歌声分析 Vol.13:小田和正 人々の心に響き続ける“不変の質感” 唯一無二の濁りなき歌声の真髄を説く

歌声分析

 アーティストの魅力を語るうえで、楽曲だけでなく“歌声”そのものに宿る個性にフォーカスする連載「歌声分析」。声をひとつの“楽器”として捉え、音楽表現にどのような輪郭を与えているのかを掘り下げていく本連載では、技術的な視点からさまざまなアーティストの歌声を紐解いていく。

 第13回目となる今回は、小田和正を取り上げたい。

軽やかなのにぼやけない、“小田和正”の無二の歌声

 小田和正は、1970年にオフコースとしてデビュー。オフコースは、70年代から80年代にかけて、フォークがニューミュージックへと変遷する潮流を牽引した存在である。初期のオフコースの曲はフォークのテイストが強いが、「Yes-No」(1980年)あたりから、コード進行やメロディラインなどにおいて洒脱でクールな方向に舵を切った。都会的な知的さと、大衆的すぎない洗練さが、当時の若者を中心に支持を広げ、ヒット曲を次々と送り出した。また、当時全盛だった歌番組に積極的ではなかったスタンスも大衆との絶妙な距離感を生み、ポップスシーンの中で独特の立ち位置を確立していった。

オフコース「愛を止めないで」(フジテレビ系 日9ドラマ『OUR HOUSE』主題歌)

 その中心にあったのが、小田の歌声である。

 小田のボーカルは、クリアなまま頭上へ抜けるヘッドボイスへの移行に特徴がある。地声との境界が明確ではなく、声の切り替えというよりも“空気の連なり”のように扱われている。ここで言うヘッドボイスとは、通常のファルセットとは異なり、息を逃がさず声帯の芯を保ったまま、共鳴の主軸を頭部へ移行させる歌唱のことを指す。そのため音の輪郭が崩れず、音は細くならずに上方へ抜けていくのだ。さらに、言葉や音がその場に溜まらず軽やかに上へと抜けるため、発音の濁りも生じにくい。“透明感”や“クリア”という言葉以上に、“濁らない声”であることも大きな特徴と言える。声質はソフトで発音は柔らかいが、どの音階でも言葉の輪郭を失わない。この軽やかなのにぼやけない声が、声とメロディ、言葉を長い余韻のように残す理由だと考察する。

 本稿では、年代別に曲をピックアップし、小田和正の歌声について分析していきたい。

 オフコースとしてリリースした「言葉にできない」(1982年)は、〈la la la……〉というワンフレーズが印象的なミディアムチューン。小田はこのフレーズで、一音一音を引き延ばすのではなく、軽く触れては離す動きを繰り返している。それでも途切れずに聴こえるのは、息が絶えず流れ続けているからだ。置かれた音がすべて上方向へ抜けていく中で、後半に向かい母音を徐々に強く発することで、“ラ”という言葉に感情を乗せている。エンディングの〈今あなたに会えて〉では、ヘッドボイスのまま声を張り、わずかな濁りを加えるが、続く「Uh」で安定したロングトーンを響かせ、優美な余韻を残して終わる。

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