さらさ、内面を深く昇華したブルージーな歌声 湘南発・注目の才能を2つの新曲から紐解く

さらさ、多方面からラブコールを受けてきた確固たる個性
私は今、湘南に住んでいる。20代は都内でワークライフバランスなど考えられもしないくらいの環境で馬車馬のように働き、数年前のコロナ禍にこちらへ引っ越してきた、いわゆる“移住組”である。今、ここで暮らすのはとても心地がいい。湘南の人たちの――デカい主語で物事を語るのはあまりに乱暴であり、ミクロ視点で言えばこれから語ろうとしていることに当てはまらない人の顔も浮かんだりはするが、一旦大きく括って言わせていただくと――バランス感覚に、私は心地よさを感じている。
人生の価値基準を、“外”ではなく、自分の“内”に置いている。そう感じる人と、この街で出会うことが多い。「日焼けした肌でサーフボードを片手に海辺を歩いている」みたいな、湘南に対する典型的なイメージを言いたいわけではない。資本主義的な現代の価値観のネガティブな面もポジティブな面も理解した上で、それだけに則って自分の幸せを追いかけるのではなく、自分の心が何に豊かさを感じるのかと向き合って生き方を選択している人たち、と言えば想像がつくだろうか。極端に世俗離れしているわけでもない。そのバランス感覚が長けているゆえに、非常に心地いいと感じるのだ。
湘南出身のシンガーソングライター・さらさの音楽には、それに通ずる味わいがある。湘南で聴いていると、ここに漂う空気とさらさの音楽の雰囲気が絡まり合って、全身を柔らかく包み込んでくれる。さらさは「ブルージーに生きろ」をテーマに掲げ、自身の内面の深い部分まで潜り込んだ上で、ネガティブもポジティブも昇華した音楽を生み出し続けているアーティストだ。デビュー曲「ネイルの島」では〈何者にもならなくていいと知った〉と歌い、次の「グレーゾーン」では“何事にも白黒つけなくていい”と歌うなど、やはり人生の価値基準を、“外”も見た上で“内”に置いた言葉を発している。そして自身の内面と自然界を接続させるような音や歌には、目に見えないものや数値・言葉では表せないものを降ろしてくる力さえも宿る。
さらさのこれまでの歩みを簡単におさらいしておこう。2021年に本格始動。まだ活動歴4年ほどであるが、すでに『Inner Ocean』(2022年)、『Golden Child』(2024年)と2枚のフルアルバムをリリースし、『Inner Ocean』は『第15回CDショップ大賞2023』にて「関東ブロック賞」を受賞した。国内のオルタナティブR&B/ネオソウルシーンを牽引する存在としての立ち位置を確立しており、『FUJI ROCK FESTIVAL』『GREENROOM FESTIVAL』『SUMMER SONIC』『朝霧JAM』など、国内の大型音楽フェスに数多く出演。さらには台湾の『LUCfest』や韓国の『ASIA SONG FESTIVAL』など、海外フェスからのオファーも続いている。その歌の表現力はミュージシャンからも評価が高く、これまでにMichael Kaneko、Ovall、清 竜人、s**t kingz、寺久保伶矢、Shin Sakiura、NakamuraEmiなどからラブコールを受けて、フィーチャリングとして楽曲に参加。以前NakamuraEmiにインタビューした際、「湘南っ子というのもあって、自然界のパワーを勝手に持っている人だなってしゃべっているとわかった(中略)この方の歌は、この人にしか歌えない。誰がカバーしてもあの歌には絶対にならない」と、さらさの歌の確固たる個性について語っていた(※1)。
私自身もさらさの魅力に共鳴し、これまでラジオ番組やポッドキャスト『APPLE VINEGAR -Music+Talk-』などにてたびたび紹介してきた。2ndアルバム『Golden Child』以降、ライブは活発に行っていたものの新曲のリリースはしばらくなかったが、約1年ぶりに届けられた「青い太陽」(9月24日リリース)は、これまでのさらさの印象を上回ってくる仕上がりになっていた。
「青い太陽」「Thinking of You」で発揮した“異なる新しさ”
「青い太陽」の編曲・プロデュースを手掛けたのは、有元キイチ。ODD Foot Worksのギタリストであり、コンポーザーとしても活躍する人物だ。有元が書き下ろした三浦透子の「私は貴方」は、「自分が生きているあいだにこの名曲を聴けてよかった……」と言っても大袈裟でないくらいの稀代の名曲だと私は思っている。9月23日に行われた音楽イベント『FM802 & FM COCOLO HOLIDAY SPECIAL Songs in the Airでは、小林武史率いるバンドが「私は貴方」を演奏し三浦が歌う場面があったのだが、数々の日本の名曲を手掛けてきたあの小林が、演奏後に思わず「素敵でしょう?」とこぼすほど、“音楽のパワー”と呼びたくなるものが自然と大放出される曲だ。
