和田アキ子、人生のすべてを刻む魂と愛の歌 57年目の新曲「愛ヶ十」――Tani Yuukiとのコラボパフォーマンス収録現場に密着!

「愛ヶ十」の収録を終えたふたりをここでキャッチ。話を聞かせてもらった。

――「愛ヶ十」の映像収録をしましたが、いかがでしたか?
和田:緊張しました。Taniくんの生の声を聴いて、「ああ、なるほど」と感じるものもありました。実は最後のテイクのひとつ前で母のことを思い出して泣きそうになったんですよ。美空ひばりさんが「悲しい酒」を歌う時に一粒だけ涙が流れて、私もそれをやりたいと思ったことがあるんですけど、ある時、ステージで泣いたら涙が大量に流れて声にならなくて。さっきもそういうことにならないように必死でした。
――「愛ヶ十」を作っていたのは、いつ頃なんですか?
Tani:2022年だったと思います。
和田:当時、楽曲をいただいた時に「この歌詞は私には重い」と思ったんです。男の人は女の人よりも声のレンジが広いんですよね。私はファルセットやミックストーンで歌うこともできるんですけど、この曲は分厚い声で歌いたくて。
――声のトーンやキーを変えると、曲の印象が大幅に変わりますよね。
和田:そうなんです。Taniくんはどちらかというとハイトーンで、私は低い声なので、彼の声で表現した歌を私のキーで歌ってみたらまったく伝わらなくて。だから、「歌詞がいいな」「泣けちゃうな」と思って聴きながらも、「私には合わない」と感じたんです。声が高い人じゃないと表現できないと思って、「いつか歌える時がきたらいいな」と歌うのを一度はお断りしました。でも、このあいだいろいろ整理していたら、この曲の資料と歌詞が出てきて、それを見たら涙がボロボロ出てきたんです。「なんていい詞なんだろう!」と。
この歌詞は、〈言葉〉〈背中〉〈情熱〉〈日常〉とか、すべてのことを〈愛〉と歌いますよね。「あなたにありがとう」と感謝しつつ、「下手くそだけれど、今でもこうして自分は存在しているんだ」と。そこで、「もしTaniさんさえよければ、この曲を勉強し直して歌いたいです。歌う限り、一生歌いたいです」とお伝えしたんです。そうしたら、快く私のお話を受けてくださって、「アッコさんのために書いた曲ですから、どうぞ歌ってください」と。
Tani:お話をいただいた時は、とても嬉しかったです。
和田:だけど、いざ歌ってみようとすると、レンジが広いんです。私の歌い出しなんて、めっちゃ低いんですよ。普通の女性だったら出ないと思います。今年の暮れに恒例の青山のブルーノート東京でのステージがあるんですけど、そこで「愛ヶ十」を歌いたいと思っているので、その時は半音上げてみようかな、と。出だしの歌詞、〈優しかった母の言葉(愛)も〉がすごくいいんですよね。「泣けへんかったらおかしいやろ」って(笑)。さっき聞いたんですけど、Taniくんのお母さんも“アキ子さん”なんですって。
Tani:そうなんです。
和田:同じアキ子でも、Taniさんにとって私はおばあちゃんみたいな感じ(笑)。孫みたいな子に人生の歌を作ってもらって泣きそうになった自分が、さっきの撮影の時に情けなく思って。「和田アキ子、なんぼのもんじゃい! コラ!」って、私はよく自分自身に対して他人事のように言うんです。さっきはそう思って歌わなきゃいけないと必死でした。それくらいすごい歌を作っていただいたと思います。
Tani:ありがとうございます。これだけ活動歴と年齢に開きがあるこの僕が曲を書いていいのでしょうか、という戸惑いみたいなものが正直なところあったんです。でも、そこを少しでも埋めるために、アッコさんが出された本の『5年目のハイヒール』を読ませていただきました。そこに半生、さまざまな人間模様について書いていらっしゃって、それを通じてちょっとだけアッコさんのことを知って、本のなかから言葉もお借りしてできあがったのが「愛ヶ十」です。ラジオ(ニッポン放送『ゴッドアフタヌーン アッコのいいかげんに1000回』)で「これは和田さんが書かせた曲なんだよ」とパーソナリティーの方がおっしゃっていたんですけど、まさしくその通りですね。
和田:ありがたいです。
Tani:だから、アッコさん以外にお渡しするつもりもまったくなかったんです。なので、最初に一度お話がなくなったタイミングで、すぐにそっとしまいました。

和田:Taniさんは、歌詞とメロディがぴゅっと出てくるんですか? 詞先ですか? それともメロディ?
Tani:僕はメロディからなんです。お風呂に入りながら、シャワーを浴びている時にメロディが出てくることが多くて。
和田:えっ!? そんな時にあの歌が出てきたんですか?
Tani:そうなんです。排水溝に流れていかなくてよかったです(笑)。
和田:「流れるやん!」って私も言おうと思ってた(笑)。そんなに簡単にメロディって出てくるものなんですか?
Tani:メロディはそういう感じで出てくることが多くて。そこに歌詞を当てはめていくんです。今回の楽曲でも悩んだのは歌詞でした。歌詞に10個出てくる〈愛〉は、アッコさんの本を読ませていただいて、そこにあったさまざまな方々とのエピソードから感じたことを表現しています。〈眩しかった憧れ(人)の眼差し(愛)も〉は美空ひばりさんのことですし、本で読んで垣間見えたアッコさんの人生を散りばめています。
和田:こんな若者、なかなかいないですよ。
Tani:いやいやいや! デビューしてからは5年目なので、まだまだなんです。
和田:こんな言葉が出てくる若者って、なかなかいないと思う。なんで、私が出会ったいろんな人たちを〈愛〉に喩えたんですか?
Tani:『5年目のハイヒール』は、すごく壮絶で、でもとても人間味のあるお話がたくさんあったんです。だから、僕の活動歴で細かいことを語るのは野暮だと感じて。内容が濃いエピソードの数々だったからこそ、「歌詞の内容はシンプルに仕上げたうえで、アッコさんの声で歌っていただくのがいちばんいいのでは、と。そう思って、すべての出会いを〈愛〉としました。
最初にお話をいただいた時に「ほっこりした曲をお願いします」ということだったんですよね。僕が思う“ほっこり”は、人間関係から生まれる温かいエピソードだとその時に感じて。「それに付随するワードってなんだろう?」と考えたら、「ありがとう」なのかな、と。そこから「愛が10個でありがとう」という読ませ方を思いついたんです。そういう考えに至り、シンプルに〈愛〉でまとめさせていただきました。
和田:すごいことですよね。
Tani:いやいや。アッコさんが歌ってくださったからこそ、深みが出たと感じています。この曲を自分で歌わなかったのは、それもあったんです。僕の声だと深みが出ないんですよ。



















