YUKI、くるり、SKY-HI、Hi-STANDARD、ILLIT、Saucy Dog……注目新譜6作をレビュー

 毎週発表される新譜の中から注目作品をレビューしていく連載「New Releases In Focus」。今回はYUKI「Share」、くるり「oh my baby」、SKY-HI「Future In My Pocket feat. TAIKI (STARGLOW), GOICHI (STARGLOW)」、Hi-STANDARD「Song About Fat Mike」、ILLIT「ALL FOR YOU」、Saucy Dog「まっさら」の6作品をピックアップした。(編集部)

YUKI「Share」

YUKI『Share』

 2人の少女が本の世界を駆け巡る謎解き冒険ファンタジー『この本を盗む者は』の劇場アニメーションの主題歌として制作された新曲「Share」は、“人と人は分かり合えるのか?”という普遍的なテーマを含んだ楽曲だ。〈知らないふりできなくなるんだよ〉〈あたたかい光 集めてる 君にひとつあげる〉。そんな柔らかい響きの言葉を連ねながら、リスナーの思考をゆったりと促し、一人ひとりが“分かり合うこと”の答えへとたどり着く。YUKIが紡いだ言葉とメロディを聴きながら想ったり考えたりする、その過程をシェアすること自体がこの曲の豊かさなのだろう。編曲はOmoinotake、TOMOOなど数多くのアーティストの作品に関わっている小西遼。管楽器の独特の積みがYUKIのボーカルと響き合う瞬間もまた、この楽曲の大きな魅力だ。(森)

くるり「oh my baby」

oh my baby

 9月から始まった連続配信リリース企画のラストを飾る一曲。じんわり沁みるロックバラードで、バンドサウンドとキーボードによる伴奏は、派手な見せ場を作ることもなく、淡々と同じコード進行を繰り返すのみ。曲の中心には歌と言葉があり、もう会えない〈あなたのぬくもり〉や〈あなたの面影〉を思う主人公の心が綴られていく。いわゆる失恋歌と言えるのかもしれないが、さすがは岸田繁(Vo,Gt)の筆致と経験値。〈消えない月明かり〉〈桃色の川縁〉〈雪柳〉といった季語のようなの単語を散りばめていくことで、これが一過性の傷ではない、長い人生において必要な、悲しいけれど愛おしい痛みの歌であることが伝わってくる。ラストのギターがしみじみエモい。(石井)

SKY-HI「Future In My Pocket feat. TAIKI (STARGLOW), GOICHI (STARGLOW)」

SKY-HI / Future In My Pocket feat. TAIKI (STARGLOW), GOICHI (STARGLOW) -Music Video-

 グループでデビューしアイドル視もされながら、アンダーグラウンドのHIPHOPシーンで想像を絶する壁にぶち当たりまくり、自身の知名度とポケットマネー1億円でオーディションを立ち上げ……という半生をリアルに描き切ったアルバム『Success Is The Best Revenge』。自身が代表取締役CEOを務めるBMSGからデビューしたSTARGLOWのTAIKIとGOICHIをフィーチャーした「Future Im My Pocket」は、このアルバムのなかでも最も無邪気に夢を語り倒している楽曲だ。まるで宇宙のような浮遊感を生み出すトラックのなかで描かれるのは、〈想像しきれないくらいでいいじゃんin my pocket〉というライン。自らがプロデュースしたタレント(=才能)とともに夢を語りまくること自体が夢の実現なのだが、彼らの視線はもちろんはるか遠くを見つめている。(森)

Hi-STANDARD「Song About Fat Mike」

Hi-STANDARD - Song About Fat Mike ,From “Announcement from Hi-STANDARD 9/24/2025-“(OFFICIAL LIVE MV)

 最新EP『Screaming Newborn Baby』の一曲目。まずは冒頭のスピード感に鳥肌が立つ。今にも転んでしまいそうな前傾姿勢で飛び出す三者三様の爆音が、ツービートによって自然とまとまり、ワチャワチャした勢いを失わないままポップに踊り出すところがこのバンドのマジック。初期パンクやポップパンクとは違う、90’sパンクを特徴づける様式でもある。タイトルにもなったFat Mikeとは、かつてHi-STANDARDを世界へとフックアップしたNOFXのリーダーのこと。2024年に活動を停止した先輩バンドへの感謝と愛、今も消えない尊敬の念が溢れ返っている。和訳を読めば少し泣けるが、曲自体はスカッと突き抜けているのも彼ららしい見せ方だ。(石井)

ILLIT「ALL FOR YOU」

아일릿 (ILLIT) - 가장 빛날 너에게 MV

 今年9月に日本デビューし、年末は『第76回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)にも出演する5人組ガールズグループの最新曲。彼女たちが専属モデルを務めるメガスタディ教育「2027MEGAPASS」CMソングとして制作されたもので、当初リリース予定はなかったが、MV公開の後にファンからの要望が殺到したそうだ。受験生の背中を押すためのエールソングなので、尖ったアプローチや棘は必要なし。メンバー5人もMVでは受験に挑む様子を演じており、まっすぐ希望の言葉を届ける目の輝き、励まし合いながら笑っている様子などに、グループの若さとみずみずしさが際立っている。受験シーズン目前、こういう正統派楽曲は近年意外と少なかったことにも気づく。(石井)

Saucy Dog「まっさら」

Saucy Dog「まっさら」Music Video(「radiko15周年記念ブランドムービー タイアップ楽曲」)<9th Mini Album「カレーライス」2025.12.17 Release>

 バンドと音楽に向き合ってきた10数年の道のりを振り返ったり、“今の自分たちの立ち位置は?”と考えたり、この先に思いを馳せたり。そんなムードをまとった新作EP『カレーライス』を象徴している楽曲の一つが「まっさら」だ。個人的にもっとも印象的だったのは〈世界は今も今を見ている〉というフレーズ。今は過去から繋がっていて、未来は今から始まるわけだが、結局のところ私たちは“今”を生きるしかなく、そこでどれだけ熱くなれるか? が人生の充実につながる。どこか哲学的なテーマを感じさせるこの曲をメンバー3人は、ギター、ドラム、ベース、歌、コーラスによるシンプルなアンサンブルによって力強く響かせている。自分たちのスタイルをしっかり守ったまま、さらに豊かな音楽を鳴らしはじめたSaucy Dogの今を伝える楽曲だと思う。(森)

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