Mrs. GREEN APPLE、「風と町」で描く“営み”の普遍性と尊さ 『風、薫る』との共振から紡がれた確かな希望

大森元貴は“風”というモチーフに何を託したのか

 ドラマと共通する“風”というモチーフを、大森は楽曲の中心に据えた。風は、いつの時代にも、どんな場所にも吹いている。人々の価値観や趣味趣向がどんなに多様化しても、「そもそも人と人が完全に分かり合うことは不可能だ」という哲学的な前提の上でも、たとえ違う時代を生きている人同士でも、等しく共有できる不思議な存在だ。『風、薫る』の登場人物と2026年の現実世界を生きる私たち――出会うことの叶わない両者を結んでくれる、共通項とも言えるかもしれない。

 「風と町」では、個人の一生と時代の流れが同じ構造で描かれている。1番は、変化を予感し、一抹の寂しさを覚えながら生きている“私”の話。2番に入ると〈あなたが生まれた一大事を/悦んだあの輪も〉〈この血が憶えてる〉といった表現によって、時間のスケールが一気に拡大し、“私”という個人が連綿と続く何かの一部であることが示される。しかし“私”は、大きな流れを実感しながらもその中に埋没しようとはせず、むしろ〈揺れた葉の優しさも〉〈やり場のない惨めたらしさも〉といった具体的な手触りとともに、〈私は確かな強さを学んで〉と能動的に生きている。ボーカルも1番と比較して力強く、その能動性が音にも表れている。

 1番、2番が終わったあとの間奏では、オルゴールに似た音色のキーボードがメロディを紡ぐのみ。その後に続くDメロも、これまでとは明らかに異なる静けさを帯びている。サウンドの雰囲気も相まって、ここで歌われている言葉は、誰のものでもない声のように感じられる。歌詞からは〈私〉という一人称が消えており、〈おはよう〉〈おやすみ〉といった何気ない挨拶も“私”が誰かに掛けた言葉ではなく、風が何千年の歴史の中で聞き留めてきた人の声の残響とも解釈できる。

 サビラストで必ず歌われる、そして楽曲を締めくくるフレーズでもある〈風はただ知っている〉は、それこそどんな場所にも吹く風のようだ。風は人の営みを肯定も否定もしない。そこにあるのは“風が吹いている”という事実のみで、自然現象をあるがまま描写している点に、大森の誠実さを感じる。同時に“吹いている”ではなく〈知っている〉とし、風に“見守る存在”としての眼差しを与えているのもポイントだ。自分の頑張りを、誰かになかなか見てもらえなくても――誰かと繋がれた喜びの記憶が薄れたり、志半ばで命が潰えてしまったとしても、懸命に生きた日々の痕跡が、のちの時代に繋がるかもしれないという可能性まで含めて、風はあなたを見てくれている。大森はこれまでも無責任にならない範囲で、しかし確かに希望を歌ってきた。今回はそれを“風”という大きなモチーフに託している。

 いつの時代にも、どんな場所にも吹いている風は、実は私たちのことを見てくれているのかもしれない。そんな静かな想像が、この曲に確かな温度を宿している。そしてその温度は、『風、薫る』の物語と地続きであり、今を生きる私たちの時間にも確かに触れている。誰にも気づかれなかったかもしれない日々も、風はちゃんと知っている。その歌を朝に受け取れるのは、思いのほか心強いことだ。

 ※1:https://www.billboard-japan.com/special/detail/4829

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