寺島拓篤×FLOW TAKE 特別対談 アニメを通して築かれたリスペクト、念願の共作で開いた新たな扉
寺島「有無を言わさず感が気持ちいいノリになっていく」
ーーそして今回、寺島さんの新曲「more than W」の作曲・編曲をTAKEさんが担当。楽曲提供という形でのコラボレーションが実現しました。
寺島:『アニエラ』で共演させてもらってから、スタッフとも「機会があればぜひお願いしてみよう」という話はしていたんです。ただ、せっかくTAKEさんにお願いするならタイアップがあった方がいいなと。それでタイミングを見計らっていたのですが、今回、TVアニメ『異世界黙示録マイノグーラ~破滅の文明で始める世界征服~』のED主題歌のお話をいただいて、「このカードを切るのは今しかないだろう!」ということでオファーさせていただきました。
TAKE:『アニエラ』から2年。ほどよく熟成された頃合いだよね(笑)。でも、お話をいただけてすごく嬉しかったですね。
寺島:ただ、その時、FLOWが海外ツアー中だったので、すごく探りましたね。「TAKEさん、今、南米にいるみたいだけど、お話して大丈夫かな?」みたいな(笑)。「でも、逆に刺激になっていいかもしれない」って勝手に想像しながらお願いしたんです。
TAKE:そうそう、ちょうどバンド史上最大規模のワールドツアー中で、約10カ月かけて23カ国48公演を回ってたんですよ。まあ、ずっと海外にいたわけではなくて、北米に行って帰ってきて、ヨーロッパに行って帰ってきて、みたいな感じだったんですけど。改めて世界で日本のポップカルチャーが愛されていて、アニソンをみんなが日本語で歌ってくれるのを直に感じることができました。そんな時にテラシーからお話をいただいて。でも、そこからは早かったよね。
寺島:そうですね。TAKEさん、曲を上げてくるのがすごく早いんですよ。
TAKE:最初にリモートで打ち合わせをさせてもらって、タイアップ先のアニメがどういう作品で、どんな楽曲を求めているのか、明確なリクエストがあったんですよ。なのですごく作りやすかったです。
寺島:今回は作品サイドの意向で、作中に登場するダークエルフの双子の姉妹、メアリアとキャリアをテーマにした楽曲にしてほしい、というオーダーだったんですよ。ネタバレになるので詳しいことは言えないんですけど。僕も8話と9話に個性的なキャラクターで出演していて、この姉妹とも絡みがあるのですが、彼女たちには結構壮絶な展開が待っていて。
TAKE:そうそう。Xとかで、エンディングのアニメを観て「怖い」って言ってる人も結構いるよね。「一体何が起こるんだ……?」みたいな。アニメの序盤は、すごくほのぼのとした国造りのお話になってるんだけど。
寺島:土台が「邪悪な国家」なだけで、やってることは普通にのんびりしてますもんね。この作品の真骨頂はこれからなんですよ。ただ、僕も原作を読んだ時点で、この姉妹をテーマにした楽曲を求められるとは思っていなかったので、自分の中でもハンドルを切り直して制作を進めました。おじさん2人で双子の女の子の姉妹の曲を作るっていう。
TAKE:アハハ(笑)。楽曲に関しては、かっこよくて熱いロックがいいという話で、リファレンスとしてFLOWの「BURN」という曲を挙げていただいて。この曲は『テイルズ オブ ベルセリア』というゲームの主題歌なんですけど、ちょうどテラシーの奥さん(声優の佐藤聡美)が出ている作品なので、まさかの繋がりが生まれて。
寺島:本当だ! 僕、リファレンスのことは知らなかったんですけど、歌詞を書くときは「BURN」のテイストとかを参考にしようと思って聴いてました。
TAKE:意図せず合ってたんだ。よかった。それとアニメがダークファンタジーのお話なのでハードロック寄りの曲が合いそうだなと思って、SiMの「The Rumbling」とかを参考にしつつ、ゴスペル的なクワイアを入れるのはアリだなと思って加味しました。
