ゆず、25年前の自分と対峙した『トビラ』リバイバル公演 “未来”のために“過去”を振り返ることで描いた景色
“2025年の『トビラ』”に至るまで
“GET BACK”というフラッグを掲げたときに生まれた「これはゆずのほかの活動にも活かせるのではないか」という予感がすべてのはじまり。現時点で、ゆずの持ち得るすべての表現をやりきった『図鑑』ツアーを経て、”GET BACK”(取り戻す、取り返す)ものとは何か?――そんな思索のなかでたどり着いたのが、アルバム『トビラ』を今のゆずで体現するというアイデアだった。
『トビラ』は2000年にリリースされた3rdアルバム。シングル「心のままに」「嗚呼、青春の日々」「飛べない鳥」を含む本作は、当時のふたりの心境がリアルに投影された異色作として知られている。
1997年にデビューしたのち、「夏色」「少年」「サヨナラバス」などのヒット曲を生み出し、アコースティックデュオという懐かしくて新しいスタイル、そして、北川悠仁、岩沢厚治の爽やかなキャラクターも相まって、瞬く間にお茶の間レベルの人気者になったゆず。それは輝かしいキャリアのスタートであると同時に、大きな違和感をふたりに与えてしまった。自分たちの音楽の世界は“爽やか”とか“元気”だけではない。もっとシリアスなもの、ダークな感情も渦巻いてるし、それも楽曲として提示したいーーソングライターとしては当然の欲求だが、当時はそれを素直に出すこともはばかられる雰囲気があったのだ。
シングル『嗚呼、青春の日々』のリリースのとき、筆者はゆずに取材している。その際に北川が発した「自分たちに対するイメージはどうでもいい……と、そう思わないと曲が作れない」という趣旨のコメントは今も強く印象に残っている。そういう強い決意のもとで制作されたのがアルバム『トビラ』であり、このアルバムがなければゆずのキャリアはまったく違ったものになっただろう。
あれから25年経ち、ゆずは再びアルバム『トビラ』に向き合った。会場は有明アリーナ(10月23日、25日、26日開催)。当然のようにチケットはソールドアウト。四半世紀前を知っている人も知らない人も、すべての“ゆずっこ”(ファンの呼称)が“2025年の『トビラ』”を待ち構えている。
若き日のゆずとの対峙
開演前のラジオ体操はいつも通りだったが、アニメーションとともに聴こえてきた「名もない沈黙、形を持たない時間……」からはじまる詩によって、一気にアルバム『トビラ』の世界へと誘われる。ステージに架けられた幕にふたりのシルエットが大写しになり、次の瞬間に幕が落ちると、ステージの奥に置かれた階段の上に北川の姿が。大歓声に導かれた最初の楽曲は、『トビラ』の1曲目に収められた「幸せの扉」。アコギを弾きながらふたりは、〈一人君は泪を流していたね〉と声を合わせて歌う。さらに憂鬱な心を吹っ切るために思い出の公園を訪れる様子を綴った「日だまりにて」、ブルージーなスライドギターから始まり、〈お願い僕の仮面を剥ぎ取って〉というフレーズが響いた「仮面ライター」へと続く。最初は楽しそうに手拍子していた観客は徐々にじっくりと聴く態勢に。いつになく緊張感をたたえたステージングを含め、やはり普段のライブとは明らかにムードが異なる。
“逢えなくなって2回目の冬”の情感を描き出した「ガソリンスタンド」、「本当の声、本当の言葉を探しに行こう」と自らに言い聞かせるように歌った「新しい朝」とフォーキーな楽曲を重ねたあと、不穏な音像のインストとともにステージに8本の炎が灯り、「何処」へ。スクリーンに映されたのは、〈僕が生まれ落ちたこの国は〉から始まる歌詞。豊かさとは? 平和とは? 自由とは? と率直に投げかける歌詞には確かに若さが宿っているが、この疑問に対する答えを我々は今も持てないでいる。つまり「何処」が訴えていたものは、今も完全に有効なのだーーなどと思っていると2018年の楽曲「通りゃんせ」へとつながる。同じ問題意識を共有した2曲による“TOBIRA Mashup”だ。佐々木“コジロー”貴之(Gt)、種子田健(Ba)、松原“マツキチ”寛(Dr)、松本ジュン(Key)によるタイトに研ぎ澄まされたバンドサウンドも『トビラ』の世界観を明確に際立たせていた。
迷いのなかで傷つく姿を抒情的に描いた「ねぇ」、「確かな答えなんてないさ」と歌う「飛べない鳥」、〈もう自分をごまかすのはやめて〉というフレーズが心に残る「心のままに」。アルバム『トビラ』で彼らは、こんなにも赤裸々に自らの心情、状況をさらけ出していたんだなとあらためて実感させられた。同時に、このアルバムをなぜ今、取り戻そうしているのかも。もしかしたらゆずは再び、大きなターニングポイントを迎えているのかもしれない、とーー。
「『トビラ』というアルバムがなかったら、今の俺たちはなかった」(北川)
濃密にしてしなやかなロック系のインスト曲を挟み、ここからライブは後半へ。
まずは新曲「尤」(読み:ゆう)。箏の音色、煌びやかなデジタルサウンドを取り入れた楽曲をカラフルなレーザーとともに披露し、観客のテンションを一気に引き上げる。
続く「T.W.L」では北川がハンドマイクでステージの端から端まで動き、一体感を演出。いきなりエンタメに振り切ることができる、これもまたゆずのすごさだ。
