐさが素敵で、私はそれがすごくかっこいいと思ってます。
安納:友紀子さんは曲の解像度が本当に高くて、楽曲と歌詞を送れば、何も言わなくても「見透かされているな」という感じがします。逆に撮ってもらうことで、「そうだったのか」って映像に気づかせてもらって、そのまま次の作品に行くこともある。ラリーみたいな感覚もあって、それがすごく楽しいし、クリエイティブだなと思います。はじめの頃はちゃんと打ち合わせをしていたと思うけど、最近はご飯を食べたりしながら、考えていることを共有し合うなかで自然と映像の方向性も定まっている気がします。
阿部:私は制作を通して安納さんのことを知っていったというか、音楽が来て、映像で返して、それを繰り返すことで、エルスウェア紀行であり、安納さんやトヨシさんのことを知ることができて、そこも大きいのかなと思っていて。文通じゃないですけど、もらっては返してを繰り返してるから、それを言葉にはしてなくても、理解し合えてる部分はあるのかもしれないです。
――音楽以外でも、好きなものが近いんですかね?
阿部:岩井俊二さんとか、谷川俊太郎さんの話とかはしますね。
安納:「好きなクリエイティブを共有して、クオリティを高めよう」みたいなことは思い返すとあまりないのかな。考えていること・最近楽しかったこと・問題だと思っていることとか、それが作品につながることもわかったうえで、作品自体ではなくお互いのことを話してる、という時間が多い気がします。その場でかかっていた音楽の話をしたり、一緒に舞台や美術館に行ったりはするけど、「紹介し合う」みたいなことは、ほとんどしてないかも。
阿部:そうですね。音楽とか映像とか、作品に直結するものよりも、もっと身近にあるものを共有して、「こういうのが好きなんだ、じゃあこういうのも好きかな?」と思ったり、お互いの話をして、「私もそういう感覚わかるな」と思ったり、そういうことの積み重ねが、結果的に制作に繋がってるような気がしますね。




















