Mrs. GREEN APPLE、「風と町」で描く“営み”の普遍性と尊さ 『風、薫る』との共振から紡がれた確かな希望
Mrs. GREEN APPLEの新曲「風と町」が4月13日に配信リリースされた。同曲は、3月30日から放送が始まったNHK連続テレビ小説『風、薫る』の主題歌。大森元貴(Vo/Gt)は昨年放送された『あんぱん』に役者として出演しているが、ミセスが朝ドラの主題歌を手掛けるのは今回が初めてだ。とはいえ、昨年大晦日の『第76回NHK紅白歌合戦』で、白組トリを飾ったミセス、そして『あんぱん』スペシャルステージにも登場した大森の活躍は記憶に新しく、今回の起用に関しても、驚きより納得感の方が強いという人が多いのではないだろうか。
ミセスが巨大な存在になっても“見逃さないもの”
ミセスはどれだけ大きな存在になっても、日々の温もりや生活の手触り、人が人らしく生きることについて歌い続けている。それぞれテーマの異なる直近の3曲――2025年最後のリリース楽曲「GOOD DAY」、2026年かつフェーズ3最初のリリース楽曲「lulu.」、そして今回の「風と町」で、“優しい人間でありたい”という想いが共通して歌われている点も象徴的だろう。映画『#真相をお話しします』に主題歌「天国」を書き下ろした際には、“流行りのバンドのボーカリストが映画の主演を務める”という状況をメタ的に捉え(※1)、『紅白』という大舞台で〈いつまで経っても/愛すべき茶番だけど〉(「GOOD DAY」)と歌った大森。彼はミセスの立場や規模を俯瞰しながら、自身の人生をエンタメに注ぎ込むショウマンとして歩んでいる。同時に、楽曲にはささやかな願いを込めており、自分にとって嘘ではない、真っ当な言葉を選び続けている。その在り方は、巨大な物語や役割に回収されることなく、目の前の営みに踏み止まろうとする意志の表れのようにも感じられる。
そしてミセスの歌う“優しさを手放さずにいたい”という想いは、人にとって根源的なものだ。忙しない日々の中でつい忘れてしまいがちなものを、忘れないために目を凝らし続けるという感覚は、日々を生きる誰もが抱えているもの。だからこそ今回、朝ドラ主題歌という役割を託されたのだろう。
『風、薫る』は、女性の職業が確立される前の明治時代に、トレインドナースになった2人の女性を主人公とした物語だ。見上愛演じる一ノ瀬りん、上坂樹里演じる大家直美は実在の人物をモデルとしており、人の半生を扱うこのドラマで描かれるのは明るい話だけではない。この原稿を書いている第2週放送後時点で、2人はまだ看護の仕事を始めておらず、様々な事情からシングルマザーとなったりんも、生まれてすぐに親に捨てられて教会で育った直美も、“今日明日をちゃんと生きられるか”という段階にある。明治といえば、従来の価値観と西洋から流入してきた新しい価値観が混在していた時代。嫁ぐことが生きるための唯一の選択肢であるかのような社会の空気に疑問を抱きながらも、他には選択肢がなさそうな“詰み”の状態に直面している2人は、ここからどのような道のりを経て、看護の仕事に就くのだろうか。そしてこの先2人が向き合うことは、まだたくさんあるのだろう。当時浸透していなかった看護の仕事は、自分の手に馴染ませるのも、社会に理解してもらうのも難しいだろうし、もちろん、患者一人ひとりの人生や命の重さにも向き合う必要がある。
そんな作品に対して、ミセスはどんな楽曲を書いたのか。緑や青空、木漏れ日をやわらかな色合いで描いたオープニングのアニメーションとともに流れてきたのは、フィドルやハモンドオルガンを取り入れたカントリー調のサウンドだった。大森の歌声は穏やかで、若井滉斗(Gt)や藤澤涼架(Key)のタッチは繊細かつ優しい。朝ドラといえば、多くの視聴者の日常に溶け込んでいるもの。テレビを観ながら出かける前の支度をしたり、放送時間に合わせて起床するのが習慣になっている人も少なくないだろう。そんな朝ドラと同様、木々を揺らす風のように爽やかな「風と町」もまた、生活の傍らに置きたくなる親しみと温かさを持っている。「これはミセスの楽曲です」という過度な主張はなく、「聴き手をあっと言わせたい」といった意図を感じさせるフックもなく、ひたすらに聴き心地のよい楽曲だ。ミセスをあまり知らない人も含め、老若男女が安心して触れられるような楽曲を目指して制作されたのではないだろうか。そういう意味で、“日本を、年末を明るく彩る”という明確なイメージの下に制作された「GOOD DAY」に表れていた“時代を背負い照らす”覚悟が、「風と町」にも通底しているように感じた。























