WurtS『デジタル・ラブ』全曲解説:自在に広がるクリエイティブの幅 星街すいせい、なとりらとの共振の連鎖
昨年、初の日本武道館公演をソールドアウトさせ、今年の10月からホールツアー『WurtS CONCERT HALL TOUR Ⅱ -DIGITAL LOVE-』を開催し、全国12カ所14公演を完走したWurtSから新たなEPが届いた。タイトルはツアー名と同じ『デジタル・ラブ』。濃密な5曲が収録されている。
星街すいせい、なとりと紡ぐ新たなポップス
1曲目は、星街すいせいをフィーチャリングしたタイトル曲「デジタルラブ」。星街と言えば、VTuberとして未知なる道を開拓している存在だが、これまでWurtSとの絡みはなかったため意外性のある組み合わせだ。WurtSが作詞・作曲・アレンジのみならず、すべての楽器とプログラミングまで担当した本楽曲。ボイスサンプリングが施された、宇宙と交信しているかのようなスぺーシーなイントロ。フューチャリスティックなシンセが鳴り響く中、WurtSはやや気怠いボーカリゼーションで〈Turn It Back/まだ想い続け、真夜中/馬鹿げた僕のハート/すでにパンク/ありふれた想いは/君の前では全て音になる〉と歌う。シンセが軽快にメロディを紡ぎ、アンサンブルが躍動。
〈デジタルラブ ただのバカではない デジタルラブ 君のことでもない ああでもない こうでもない 分からない〉というおまじないのようなフレーズがリピートされ、星街の端切れのいい透明感溢れる歌声が加わり、一気にレイヤーが増える。声質の大きく違うふたりによる〈デジタルラブ ただの音ではない デジタルラブ 君のことばかりさ ああでもない こうでもない たまらない ああでもない こうでもないの?〉というハーモニーは、恋にうなされたメッセージのように聴こえる。
2曲目はすでにTVアニメ『ダンダダン』第2期(MBS/TBS系)エンディングテーマとして好評を博し、WurtSのライブで新たなキラーチューンとなっている「どうかしてる」。突然さまざまな生命体が出現する“どうかしてる”世界において、不器用で素直になれないけれど、君に会いたいという気持ちを拗らせている様が、カラフルなバンドサウンド×エレクトロの絶妙でポップなトラックに乗せて届けられる。一瞬の隙間が入ったり、〈どうかしてるのに〉の頭の〈ど〉が連発されるサビは特段キャッチーであり、バグったようなアレンジが挟み込まれるのも主人公のこじらせ具合をよく表している。
3曲目は「クラッシュ feat. なとり」。9月のWurtSとなとりのツーマンライブ『J-WAVE DREAM BUNCH』で初披露された新曲だ。ふたりの距離の近さがうかがえる会話のボイスサンプリングからスタート。ヘビーでパワフルなバンドアンサンブルに、ふたりのエネルギッシュな歌声が乗る。止まる気は一切ないと言わんばかりの、ライブでの盛り上がりがすぐさま想像できる汗が迸るようなロックチューン。〈クライベイビー/ぶちかましてよ〉という煽情的な歌詞が不敵だ。
4曲目は、ドラマ『恋は闇』(日本テレビ系)主題歌「BEAT」。究極の恋愛ミステリーを描いたドラマへの書き下ろし楽曲だ。ピアノとストリングスが導入されたロッカバラードで、Bメロで音数が減りビートと歌だけになったと思ったら、一気に音数が増えて分厚いアンサンブルに展開されるなど、本当の自分を追い求める中での葛藤が時を追うごとに変化していく様が感じ取れる。中盤、轟音ギターソロが挟み込まれ、主人公が何かを決意したことを想起させた後、葛藤は軽減されていくーー。ストリングスもバンドアンサンブルも最大級にエモーショナルに響き、やがて結末を迎える。約3分半で丁寧にドラマが紡がれている。