怒髪天は歌い、踊り、祈る――本気で純粋な音楽との対峙 年に一度の『ドハツの日』ライブを振り返る

怒髪天、年に一度の『ドハツの日』レポ

 10月20日はドハツの日――。そう、怒髪天が特別なワンマンライブを行う、年に一度のファン感謝デー。神戸 クラブ月世界で紳士淑女の界隈と『ドハツの日(10・20)特別公演 "月面舞踏会"』を開催した。

 1969年にキャバレーとしてオープンし、空間デザインはそのままに今はライブホールとして親しまれているクラブ月世界。それにしてもステージと客席フロアが近い。大相撲の砂かぶり席よりも近い。その近さが、いつにない一体感を醸成するのだった。

怒髪天(撮影=渡邊一生)

 「威風怒道」を背に増子直純(Vo)、上原子友康(Gt)、坂詰克彦(Dr)、そして“本日のサポートベーシスト”として寺岡信芳(Ba)がステージに登場。増子は人差し指を宙に向け、一点集中。「独立!俺キングダム」で幕を開けた。リハーサルでもしたのかと思うくらい、のっけから界隈との息が合っている。「己DANCE」でさらに呼応。怒髪天と界隈が正面から対峙する。その光景に根源的な営みを見た。歌い、踊り、祈る。ただそれだけだ。だだ、その純度はまぶしいほど高い。

怒髪天(撮影=渡邊一生)

怒髪天(撮影=渡邊一生)
増子直純(Vo)

 「よくきた~!」といつもの挨拶で笑顔を見せる増子。「年に一度のドハツの日、この日が我々にとって一番大変な日だ」と続ける。そして、「この曲が聴けるの!?」というセットリストだと告げると、期待を帯びた拍手が湧き起こる。その言葉どおり、「ソウル東京」や「救いの丘」、「ふわふわ」といった希少なナンバーがセットリストに組み込まれており、各曲のイントロや歌い出しのタイミングであちこちから歓声が上がっていた。

怒髪天(撮影=渡邊一生)

怒髪天(撮影=渡邊一生)

怒髪天(撮影=渡邊一生)
上原子友康(Gt)

 「愛の嵐~風速2004メートル~」では大合唱。その一体感に、「これを待っていたんだ!」と思わず叫びたくなる。坂詰のドラムは毬のように弾み、上原子のギターも雄弁だ。寺岡は今や支柱。増子はくっきりと歌の世界を立ち上げた。続く「ラブソングを歌わない男」では、アウトロでアカペラアレンジ。祝祭感に包まれ、とても楽しい。

怒髪天(撮影=渡邊一生)

怒髪天(撮影=渡邊一生)
坂詰克彦(Dr)

 9曲目にして早くもハイライトがやってきた。スタジアムロックの「SADAMETIC 20/20」だ。上原子の激渋ギターが夜に轟き、確かな足取りで前進する坂詰のドラム。拳を突き上げる増子。そして寺岡のベースに乗り、次なるステージへと突き進む。上原子は多層的なエフェクトを効かせたサウンドで、さらに劇的に描いていく。声と音に覚悟をにじませる怒髪天。界隈たちの熱もとめどなくステージへと注ぎ込まれる。当日昼に『還暦上等!生涯現役スタミナ街道』と銘打った2026年度全60公演のライブスケジュールを発表した。界隈のこの声と拳があれば、どこまでも行けるだろう。

怒髪天(撮影=渡邊一生)

怒髪天(撮影=渡邊一生)
本日のサポートベーシスト=寺岡信芳(Ba)

 さて、「ヘイ!Mr.ジョーク」である。曲間にて、ホテルに引きこもって考えたという渾身のギャグを二度も三度も披露する、怒髪天のジョーク担当・坂詰。界隈のリアクションに「どうもすいません」と初代林家三平ばりに言うばかりで、世界が時を止めようがおかまいなしだ。関西はお笑いに厳しいと言うが、坂詰はその声も丸飲みにしてなかったことにする。その胃袋の底に、宇宙の深淵を見た。

怒髪天(撮影=渡邊一生)

 ざわめく会場を一瞬にしてライブへと引き戻したのが、アカペラで入った「喰うために働いて生きるために歌え!」。サビでは大合唱、とにかく楽しい! まさに我々は、喰うために働いて生きるために歌っている。こんな時間がいつまでも続けばいいと思ったが、気がつけば『ドハツの日』もクライマックスへと向かっていた。ギター、ドラム、ボーカルの3人の音でイントロが印象的な「決意の朝に」では、言葉を一つひとつ手渡すように歌う増子。やがて酸欠不可避の迫力で歌い上げる。その気迫に圧倒され、拍手が鳴りやまなかった。

怒髪天(撮影=渡邊一生)

怒髪天(撮影=渡邊一生)

 メンバー紹介では、「みんないい顔になった」と上原子。昨今のリミッターの外れたMCは、この日も健在。ニッコニコの笑顔で「70歳になったら70本! 100歳になったら100本! ライブをします!」と宣言した。『ドハツの日』は初めてという寺岡は、「大変だなぁ」と覚える曲の多さを嘆きつつ、語り口は穏やかで、顔には笑みが浮かんでいた。坂詰も「月世界、非常に素晴らしい! バンドはこれからも永遠です!」と断言。増子は「ライブはいいね! 月世界も(思いを)伝えやすい距離感!」と会場を絶賛。それでも伝わなければ、「世間が悪い!」。そして、「情熱のストレート」をぶちかまし、最後は「エリア1020」で「ただいま!おかえり!」とあらためての生存確認。これはまた次も言いたい言葉2選である。エンディングのSEはラテン調の「セバ・ナ・セバーナ」。メンバーも界隈も皆、「やり切った!」と充実の表情を浮かべている。

 ステージの先端に4人が並ぶ。増子は「みんな手をつないで!」と界隈に促している。そして、つないだ手を一斉に掲げて大団円! この光景もなかなか珍しい。さらに結束を強めて幕を閉じた。

怒髪天(撮影=渡邊一生)

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