Ms.OOJAはなぜ演歌に挑戦した? “演じる歌”から改めて学んだ歌心と日本語の美しさ

Ms.OOJA、演歌に挑戦した理由

 4月22日、Ms.OOJAが初の演歌カバーアルバム『Ms.ENKA~OOJAの演歌』をリリースする。デビューから15年、Ms.OOJAが向き合ってきたのは「歌うこと」そのものだった。演歌も、その延長線上にある音楽のひとつと言えよう。演歌を特別視するのではなく、自然な流れで手を伸ばしたカバーアルバムについて、本人にたっぷり語ってもらった。(高橋梓)

デビュー15年目にして演歌にチャレンジする理由

15th Anniversary 2026 4/22(水)発売 初の演歌カバーアルバム Ms.ENKA 〜OOJAの演歌〜 全曲トレーラー

ーー『Ms.ENKA~OOJAの演歌』のリリース、おめでとうございます。Ms.OOJAさんが「演歌」に一番最初に触れたのはいつ頃だったのでしょうか。

Ms.OOJA:幼少期にテレビで見たことはありましたが、正直そこまで興味がなくて。「この曲好きだな」と思ったのは小学生くらい。父が桂銀淑さんのカセットテープを聴いていて、「この人の歌声すごく好き」、「ハスキーボイスがかっこいい」と思った記憶があります。特に「すずめの涙」は何回も聴いて、歌っていましたね。今思えば桂銀淑さんの楽曲は演歌というよりも歌謡曲に近かったと思うのですが、逆にそこが幼い自分に刺さったのかもしれません。

ーーそこからデビュー15年を迎えた今にかけて、演歌に対する印象は変わりましたか?

Ms.OOJA:変わりました。最初は演歌を聴く機会もなかったですし、失礼ながら「お年を召した方が聴く音楽」という印象がありました。それが変わったのが、2015年くらい。『BS日本のうた』(BSプレミアム)に出演させていただいたことがあったのですが、私以外の全員が演歌歌手の方だったんです。そこで初めて演歌歌手の方々の生歌を聴いて、「え、上手すぎる!」と。しかも、皆さんふわ~っと気軽に収録にいらっしゃって、気負わずサラッと歌っていて、淡々とステージをこなしているように見えて。その姿がすごくプロフェッショナルでかっこいいと思いました。そこから演歌という日本独自の音楽にしっかり触れ始めて。「こんなにかっこいい世界があるんだ」と気づいてから徐々に入り込んで、歌謡曲カバーの『流しのOOJA』シリーズをリリースして、気がついたら演歌カバーにたどり着いていました。

ーー最初に演歌カバーをすると聞いた時、正直「なぜ演歌!?」と思ってしまったのですが、実際に楽曲を聴くとすごく納得して。仰ったように、演歌はこれまでのMs.OOJAの活動の延長線上にあったものなんだな、と。

Ms.OOJA:そうなんですよね。『流しのOOJA』で歌謡曲を聴いてくださっているのって、50代~60代の方々が多いんですよ。そこで知ったのですが、演歌を聴く50代~60代ってすごく少ないんです。となると、演歌を聴く年齢層は70代以上になるわけで、狭い年齢層にしか聴かれていないことがすごくもったいないと感じました。こんなにも素晴らしい音楽があるんだから、もっと若い世代にも伝えたくて。もちろん演歌は演歌で素晴らしい世界観があって、それを引き継いでいる方々はいらっしゃるのですが、違う角度から歌ってみると面白いんじゃないかな、と。そう感じてから、「いつの日かトライしたい」と強く思うようになっていきました。

ーートライしたいと思うようになったのは、いつ頃だったのですか?

Ms.OOJA:『流しのOOJA 3~VINTAGE SONG COVERS~』をリリースしたくらいかな。『流しのOOJA』シリーズが完結したので、次は何をしようかなと考えていたんです。演歌カバーと90年代カバーという案が出て悩んでいた時に、「冬隣」や「ベサメムーチョ」を書いている杉本真人さんのライブを拝見する機会があって。そのライブで「冬隣」を弾き語りで歌われていたのですが、曲と歌詞が素晴らしくて「え!? めちゃくちゃいい曲!」と衝撃を受けました。そこでちあきなおみさんが歌っていると知ったので、家に帰ってからちあきなおみさんバージョンを聴いてみたらむちゃくちゃかっこよかったんです。「絶対に歌いたい!」と思って、演歌カバーをすることにしました。

ーーそんな経緯があったのですね。

Ms.OOJA:なので、今回のアルバムは「冬隣」がキーポイントなんですよね。杉本さんの原曲バージョンに感動したのが直接的なきっかけではあるのですが、もともと私はちあきなおみさんもすごく好きで。「冬隣」を聴いた時に、「あぁ、この曲で私は演歌の扉を開くんだ」と感じました。

ーー歌唱法という点でも、これまでMs.OOJAさんが歌ってきた楽曲のジャンルと演歌に共通点がありそうです。

Ms.OOJA:「日本語を歌う」という部分がキーになってると思います。私、洋楽も大好きなんですよ。大好きなんだけど、自分が歌うなら日本語を大切にしたくて。聴いてくださる皆さんからも「Ms.OOJAの曲は歌詞がすごく入ってくる」という感想をいただくことが多いんです。それって、Ms.OOJAが歌う日本語は、特別なものだからなのかもしれない。なのでカバー曲でもオリジナルでも、日本語を歌うのがすごく好き。そうなると、演歌はその原点とも言えますよね。

ーーたしかに。

Ms.OOJA:でも演歌って特殊で、アレンジをしようが、オシャレに歌おうが、歌い方を変えようが、どうやっても演歌になる。今回そう強く感じました。

ーーあの演歌の強さって何が要因なんでしょうね。

Ms.OOJA:本当に。でも、日本オリジナルだからなんだろうなとは感じていて。土着的なものが強さになっているんでしょうね。民謡のような地域に根付いてきたものが進化して、日本の音楽になって演歌という形に昇華されたと思うんですよ。当時は海外からの情報もほとんどない中で演歌が生まれて育ったので、完全な日本オリジナルですよね。だから強いし、日本の血が流れている私たちの心に残るんだと思います。

ーーあぁ、なるほど。Ms.OOJAさんはこの先、「土着」のような部分を意識してアーティスト活動をされていこうと思っていたりも?

