『第68回グラミー賞』最優秀新人賞ノミネート オリヴィア・ディーンが描く“愛”が現代に響く理由とは【著名人コメントあり】

 2025年は、オリヴィア・ディーンにとって大きな躍進の年となった。TikTokでもバイラルヒットを巻き起こしたシングル「Man I Need」が、自身初の全米チャートTop100入り(最高4位)のヒットとなり、同楽曲を収録した2ndアルバム『The Art of Loving』は全米3位を達成。母国となるイギリスでは、女性アーティスト史上初の「Top10に4曲同時にランクイン」という記録を樹立し、アデル以来となる「アルバム/シングルチャートで同時に1位を獲得」まで実現してみせた。

 作品の成功に加え、サブリナ・カーペンターやサム・フェンダーといったトップアーティストのツアーのオープニングアクトへの抜擢や、BURBERRYのアンバサダーへの起用など、一年を通してグローバルな存在感を発揮したオリヴィアは、遂には『第68回グラミー賞』の「最優秀新人賞」のノミネートまで手にしてしまった。だが、その活躍ぶりを見ていれば、こうした結果はもはや必然に近く、多くのポップリスナーにとって疑いようのないものだったと言えるだろう。

 とはいえ、オリヴィアの成功は、決して一夜にして生まれたものではない。2018年、ボーイフレンドとの口論をもとにして制作された「Reason To Stay」でデビューしたオリヴィアは、ジャマイカ系ガイアナ人の母親とイギリス人の父親のもとに生まれ、ブリットスクールで音楽を学んだ経歴の持ち主である。同学校は、これまでにアデルやエイミー・ワインハウスらを輩出した名門として知られており、R&B/ソウルを中心としながらも幅広い支持を集める存在感や確かな歌唱力から、オリヴィアをその系譜を継ぐアーティストとして捉えることができるだろう。

 エイミーに加え、ローリン・ヒルやキャロル・キングなどを影響源として挙げているオリヴィアは、知識に裏打ちされた音楽への飽くなき情熱を持っていることはもちろん、リスナーを魅了するようなストーリーテリングや、自身の感情を率直に描くことを、何よりも大事にしている。NYLON誌の取材に応えた(同じくネクストブレイク筆頭の)ラヴィン・レナエが、オリヴィアについて「彼女はまるで目の前に座っているかのように曲を書いているから、すぐに引き込まれてしまうんだよね」(※1)と語っているように、彼女が紡ぐ楽曲は普遍的でありながらも、誰もが共感できるような豊かな感情で満ち溢れている。

 2020年のスマッシュ・ヒット「The Hardest Part」は、現在に至るオリヴィアの魅力を象徴するような名曲だ。

Olivia Dean - The Hardest Part

 一聴するだけで、軽やかでありながらもしっかりとした余韻を感じられるR&B/ソウルのリッチなトラックと、近年の作品にも通ずる見事なコーラスワークに瞬く間に魅了されてしまうが、「いちばん辛いこと」と題された曲名が示すように、そこで歌われているのは、愛した人物との別れを目の前にした瞬間の光景だ。

〈Pray that things won't change, but the hardest part is/You're realising maybe I, maybe I ain't the same/And what you're waiting for ain't there no more anyway〉
(何も変わらないことを願っているよ、だけどいちばん辛いのは/私がもう今までとは違う人になったことに、あなたが気づきかけてるってこと/そして、あなたが待っているものは、もうそこにはないってこと)

 このフレーズだけでも充分に切ないが、特に効いているのが転調とともに訪れる〈But I was only eighteen/You should’ve known that I was always gonna change〉(だけど私は18歳だから/私が変わっていくことを、あなたは分かっているべきだったの)というラインだ。この曲では、切ない別れの光景を描くと同時に、さまざまな物事が変化していくひとりのティーンエイジャーとしての戸惑いと、女性に対して「若いまま、変わらないでいること」を求めてしまうような身勝手な男性たちへの痛烈なメッセージが込められているのである。

 上質なR&B/ソウルとしての完成度の高さと、複雑な感情をありのままに紡いだ瑞々しい言葉。これを両立してしまう才能こそが、オリヴィア・ディーンが多くの若者から大きな支持を獲得している理由なのだろう。以降も躍進を続けたオリヴィアは、2023年に(アルバムデビュー前にも関わらず)CHANELのブランドアンバサダーに起用され、同年に満を持してリリースされた1stアルバム『Messy』は、かのマーキュリー・プライズにノミネートされるほどの評価を獲得している。

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