そして「嗚呼、青春の日々」を奏でる。時が経ち、青春と呼ばれる時期は過ぎた。悩みは尽きないが、それでも自分なりに生きていくしかない。そんなメッセージを受け取り、幅広い年齢層のオーディエンスが拳を突き上げる。この光景も今回のライブのハイライトだったと思う。最後は「GET BACK」。今のゆずのテーマでもあるこの曲をしっかりと叩きつけ、本編はエンディングを迎えた。
アンコールに応え、「夏色」で祝祭的なムードを生み出したあと、北川が話しはじめた。
「トビラ」リリース当時は環境の変化などもあって、悩み、もがいていたこと。この作品に恥ずかしさを感じていた時期もあったが、今年“GET BACK”というフラッグを掲げ、「やり残していたことを見つけにいこう」という思いで、『トビラ』をライブでやるというところにたどり着いたこと。あらためて『トビラ』に向き合って、正直、「すごいな、若いときのゆず」と圧倒されたこと。いろいろ考えた結果、歌詞を変えず、そのまま歌ったことーー。
「25年前の俺たちに、あのときのファンのみんなに、ここに集まってくれたファンのみんなに、この曲を歌います。間違いなく言えるのは、『トビラ』というアルバムがなかったら、今の俺たちはなかったじゃないかなと思ってます」
ラストは「午前九時の独り言」。あまりにも真摯で、あまりにも真っ直ぐなこの歌の内容は、ぜひあなた自身で確かめてほしい。
『ゆずの輪 Presents YUZU LIVE 2025 GET BACK トビラ』の2日目、10月25日はゆずにとって満28周年のデビュー記念日。『トビラ』を“GET BACK”したことでふたりは、また新たな創作のインスピレーションを得たはず。過去にやり残したことを見つけながら、未来に進むゆず。デビュー30周年のアニバーサリーは、もう目の前だ。
<セットリスト>
01. 幸せの扉
02. 日だまりにて
03. 仮面ライター
04. ガソリンスタンド
05. 新しい朝
06. 何処〜通りゃんせ(TOBIRA Mashup)
07. ねぇ
08. 飛べない鳥
09. 心のままに
10. 尤
11. T.W.L [Y.Z ver.]
12. 嗚呼、青春の日々
13. GET BACK
アンコール
14. 夏色
15. 午前九時の独り言
■配信
『ゆずの輪 Presents YUZU LIVE 2025 GET BACK トビラ Supported by ITOCHU』
デビュー記念日である10月25日公演の模様をリピート配信
日時:2025年11月1日(土)20:00開演
視聴チケット:https://yuzu-official.com/pages/getback-tobira2025/#OnlineGamingBill2025
■公演情報
『YUZU ASIA TOUR 2025 GET BACK Supported by ITOCHU』
2025年12月3日(水) 香港 AXA Dreamland
2025年12月6日(土) 上海 Shanghai Delta Music Park
2025年12月8日(月) 台北 Zepp New Taipei
『YUZU JAPAN LIVE 2025 GET BACK Supported by Japanet』
2025年12月13日(土) 長崎県 長崎スタジアムシティHAPPINESS ARENA
2025年12月14日(日) 長崎県 長崎スタジアムシティHAPPINESS ARENA
『ゆず 弾き語りアリーナツアー 2026』
特設サイト:https://yuzu-official.com/pages/yuzu_arenatour2026/
2026年5月4日(月・祝) 宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
2026年5月5日(火・祝) 宮城県 セキスイハイムスーパーアリーナ
2026年5月16日(土) 愛知県 日本ガイシホール
2026年5月17日(日) 愛知県 日本ガイシホール
2026年5月23日(土) 広島県 広島グリーンアリーナ
2026年5月24日(日) 広島県 広島グリーンアリーナ
2026年5月30日(土) 長崎県 長崎スタジアムシティ HAPPINESS ARENA
2026年5月31日(日) 長崎県 長崎スタジアムシティ HAPPINESS ARENA
2026年6月6日(土) 神奈川県 Kアリーナ横浜
2026年6月7日(日) 神奈川県 Kアリーナ横浜
2026年6月13日(土) 北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
2026年6月14日(日) 北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
2026年6月23日(火) 大阪府 大阪城ホール
2026年6月24日(水) 大阪府 大阪城ホール
2026年7月11日(土) 福岡県 マリンメッセ福岡
2026年7月12日(日) 福岡県 マリンメッセ福岡
2026年7月18日(土) 福井県 サンドーム福井
2026年7月19日(日) 福井県 サンドーム福井
2026年7月24日(金) 神奈川県 横浜アリーナ
2026年7月25日(土) 神奈川県 横浜アリーナ
2026年7月26日(日) 神奈川県 横浜アリーナ
■関連リンク
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