「青い太陽」における有元とのタッグは、さらさの「今までご一緒したことない人」とやりたいという想いから実現したという。有元の“引き算の美学”と、ミニマルな音数の中で歌でグルーヴを作ることに長けているさらさのコンビネーションが、抜群に掛け合わさっている。以前、有元にインタビューした際、彼自身が「俺ね、最後に音を引くのが好きなんですよ。足しまくったあとに、『これ、いるかな? いらないかな?』って1本ずつ判断する能力は高い気がしていて。(中略)僕はギリギリまで引くことで他のアーティストとの差別化を図りたくなるタイプ」(※2)と語ってくれていたが、有元らしい大胆な引き算によって作られた最小限のビートと楽器の音から成るトラックに、声の重ね方、繊細な感情を表現する囁くような歌が非常にいい。それを息遣いまで聴こえてきそうなほど生々しさを保ったまま仕上げているところも、この曲の魅力を際立たせている。
途中に内田恵里花によるサックスと異国の言語のサンプリングにも聴こえるような音が入ってくるこの曲を聴きながら、私の脳内に広がるのは、自分のもっともプライベートな空間である寝室と、遠く離れた場所――今、この時間に戦地にいる子――が、海や空、宇宙を通してつながっているという感覚だ。そもそも「青い太陽」はさまざまな象徴として捉えることができて、歌詞についてもそれぞれの解釈ができる綴り方になっているため、これはあくまで個人的な感覚として捉えてほしい。
10月22日には、もう1つの新曲「Thinking of You」がリリースされた。こちらは、さらさの長年のパートナーであるKota Matsukawaをはじめw.a.uのメンバーがプロデュース・編曲を手掛けている。さらさはUAやCharaなど、1990年代後半のR&Bの要素を含むJ-POPが好きであることを公言しているが、当時を彷彿とさせるような上質さをまとったサウンドプロダクションで、さらさとしては珍しくJ-POPの定石とも言われるサビから始まる構成に挑戦している。さらにストリングスアレンジも加わり、特にサビはさらさ史上もっともゴージャスな仕上がりになっている印象だ。リリックに関しても「青い太陽」とは異なる手腕を発揮し、サビの〈Thinking of you〉というフレーズにキャッチーさを持たせながら、全体的にシンプルな言葉で綴ったラブソングになっている。サウンド、構成、リリック、それらすべてが相まって、大人の色気が滲む90年代J-R&Bの匂いが楽曲全体に漂っている。
11月13日からは、自身最大規模のワンマンツアー『さらさ Thinking of You Tour 2025』を名古屋・ell.FITS ALL、東京・Spotify O-EAST、大阪・UMEDA CLUB QUATTROにて開催する。「ラブリーロンリーさらさバンド」と名付けられたバンドのメンバーは、有元キイチ(Gt)、オオツカマナミ(Ba)、松浦千昇(Dr)、石田玄紀(Key/Sax)。極上の演奏と歌のグルーヴに身体も心も揺らされるライブになるだろう。
※1:https://www.youtube.com/watch?v=DYTH7mnt9bA
※2:https://sensa.jp/interview/20250123-nolzy.html
◾️リリース情報
さらさ「青い太陽」
9月24日(水)リリース
配信:https://lnk.to/salasa_aoitaiyou
さらさ「Thinking of You」
10月22日(水)リリース
配信:https://lnk.to/salasa_ThinkingofYou
◾️ツアー情報
『さらさ Thinking of You Tour 2025』
11月13日(木)名古屋 ell.FITS ALL
11月19日(水)東京 Spotify O-EAST
11月20日(木)大阪 UMEDA CLUB QUATTRO
open/start 18:00/19:00 前売:¥5,000+1D
<チケット発売中>
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/salasa/
ローソンチケット:https://l-tike.com/salasa/
イープラス:https://eplus.jp/salasa/
◾️さらさ 関連リンク
Instagram:https://www.instagram.com/omochiningen/?hl=ja
X:https://x.com/omochiningen_
TikTok:https://www.tiktok.com/@woody_bluesy
YouTube:https://www.youtube.com/@Salasa_official























