さらさ、自在に広がる表現のフィロソフィー 桑田佳祐も注目する才能、初ドラマ主題歌抜擢に至るまでの変遷
湘南出身のシンガーソングライター・さらさが、1月14日に新曲「YOU」を発表した。同曲はMBSドラマ特区『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした。』のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲であり、彼女にとって初のドラマタイアップとなる。
本稿では、さらさのルーツや音楽性、創作におけるフィロソフィーを改めて整理しつつ、これまでの代表曲をいくつか振り返りながら、「YOU」が内包する魅力とドラマ作品との親和性を探っていきたい。
“多彩なルーツ&セッション現場経験”を独自の表現に昇華
2022年、1stアルバム『Inner Ocean』で本格的に活動をスタートしたさらさは、アンニュイで憂いを帯びた歌声と、「ブルージーに生きろ」をテーマに、ソウル、ジャズ、R&B、ヒップホップなどを自在に取り入れた音楽性で注目を集めてきた。2024年にリリースされた2ndアルバム『Golden Child』では、複数のアレンジャーとタッグを組むことで、ロックや昭和歌謡といった新たなエッセンスも吸収し、表現の射程を一段と広げている。
もともと彼女の音楽的ルーツは多岐にわたる。以前、GLIM SPANKYの松尾レミ(Vo/Gt)との対談で、さらさは文化祭にて「ワイルド・サイドを行け」など同バンドの楽曲をバンド演奏や弾き語りでカバーしていたことを明かしてくれた。憧れの存在であった松尾本人もまた、初共演時にさらさの歌声を聴き、「バックボーンが見えつつ、今のシーンで輝く才能を持ったアーティスト」だと評している(※1)。さらに、音楽性にとどまらずアートワークやファッションにまで及ぶ強いこだわりからは、自己表現をトータルで設計する彼女の資質が窺える。
2025年末には、さらさの楽曲「Thinking of You」が桑田佳祐のラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FM)で「2025 邦楽ベスト」1位に選出されるという快挙を成し遂げた。ジャンルや文脈を横断する彼女の音楽的多様性が、日本ポップス界のレジェンドの琴線に触れた結果とも言える出来事だ。この一件をきっかけに、さらさの存在はより大きな注目を集めることとなり、リアルサウンド編集部が選ぶ「2026年のネクストブレイクアーティスト」にも名を連ね、WEBメディア「Prism」でも「ブレイク必至 2026年注目の若手アーティスト」として取り上げられるなど、いまや業界内外から寄せられる期待は一層高まりつつある。
また、さらさの音楽的バックグラウンドを語る上で忘れてはならないのが、彼女が10代の頃に身を置いていた“セッションの現場”だ。高校時代、横浜・関内のライブハウスで行われていたジャムセッションに通い詰め、そこで彼女はプロのミュージシャンたちと同じ土俵に立つ経験を積んでいった。その場には、のちにKing Gnuのベーシストとしてシーンの中心に立つことになる新井和輝も、ホストとして参加していたという(※2)。そうしたストイックなセッション環境の中で、さらさは一度心が折れ、音楽から距離を取る時期を経験する。だが、その挫折の先で生まれたのが、自分の内側に正直に向き合った楽曲「ネイルの島」だった。
この曲は、さらさの名を一躍シーンに知らしめた、2022年発表の1st EP表題曲だ。タイトなドラムとうねるベースライン、ワウを効かせた鋭いギターカッティングが陶酔的なサウンドスケープを描き出し、その有機的なアンサンブルに、さらさのアンニュイな歌声が自然と溶け込んでいく。音楽活動を本格化させる大きな契機となったこの楽曲には、初期衝動とルーツ音楽への愛情が凝縮されており、現在でもライブに欠かせない代表曲として鳴り続けている。
また『Inner Ocean』に収録された「火をつけて」は、さらさの楽曲群の中でも、とりわけ衝動性と切実さが前景化された1曲だ。抑制されたテンポの中でじわじわと熱を帯びていくアンサンブルは、感情が内側で燻り続ける過程そのものを音像化したかのようで、聴き手の心拍と静かに同期していく。ミニマルな構成の中で際立つのは、言葉を詰め込みすぎないリリックと、その行間に漂う緊張感。
とりわけ〈火をつける〉というフレーズは、破壊や激情ではなく、“踏み出すための覚悟”や“自分自身を動かすための点火”として機能しており、さらさの歌声によって、決して強がることのないリアルな温度で響く。ちなみにこの曲は、松尾レミをフィーチャーする形で翌年にリメイクもされている。