佐藤健、“TENBLANK・藤谷直季”として存在する歌唱の凄み 『グラスハート』を成功に導いた歌声

 7月31日からNetflixにて配信がスタートしたドラマ『グラスハート』が好調だ。配信から1カ月が経過した9月1日現在も「今日のTV番組TOP10」にランクインしている。

『グラスハート』予告編 - Netflix

 話題はドラマにとどまらず、劇中に登場するバンド・TENBLANKのアルバム『Glass Heart』がリリースされ、楽曲「旋律と結晶」が8月6日付のSpotify「Daily Viral Songs(Japan)」(※1)において1位を記録。その後も人気は加速し、8月27日公開のBillboard JAPANの総合アルバムチャート「Hot Albums」(※2)で『Glass Heart』が首位を獲得。10月11日には横浜・ぴあアリーナMMにてファンミーティング『TENBLANK from "Glass Heart" FAN MEETING feat. Takeru Satoh. Yu Miyazaki. Keita Machida. Jun Shison』を開催するだけでなく、11月からは『TENBLANK from "Glass Heart" FAN MEETING - ASIA TOUR feat. Takeru Satoh』と題してアジアでのファンミーティングツアーを開催するなど、日本国内のみならず、海外にもその名前を広げている。

 まずはあらためて『グラスハート』という作品について考えたい。『グラスハート』は、若木未生による同名ライトノベルを原作としたバンドドラマ。佐藤健、宮﨑優、町田啓太、志尊淳がメインキャストであり、劇中に登場するロックバンド・TENBLANKのメンバーを演じた。菅田将暉や髙石あかり、山田孝之といった俳優陣が脇を固めるだけでなく、竹原ピストルやYUKIといったアーティストたちが俳優として登場してる点も音楽を描く作品ならではの要素。さらに劇中でTENBLANKが演奏する楽曲の制作には野田洋次郎(RADWIMPS)、Taka(ONE OK ROCK)、川上洋平([Alexandros])、太志(Aqua Timez)、清 竜人、Yaffleなど、錚々たるアーティストたちが参加している。

 そんな『グラスハート』、ひいてはTENBLANKというバンドがなぜここまで注目を集め、話題を呼んでいるのか。もちろん豪華な俳優陣の演技や現役アーティストがガッツリと参加したからこその楽曲クオリティも理由のひとつだが、私は本作品の主演/企画/共同エグゼクティブプロデューサーを務めた佐藤の歌にこそあると考える。

 先述した通り、TENBLANKによる劇中歌はすべてアーティストたちによって制作されたものだ。特に作中で最も重要な場面で歌われる楽曲である「永遠前夜」と「Glass Heart」は、作詞曲を野田洋次郎が担当。野田印とも言えるような特徴的なメロディラインは、唯一無二でありながらも、歌い手次第では借り物のような印象を与えてしまう諸刃の剣だと思うが、佐藤はそれを歌いきるだけでなく、自らのモノにさえしている。劇中における藤谷直季という超天才肌の音楽家という設定に、佐藤の歌唱が説得力を与えているのだ。

TENBLANK – 永遠前夜 / Forever Eve [Official Music Video]
TENBLANK – Glass Heart [Official Music Video]

 佐藤の歌唱力について、TENBLANKの楽曲を通してもう少し具体的に掘り下げてみよう。アルバム『Glass Heart』の1曲目を飾る「MATRIX」はキャッチーなギターリフが印象的なロックチューン。Aメロは言葉の詰め込まれた歌いづらいローの効いたメロディになっているのに対し、サビは開放的なハイ気味のメロディが印象的だ。その音域の広さとスピード感を乗りこなすには高い技量が必要なところだが、ロー/ハイのコントロールを見事にこなし、歌詞のフレーズも潰さない佐藤の見事な歌唱が「MATRIX」を高クオリティの楽曲たらしめている。

 劇中、TENBLANKの初ステージにて披露された「旋律と結晶」は、「MATRIX」のサビ以上にハイの、というよりは常にミックスボイスが続くようなメロディが展開する。こちらも高難易度の楽曲だが、「MATRIX」で発揮した音域の広さだけでなく、佐藤ならではの息の成分の多い歌唱法、そしてその表現力に裏打ちされた繊細なニュアンスを細部にまで施すことで、うっとりと聴き入ってしまう歌声に仕上がっている。

TENBLANK – 旋律と結晶 / Crystalline Echo [Official Music Video]

 なによりも佐藤健というすでに確立された俳優でありながらも、劇中、そして楽曲のなかでは“TENBLANKの藤谷直季”として存在していることが、『グラスハート』という作品、そしてTENBLANKの楽曲にリアリティを与えている。『グラスハート』を鑑賞していて、あるいはTENBLANKの楽曲を聴いていても、これまでに佐藤が出演してきた数多の作品のことは一切思い起こさない。そこにはただ藤谷直季だけが存在している。その感覚こそが『グラスハート』、そしてTENBLANKというバンドのリアリティ、そして説得力の証左ではないか。

 佐藤出演のバンド作品と聞いて、2010年公開の映画『BECK』を思い出す人も多いだろう。『BECK』で佐藤は天才的なボーカリスト・コユキを演じたが、『グラスハート』と『BECK』が決定的に異なる部分に、『BECK』でコユキが歌う描写は無音などで処理され、佐藤の歌声を聴くことができなかったという点がある。今回の『グラスハート』は、佐藤が自らNetflixに企画を持ち込んだものだ。佐藤はこの15年でイベントやバラエティ番組などで歌声を披露し、その歌唱力にはたびたび注目が集まっていた。『BECK』のコユキのような無音処理ではなく、自分自身の声でしっかりと歌うバンドドラマ。そのハードルの高さは『BECK』を経た佐藤自身が誰よりも理解しているはずだが、この『グラスハート』はそのハードルを容易く超えてしまった。そこには佐藤をはじめとした全ての出演者や関係者の並々ならぬ覚悟があり、その起点にはほかでもない佐藤がいる。その覚悟が『グラスハート』に注ぎ込まれたからこそ、この作品は今世界中に届けられようとしているのかもしれない。

※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-jp-daily/2025-08-13
※2:https://www.billboard-japan.com/charts/detail?a=hot_albums

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