藤井 風「It's Alright」レビュー:自身の“内側”に目を向ける視点 欲望を手放し、本来の状態へ
先日、アメリカ最大級の野外音楽フェスティバル『Coachella Valley Music & Arts Festival 2026』(以下、『コーチェラ』)に初出演を果たした藤井 風。2週にわたって繰り広げられたステージにおいて、1曲目に披露されたのが「It's Alright」だった。
「It's Alright」は、昨年9月にリリースされた3rdアルバム『Prema』の初回盤に収録され、今年4月に配信リリースされた『Pre:Prema』にも収められた楽曲である。『MUSICA』2025年10月号(FACT)でのインタビューによれば、本楽曲は2020年頃に制作され、当初はMISIAへの提供曲候補として「Higher Love」とともに提出されていたという。結果的に当時はリリースに至らなかったが、約5年の歳月を経て、自身の作品として発表されることになったわけだ。
楽曲を再生するとまず耳に飛び込んでくるのが、尺八や篠笛といった日本の伝統楽器の音色だ。その後、トラップビートに和製的なメロディが重なり、独自のサウンドが展開されていく。先述の『コーチェラ』のステージでも、このどこか奇妙さを覚える音像が異彩を放っていたことが印象深い。
歌詞を見ていくと、〈この世は私の思わく通りに/今日とて可愛く回っています〉というフレーズからは一見支配的なニュアンスも感じられるが、続く〈God is inside, is inside us〉(神は我々の内に)、〈This is our time, is our time, thus〉(これは我々の時代)などを踏まえると、その意味合いは異なる様相を帯びてくる。ここで示されているのは、外の世界を思い通りに動かすのではなく、自らの心の在り方によって世界は愛おしく見えるという視点だろう。それを象徴するように、〈Come, cry ur heart, cry ur heart out〉以降の部分からは穏やかに諭すようなボーカルに変化。繰り返される〈It's alright〉(うまく行く)という言葉もまた、聴き手を強く鼓舞するというより、現実を受け入れるための静かな肯定として響いてくる。
4月23日正午に公開されたMVも、楽曲同様に独特な世界観が広がっている。地中に埋まる藤井の姿から始まり、「泥無くして蓮は無し」と記された注連縄のもとに器楽にあわせた舞が展開される儀式的な空間、「静かなる心」と記された清らかな空間、「大地は花と笑ふ」と記された花々に満ちた空間と、映像では3つの世界が描かれている。これらの世界は上下に連なっているようで、さまざまな解釈ができそうだが、個人的には仏教における三界(欲界、色界、無色界)を想起させた。終盤では、最下層に存在していた者たちが「我らは星光」という言葉とともに天高く舞い上がり、その3つの世界を手にした藤井の姿が映し出されて、映像は幕を閉じる。
3rdアルバムのタイトルでもあった〈Prema〉はサンスクリット語で“無条件の愛”や“至高の愛”を意味する一方、曲中に登場する〈kama〉は“欲や快楽を含む愛”を指す言葉だ。〈Give it up, kama〉(諦めなさい、カーマ)、〈Bring it on, Prema〉(こっちにきなさい、プレマ)とあるが、楽曲とMVで表されているのは、欲望を手放すことで本来の状態へと立ち返っていく感覚なのかもしれない。「我らは星光」という言葉が示すように、私たちはもともと内なる輝きを秘めている。外に何かを求めるのではなく、それに気づくことによって、世界は穏やかに回っていくと教えられているようだ。
「It's Alright」は、私たちの内側にある感覚をそっと呼び起こすような楽曲である。藤井が『コーチェラ』の1曲目にこの曲を配置したことも、その優しくも普遍的なメッセージを世界に届けるためだったのかもしれないとあらためて思う。
























