乃木坂46は今、誰が“エース”なのか? 賀喜遥香、井上和、大越ひなの……『全ツ』を経て新しいフェーズへ
7月5日から9月7日にかけて、全国7都市で全16公演が行われた『乃木坂46 真夏の全国ツアー2025』が聖地・明治神宮野球場で幕を閉じた。3期生以降が主力となり、4期生や5期生がステージの中心に立つ。そしてその後方には6期生が立ち、世代のバトンが確かに受け継がれていることを物語っていた。世代交代を果たしたグループが新しいフェーズに入ったことを、あの光景ほど強く示した瞬間はなかった。彼女たちの姿を目にした時、乃木坂46は確かに新時代へと移ったのだと実感した。
そんな中で浮かび上がるのが、“エース”という言葉の意味である。白石麻衣や西野七瀬らがいた時代、エースとはグループの代名詞であり、絶対的な象徴だった。だが今は、その定義が大きく変わりつつある。ひとりに重責を背負わせるのではなく、複数のメンバーがそれぞれの強みを発揮し合う体制へと移り変わっている。それは弱さではなく、むしろ乃木坂46が時代に合わせて選んだ戦略的な形だと思う。
では、現在の乃木坂46を象徴する存在=“エース”を挙げるとするならば、それは一体誰なのだろうか。
賀喜遥香
『真夏の全国ツアー2025』で座長として役目を果たした賀喜遥香。彼女は、28thシングル『君に叱られた』で初めて表題曲センターを務めて以来、30thシングル表題曲「好きというのはロックだぜ!」、34thシングル表題曲「Monopoly」、最新作となる39thシングル表題曲「Same numbers」と、繰り返しセンターという役割を任されてきた。選抜常連としてグループを引っ張る姿は信頼の厚さを示している。
ライブでは安定した歌唱と表現力で、曲の世界観をしっかりと観客に届け、神宮のステージで披露した自身のセンター曲「Same numbers」も楽曲のメッセージを正確に伝える力量が見えた。加えて、彼女の強みはパフォーマンスだけにとどまらない。ラジオやバラエティで時折見せる言葉に詰まって落ち込んだり、涙を流したりする等身大の姿は、親しみやすさを増幅させている。完璧ではない姿を隠さず、彼女は信頼できる表現者として支持を集めているのだろう。
また、1stソロ写真集『まっさら』(新潮社)のヒットやCM出演など外部での活動も広がり、グループの看板としての存在感は年々強まっている。筆者は、賀喜の本質的な魅力は“人を安心させる力”だと感じている。特別な肩書きがなくとも、自然とその場の軸になることができる――。今の乃木坂46にとって、彼女は大黒柱として欠かせない存在だ。
遠藤さくら
遠藤さくらもまた、24thシングル『夜明けまで強がらなくてもいい』で表題曲センターを務めて以降、グループを代表する存在へと成長した。特筆すべきは、俳優としての活動だ。連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合)への出演をはじめ、主演ドラマ『トラックガール』(フジテレビ系)での演技は高い評価を受け、乃木坂46を知らない層にも名前が届いた。かつての山下美月がそうだったように、俳優業を通じてグループの顔としての役割を担っている。
そんな彼女は、普段の柔らかな雰囲気から一変し、ステージでは楽曲ごとに表情を変える。特に「ごめんねFingers crossed」や「Monopoly」では、クールな一面と柔らかい表情を自在に切り替え、観客を惹きつける。バラエティでは柔和で控えめな性格を覗かせ、後輩にとっては安心して甘えられる存在でもあるだろう。俳優として外で評価を得る姿と、グループの中で表現者として立つ姿。その両輪を持つ遠藤がいることで、乃木坂46は“アイドルグループ以上の存在”として認識されているのではないだろうか。
井上和
5期生の井上和は、2023年8月リリースの33rdシングル『おひとりさま天国』で初めて表題曲センターを任された。翌年の夏シングルとなった『チートデイ』でも表題曲センターに選ばれ、前年に続いて2年連続で『真夏の全国ツアー』の座長を務めた。重責を背負いながらも最後までやり切り、大粒の涙を流す姿に、歴代の座長を務めてきたかつての先輩メンバーたちが見せてきた“不器用な強さ”を重ねた観客も多かったのではないだろうか。
井上の魅力は、圧倒的なビジュアルやカリスマ性はもちろんだが、弱さまでをも見せる“強さ”にある。成長の物語をファンと共有し、完璧ではない姿にこそ応援の余地が生まれ、そこに強い共感が集まる。ファッション誌の専属モデル、CM出演、さらには写真集発売やドラマ出演など外部での活動も加速し、認知度も急速に高まっている。
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昨年の神宮公演では、「チートデイ」の歌詞の中にあるセリフ〈「ごめんなさい」〉を〈「ありがとう」〉に言い換えていたのも印象深い。ツアーを支えるファンへの感謝を、座長として、しかし自然体のままに伝える彼女の姿に、今の乃木坂46を象徴する人間味を見た気がした。王道の系譜を継ぎながらも、自分自身の物語を重ねていく井上は、新世代の象徴にふさわしい存在だろう。