Ms.OOJA:そうですね。演歌と同じように、「どうしたってMs.OOJAになるよね」という状態を目指すのがアーティストだと思っていて。たとえばサザンオールスターズや松任谷由実さん、B'zなど、日本のレジェンドたちって、何をしてもその人たちの音楽になるじゃないですか。そう考えると、そこにたどり着くのがゴールなんじゃないかなと思うんです。

ーーおっしゃるとおりです。

Ms.OOJA:それにインバウンドや移民の話が多くなっている今の時代背景的にも、日本のアイデンティティをしっかり持つ動きが高まってくると思うんですよね。最近ね、あえて渋谷などの人がめちゃくちゃいるところを歩くのが好きなんですよ(笑)。観光に来た人の目線で歩いてみるんです。先日、渋谷のスクランブル交差点を歩いている時に「日本っていい国だな」と感じてたことがあって。あれだけカオスな状況でも、街自体が比較的綺麗じゃないですか。しかも海外から来た方もモラルを守っていますよね。それは、おそらく日本人が放っている空気感に倣おうとしているからなんじゃないかと思うんです。グローバルな目線で見ると時にマイナスと言われる「空気を読む」、「忖度する」、「言葉にしないけど察する」といった日本独自の“良さ”を、なぜかスクランブル交差点で感じて(笑)。こんないい国に私は生まれているんだと、ちょっと感動しました。

ーーそう考えると、演歌にも「言いたいけどはっきり言わない」という部分がありますよね。

Ms.OOJA:そう、そう! メロディーに合わせているので、言葉数が限られているんですよね。それに、今回私が歌っている曲は酒、涙、別れ、雨、雪など、ちょっと悲しい、マイナスな要素のことを歌っている暗めの曲が多いんです。だからこそ含みがあって、聞き手が想像できる。「相手はこういう男性だったんだろうな」とか、「お酒を飲んで一人で泣いている横にいる人と新しい恋が発展するのかな」とか。勝手にストーリーを展開させるような余白があって、その余白こそが日本の性質を物語っているんじゃないかなと思うんです。

ーーよく、アーティストさんが「考察の余地を残しました」という作品を作ることがありますが、その究極系が演歌なのかもしれませんね。

Ms.OOJA:たしかに。当時はすごい音楽を作っていたんだなと、リスペクトしかないです。

ーーそんな中で誕生した『Ms.ENKA~OOJAの演歌』は、何かコンセプトやテーマを設けていたのでしょうか。

Ms.OOJA:コンセプトは特に決めていませんでしたが、「私が歌うとしたら」を軸にしました。演歌にはこぶし・うなりといった技法があって、それが入らないと成り立たない曲もたくさんあるんですね。でも、私はトライできないなって。J-POPの系譜で歌って成り立つ、という部分をすごく大切にしました。

ーーこぶしを習得しようとはされなかったのですね。

Ms.OOJA:取ってつけてできるものではないと思ったので、しなかったです。こぶしって幼少期から演歌を歌っているとか、民謡を習っているとか、英才教育を受けていないとできないものだと私は思っていて。長い時間をかけたら習得できるかもしれないですが、今からそこにトライするのはリスキーだし、いいものはできないと判断しました。それよりも、私が歌って良くなる曲、私が歌うことに意味がある曲を選びました。

ーーなるほど。そして、『Ms.ENKA~OOJAの演歌』というアルバムタイトルもインパクトがあって、ファンの方もざわざわしていました。

Ms.OOJA:自分としては意外な反応でしたが、きっと皆さん「Ms演歌」という字面が最初に思い浮かんだと思うんです。そう考えると、「たしかにざわつくな」と納得しました(笑)。

ーーこのタイトルはどう決まったのですか?

Ms.OOJA:プロジェクト自体が2年くらい前からあったのですが、ちょうどそのタイミングで演歌が好きな中国人スタッフがチームに入ってきたんですね。とんでもなく良いタイミングで、我々日本人よりも演歌に詳しい中国人スタッフが入ってくれて、アドバイスをもらいながら一緒に選曲をしていたんです。それで、ピックアップしてみた曲をプレイリストにして聴いてみようということになって。そのスタッフさんが作ってくれたのですが、そのプレイリスト名が「Ms.ENKA」だったんです。

ーーおぉ!

Ms.OOJA:すごくわかりやすいし、Ms.OOJAが歌う演歌という意味も込められているし、見た瞬間「これめっちゃいいじゃん!」と(笑)。それまで、たくさんの方に愛していただいた『流しのOOJA』を踏襲する案も出ていたんです。でも「Ms.ENKA」を見た瞬間ビビッと来てしまって。それと、アルファベット表記にしたのは、海外の方にも聴いてほしいという思いがあったから。「演歌」は英語でも「ENKA」なんですよね。このジャンルがもっと広がればいいなという思いも込めて、『Ms.ENKA』という名前にしました。

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