浜野はるき、過去も未来も恋愛も自己肯定も! 追い求める“いちばんリアルな存在”とアルバム『NET BaBY (FuLL)』

浜野はるき『NET BaBY (FuLL)』インタビュー

私は共感だけして終わるアーティストにはなりたくない

――今“アルゴリズム”というワードが出ましたが、曲作りの際にアルゴリズムを意識したりも?

浜野:曲を作る時は、必ず「どんな人に届いてほしいか?」を考えて、ペルソナを設定するんですよ。たとえば、“彼氏と倦怠期にいる女性”とか。ターゲットは狭ければ狭いほどいいと思ってるんです。“恋愛している女性”という大きな括りだと、刺さりが弱くなる気がして。恋愛曲は世のなかに溢れているから、それを飛び越えて私の曲を選んでもらうためには、鬼狭いペルソナじゃないとダメだと思ってます。

――「リナリア」は、まさに鬼狭いペルソナの曲ですよね。

浜野:「リナリア」は倦怠期で、恋人とほぼ別れる寸前みたいな状況にいる女の子のお話です。彼のことが好きすぎて、冷たくされてもやめられない、でもどこかでそれがダメだと気がついている――。その背中をそっと押す曲にしたかった。「あなたは彼がいなくても幸せになれるよ」「彼がいないと生きていけないと思っているのは思い込みだよ」と伝えたかったんです。私は共感だけして終わるアーティストにはなりたくなくて。共感したうえで、そこに必ず何か答えを加えて出したいし、最後には「じゃあこうしよう」っていう出口を提示したいんです。女の子って、どんな選択をしても最終的には強くなれると思うんですよ。

Hamano Haruki「リナリア - Linaria」(Official Music Video)

――Love Linerとのコラボ曲「Prettique Bomb」についても。

浜野:Love Linerさんからお話をいただいた時は、正直びっくりしました。「浜野はるきが思う“Love Linerの曲”を書いてください」というリクエストだけで、私の曲を信じてくださって、ゼロから書き下ろしました。「Prettique」という言葉は造語で、“Pretty”、“Boutique”、“Unique”を混ぜたものなんですよ。かわいい、ブティック、個性。その3つを合わせた“自分だけのかわいい”をイメージして。歌詞はメイクの手順になってます。実際にメイクしながら聴いてほしい曲ですね。メイクの時間って、女性にとって、自分の気分を上げていく時間だと思うので。

Hamano Haruki「Prettique Bomb」(Official Music Video)

――メイクは、浜野さんにとってどんな存在?

浜野:自分の機嫌を取るものです。女の子って、トイレに行ったら絶対鏡を見るし、スマホ画面を鏡代わりにすることもある。一日に何十回も自分の顔を見るから、アイラインがきれいに引けた日、眉毛がうまく描けた日とか、ネイルがかわいい日とかって、それだけで気分がちょっと上がるじゃないですか。肌の調子がいいだけで、少しルンルンできるし。メイクと自分の機嫌やテンションは切り離せない。

泣くのはお客さんでいい。私はあくまで感情を届ける側

――「?OUT CaST¿」についても教えてください。タイトルの表記にはどんな意味が?

浜野:絶対に聞かれると思ってました(笑)。

――いやあ、字面から面白くて質問せずにはいられなかったです(笑)。

浜野:小文字の「a」は“未完成の自分”を表していて。「NET BaBY」も自分のことを歌っている。だから「a」は全部小文字なんです。「?OUT CaST¿」の「?」「¿」は「私はアウトキャストなの?」という自問自答の意味で。

――アウトキャストは、ドロップアウトとは意味合いが違いますよね?

浜野:違いますね。私にとってのアウトキャストは“輪から外れている人たち”というイメージ。私は、中学、高校の頃にアイドル活動をしていたから、文化祭や体育祭とかの学校の行事にほとんど参加できていないんですよ。卒業アルバムを見た時、修学旅行も運動会にも、自分の写真が全然載っていなくて。「あ、私の青春って抜け落ちてるんだな」「みんなの記憶のなかに私はいないのかも」と思っちゃったんですよね。同窓会のLINEグループにも入っていなかったし、「○○が結婚したらしいよ」という話は回ってくるけど、結局その結婚式には呼ばれないとか(笑)。東京にいるし、私が忙しいと思って気を遣ってくれているのかもしれないけど……そう思いたいんですけど(笑)。でも、やっぱり自分は教室というステージのキャストのなかにいなかったのかなと思ってしまうんです。ただ、誰かの台本のキャストからは外れていたかもしれないけど、私の人生の主演はずっと私だから。曲の最後の〈誰かのヒーローかもしれないってこと/信じてるよ〉というフレーズは、自分自身に向けた言葉でもあるんですよね。切ない曲だけど、ちゃんと前を向いている。

Hamano Haruki「?OUT CaST¿」(Official Music Video)

――HIPHOP、ダンサブルなアップチューン、バラードなど、曲調によって出したい声は違ってる?

浜野:全部違います。曲ごとに自分のなかのスイッチが変わるんですよね。本当にカメレオンですよ(笑)。

――そのスイッチは何で切り替えてます?

浜野:技術ですね。ずっとボイトレに通ってますし、息の量や喉の位置で声色を使い分けてます。かわいい曲は、ちょっと鼻にかけたミックスボイスで、上のほうに喉をセットしてギャル声で歌う。切ないバラード曲の時は、ウィスパーボイス。裏声を少し混ぜて息を多めに含ませることで、切なさを演出したり。今回のアルバムの曲ではないけど、「中州ロンリーナイト」(2021年)とか「女でいたい」(2024年)みたいな少しセクシーで泣かせにいく曲は、喉の位置を下げて、エッジボイスも混ぜながら歌うんです。自分が出せる全ボイスをフル動員して、感情表現をしているんですよ。

――たとえば、過去の恋愛を思い出しながら歌うという感情表現の選択はない?

浜野:ないです。そういうことを言ったりするじゃないですか。でも正直、私は綺麗事だと思ってる(笑)。

――ばっさり(笑)。

浜野:5年前とかに別れた元カレのことを思い出して、今でも泣けるかと言われたら、私は絶対無理。特に女性は、昔の恋愛にそこまで未練を残さないと思うんですよ。私なんて、元カレの名前もほとんど覚えてないぐらいだし(笑)。

――今、思い出してみようとしたけど、私も20代の時に付き合ってた彼氏の下の名前、思い出せない(笑)。

浜野:ですよね! 今の自分をごまかせない、私は表現者だからライブで号泣するのが正解とは思っていないんです。泣くのはお客さんでいい。私はあくまで感情を届ける側だと思ってます。

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