SWAY、アルバム『PSYCHO JUNK』――アイデンティティを探す旅を語る 40代の自分に渡したいバトンとは?
DOBERMAN INFINITYのメンバーとして活動しながら、2017年にDef Jam RecordingsよりソロラッパーとしてデビューしたSWAYが、3年半ぶりとなる3rdアルバム『PSYCHO JUNK』をサプライズリリースした。“最高じゃん”と読む今回のアルバムには、過去最多となる多彩な仲間たちが客演で参加。タイトルには“サイコなガラクタ”という意味もあり、SWAYが音楽というおもちゃ箱をひっくり返して遊んだようなリラックスしたムードが全編に漂っている。お酒をテーマにしたリリックが多いが、そこからSWAYのライフスタイルやモットーが浮かび上がってくるのもポイントだ。今回、彼はどのようなことを思案しながら本作を作り上げたのか。豪華なゲスト陣との交流や求めたサウンド像、さらに前作から変化したラップスタイルの理由や今後の人生プランまで、幅広く語ってもらった。(猪又孝)
「フィーチャリングの醍醐味」――斬新なゲストの組み合わせ『PSYCHO JUNK』
――今回はサプライズリリースになりました。まずはその経緯から教えてください。
SWAY:ソロ活動はグループのスケジュールに迷惑をかけたくないという気持ちがあるんですけど、タイミングを見て狙いたい気持ちもあるので、いつリリースできるかなと思いながら常に動いていて。今年の6月24日がDOBERMAN INFINITYの10周年イヤーを終えるタイミングだったので、本来なら7月くらいにリリースしたかったんですけど、今回は客演も多かったので確認がいろいろあって結局9月12日になったという。それもギリギリのところだったから、「サプライズになっちゃった」というのが正直なところなんです。
――“9月12日”という日付に特別な思い入れはあるんですか?
SWAY:まったくないんです(笑)。僕のなかでは早め早めっていう。仕上がった作品を熱いうちに出したかったんです。
――昨年から今年にかけてDOBERMAN INFINITYは10周年ツアーやアルバムリリースと精力的に動いていましたが、今回の制作にもたらした影響はありますか?
SWAY:ずっと頭を働かせる時間になっていたのでよかったです。DOBERMAN INFINITYの制作もあったし、EXILE NAOTOさんとのHONEST BOYZ®︎も動いていたし、“音楽を作る”ということに関して考えない日がないという感じだったので、それはありがたかったですね。「さあ、ソロをやろう」というときに腰が重くならないというか。
――今回のアルバムは2024年の年明けから制作に入っていたそうですね。
SWAY:お正月の1月2日か3日にはもうスタジオにひとりで入ってました。
――客演を多く迎えたアルバムになりましたが、どんなプランを考えていたんですか?
SWAY:これまでの作品ではフィーチャリングをあまり考えてなかったんです。なぜかというと、自分ひとりで2時間くらいのワンマンライブを作り上げたかったので。フィーチャリングをすると(ライブの開催や演目が)相手のスケジュールに左右されるじゃないですか。ただ、ひとりでワンマンも可能になってきたので、だったら3枚目は我慢していたものというか、フィーチャリングをいろいろすれば活動の幅や音楽の可能性も広がるなって。だから、作り始めたときからフィーチャリングの余白を考えて、基本、自分は1バースしか書かず、この曲に誰を入れたいかということを考えながら作っていました。
――1曲に2人のゲストを迎えることは1stアルバムでも試みていましたが、今回は男女のペアという客演が目立ちます。
SWAY:あまり狙いはなくて、本当に肌感でゲストは決めていきました。あと、最近、フィメールアーティストが増えてきた実感があって。アーティストのLUNA……LUNA姉と呼んでるんですが、LUNA姉のインスタを見てると「Ashleyの新曲が出ました」ってお知らせをしてたり、E.V.Pを紹介してたりする。で、LUNA姉のストーリーに即行で反応して、「このE.V.Pっていう女の子やばいですね」みたいな。「ウチの事務所でやってるから曲やろうよ」みたいなノリだったので、じゃあ今度一緒にスタジオに入らせてくださいって。そうやってくだけたノリでどんどんゲストをはめていったんです。
――今回の参加陣で初対面のアーティストは?
SWAY:E.V.PとReichi以外は、もともと繋がりがあるメンツです。E.V.PはLUNA姉の紹介がなかったら繋がらなかった。Reichiは、プロデューサーのXLIIくんのスタジオで固定カメラでラップを録っているリールがやたらとタイムラインに上がってきて。XLIIくんとはいろんな楽曲でお仕事させてもらっていたんで紹介してもらったんです。
――「シャンパンよりもテキーラがいい feat. E.V.P & D.O」(以下、「テキーラ」)では、フレッシュなE.V.PとベテランのD.Oという組み合わせが斬新でした。
SWAY:そういう組み合わせにフィーチャリングの醍醐味があるなと思ってました。最初からこの曲にはD.Oさんが絶対必要だなと思っていて。サビで僕のあとに同じフレーズを歌う女の子の声が欲しいなと思っていたんです。そんなときにLUNA姉のストーリーを見たので、「この子だ!」と思って誘ったんです。
――D.Oとはどんな交流があるんですか?
