a子、実験精神が生み出した意欲作「Turn It Up」 『ダーウィン事変』の価値観と共存するサウンドと“ハイブリッド”な歌の響き
シンガーソングライターのa子が、現在放映中のテレビアニメ『ダーウィン事変』(テレビ東京系)のエンディングテーマとして書き下ろした新曲が「Turn It Up」だ。本楽曲は、物語の余韻を受け止めるエンディングテーマという枠にとどまらず、作品世界の奥行きを別の角度から照らし出す役割を担っている。
敵対する組織の内面に焦点を当てた「Turn It Up」
『ダーウィン事変』は、漫画家うめざわしゅんによる同名原作をアニメ化した作品である。人間とチンパンジーの間に生まれた「ヒューマンジー」の少年チャーリーを主人公に、動物愛護テロ、差別、生命倫理といった現代社会の矛盾を正面から描く、社会派サスペンスとして高い評価を受けてきた。原作漫画は「マンガ大賞2022」大賞をはじめ、「第25回文化庁メディア芸術祭」マンガ部門優秀賞など数々の賞を受賞し、うめざわにとっても作家人生の転機となった代表作。これまで人間の内面や社会の歪みを描いてきた彼が、その表現をより大きなスケールへと拡張した到達点でもある。
a子は、そんな『ダーウィン事変』の原作ファンであり、タイアップの話を受ける以前から作品に強く惹かれていたという。「衝撃的な展開が多い作品」「読んでいて色々考えさせられる素晴らしい作品」と彼女が語るように(※1)、本作が投げかける問いは一方向の正義や勧善懲悪では収まらない。その複雑さこそが、a子の創作意欲を刺激したのだろう。
a子は2020年から本格的に活動を開始したシンガーソングライターである。情緒的な楽曲を自らプロデュースし、ミュージックビデオやアートワークに至るまで、彼女が率いるクリエイティブチーム「londog」を中心に制作を行うなど、音楽表現をトータルで構築するクリエイターとしての側面も強い。彼女の音楽性を特徴づけているのは、「聴いたことのないジャンルを作る」という明確な意志に裏打ちされた実験精神だ。これまでのインタビューでも彼女は、音楽の歴史の中でジャンル自体は出尽くしている一方、異なるジャンルを掛け合わせ、そこに強固な世界観を与えることで、新しく聴こえる音楽は生まれ得ると語っている(※2)。その言葉通り、彼女の楽曲はUKガラージやロック、打ち込みサウンドなど複数の要素を論理的に組み合わせながらも、理屈を超えて感情に訴えかけるエモーショナルな響きを備えている。そうした卓抜したサウンドメイキングと表現力によって、a子は早くから高い注目を集めてきたのだ。
そんな彼女の新曲「Turn It Up」は、いわゆるヒーロー讃歌とは明確に距離を取った楽曲である。本作において描かれているのは、主人公チャーリーの側ではなく、彼と敵対する組織や人間側の視点だという点が大きな特徴だ。
上述のように『ダーウィン事変』の物語には、現代社会が抱える問題が幾重にも織り込まれており、「なぜ人間だけが特別なのか」という根源的な問いが全編を通して提示されている。チャーリーという存在を媒介に、人間社会に潜む差別意識や不寛容さが露わになっていく構造は、本作が高い評価を受けてきた理由のひとつでもある。a子は原作を読み込んだ上で、本楽曲を“既存の価値観や命の在り方について問いかけるもの”として構想を練っていく。その際に彼女が選んだのは、物語の中心に立つチャーリーではなく、彼と対峙する側の内面に焦点を当てるという大胆なアプローチだった。