SWAY:僕がまだ地元の札幌で活動しているときに、先輩が開いたイベントでD.Oさんが札幌に来られて。その頃は先輩の手伝いで、千歳空港から札幌市内までの運転手をやったり、ライブ翌日の札幌観光を一緒に回ったりしていたんです。それでD.Oさんとは温泉に一緒に行ったりしていて。以来、東京で会うと乾杯させてもらったりしていたんです。
――15年近く前からの交流なんですね。
SWAY:で、この曲でD.Oさんとやりたいと思っていたときに、たまたま代官山の飲み屋でお会いして、「ちょうどお会いしたかったんです」って。今こういう曲を作っていて一緒にやりたいんですよと話したら「いいぜ、メーン」な感じでOKをいただいたんです。
DOBERMAN INFINITYのSWAYと、ソロのSWAYをわかりやすく分けた
――さまざまなキャラクターのゲストが参加していますが、想像以上のケミストリーが起きたという組み合わせは?
SWAY:Reichiと(海沼)流星はデカいと思いますね。ふたりが参加してくれた「KINDA LIT」は僕がひとりでトラックを作るところから始めて。「いい感じ、かなり」っていうフレーズが深夜パッと浮かんでベッドの中でボイスメモを録って次の日に作ったんです。そのときに「テキーラ」と似たニュアンスですけど、女の子の声が欲しいと思って、最初は僕とReichiだけで考えていたんです。そしたら、ちょうどそのタイミングで突然、流星からLINEが来て「SWAYさん、一緒にスタジオに入りたいです」みたいな。「じゃあ、ちょうど作ってる曲があるからやる?」ということで流星を3バース目に入れたんです。だからタイミング的にも想像してなかったし、僕以外、絶対にないだろうという組み合わせになったかなと。Reichiの出だしのラップを聴いたときに「キター!」だったし、そういう意味でも想像以上のモノを出してくれたなって思いました。
――「KINDA LIT」は、“なんかイイカンジ”という意味のKINDA LITと、平らなイントネーションで発音するときの「かなり」で韻が踏めることを見つけた時点で勝ちですよね。英語と日本語なのにニュアンスが似ている言葉だし。
SWAY:自分でもそう思ってるんです。ただ、最近の悩みでもあるんですけど、ジャンルは何?って言われるとわからない曲ばかりやってるなと思っていて。そこが反省点かなと思いつつ、我ながらよく作った感がありますね。ライブでもこれは一発ですぐわかってもらえる曲ですし。
――話題をリリックに移すと、今回は全体的にお酒にまつわるトピックが多いですね。
SWAY:気づいたらそうなってました(笑)。
――とはいえ、“よく働き、よく遊ぶ”というSWAYさんのモットーがそこかしこから浮かび上がってくる。
SWAY:僕も最近びっくりしてるんですよ、体力がありすぎる自分に(笑)。
――お酒のトピックが増えたことについて思い当たるフシはありますか?
SWAY:昨年からHARLEMでイベントを始めたこともそうなんですけど、僕の人生はクラブだったなと。そこにはお酒があったし、音楽があったし、僕は音楽とクラブとお酒でここまでやってこれたなという思いがあって。BAD HOPだったら川崎があるように、僕のルーツは北海道というよりクラブだなというのがあったんです。
――前作『Stay Wild And Young』は、ご自身で「人生のサントラと呼べる作品になりました」とコメントしていたように幅広いトピックを扱っていましたが、今回は前作収録の「ASOBOW」「Girls Girls Girls」「SEXY」の路線を進化/深化させた印象がありました。
SWAY:だいぶ的は絞りましたね。以前はDOBERMAN INFINITYでもそうだったんですけど、「このジャンルを作ったら、もうそのジャンルは作らない」みたいな。いろんなジャンルを探しに行ってた感覚があるんです。でも、ある日突然、それって浅くなっちゃうのかなと思って。
――「広く浅く」か、「狭く深く」か。
SWAY:たとえばANARCHYくんがデビューしたときって、貧乏・団地・友達みたいな、すげえわかりやすいトピックだったなと思って。ひとりでラッパーをやるときはそれが一番効果的なのかなと思ったんですよ。こういう曲を作ったから次は違う内容で作ろうっていうやり方だと「じゃあ、SWAYって何なんだ?」となったときに心に残るものがないのかなと。なので、「SWAYといえばコレ」というものをいろんな曲調で表現したいと思って作ったのが今回のアルバムなんです。だから、毎回酒のこと言ってんじゃんと思われていいし、毎回舞台がクラブでもいい。重複するトピックがあっても、それが自分なのかなと考えたところはありますね。
――自分のアイデンティティ探し、お家芸を見つけていく作業でもあったと。
SWAY:そうです。DOBERMAN INFINITYのSWAYと、ソロのSWAYをわかりやすく分けちゃたったらいいんじゃないかなと思いながら作ったのが今回ですね。