寺島:あのクワイア、最初に聴いたとき衝撃でした。自分の曲の中で、そこまで雰囲気を煮詰めたものがなかったので、初めて聴いた瞬間に「おお、これめちゃくちゃいいぞ」と思って。TAKEさんはデモを3曲くらい上げてくださったんですけど、その中でもこの曲はサビがメジャーラインでちょっと明るめだったので、最初は判断しかねるところもあったんです。けど、制作サイドもこの曲がいいと言ってくださって、嬉しかったですね。
TAKE:テラシーの歌詞と歌が入ったことで、ダーク感がより増したよね。今までないアプローチで歌ってくれたと思うし、楽曲のカラーみたいなものを大事にしてくれたのかなって思った。
寺島:そこはもう、作品に寄り添うのが大切なので。いただいた楽曲の良さを自分の歌詞と歌で仕上げていかなくてはいけない責任感もあったので、頑張りましたね。
ーー寺島さんは、ご自身のアーティスト活動の楽曲はすべて自分で作詞していますが、今回、TAKEさんの楽曲に歌詞を乗せる作業はいかがでしたか?
寺島:TAKEさんがどこまで意図しているのかはわからないですが、言葉を置いていくと綺麗にハマるのがすごく気持ちよかったです。さすがアニソンをたくさん手がけていらっしゃるので、自然とハマりやすい組み立てになってるのかなと。その土台がやりやすかった分、アドバンテージができたので、「いや、もっと違う表現があるんじゃないか」と、もう一歩踏み込んで悩めたのが、ありがたかったですね。
TAKE:仮歌も早かったよね。最初にテレビ尺の89秒バージョンを聴かせてもらったけど、めちゃくちゃ声が合ってるなと思って。
寺島:やった! 送った後ソワソワして、スタッフに「TAKEさんからのリアクションどうだった?」って聞いたら、「オッケー!」とだけ書かれたメールが返ってきたって聞いてびっくりして(笑)。この楽曲のダークなニュアンスとは真逆ですよね。
TAKE:俺、「お世話になってます」とか絶対書かないから(笑)。でも、英語と日本語のバランスも絶妙だったし、Aメロの歌詞とかは、うちのボーカルが絶対使わないであろう独特な言葉選びで。自分たちにはないものになるのが、こういうコラボの面白さですよね。
寺島:サビの〈more than Words can say〉のところは割とすぐ出てきて、ピタッとハマったので運命みたいなものを感じました。ただ、歌い方は悩みましたね。暗すぎると音に乗せづらくなるので、その塩梅は考えました。この間、ライブ(『Original Entertainment Paradise -おれパラ- 2025 夏場所』)で歌わせてもらったのですが、会場が昼間の日比谷公園大音楽堂だったので雰囲気作りが難しくて。でも生で歌うことで、さらに完成するなって感じました。
ーーサウンド的にも、今までの寺島さんのディスコグラフィーにはあまりないダークな質感が印象的ですが、TAKEさんの中でこだわったポイントは?
TAKE:やっぱりクワイアですね。もともと持っていた音源だとちょっと雰囲気が合わなかったので、このために新しいソフトシンセを買いました。あのどこの国の人ともわからない声が1発目にくることで、グッとこの世界観に入れるサウンドになったんじゃないかな。あと個人的にこだわったのが、国民の声。
寺島:国民の声?
TAKE:そう、『マイノグーラ』は主人公のタクトくんが、難民になって流れ着いたダークエルフたちを率いて、世界を破滅に導く邪悪国家を作っていくお話なので、その国家造りの礎になる国民の声を入れたいなと思って。で、2サビ終わりのセクションで、国民を先導するテラシーこと国王タクトくんの声に合わせて、国民たちが〈pray for...〉〈hope for...〉ってコーラスを入れるパートを入れました。あれは国民みんなでシャウトするイメージです。
寺島:あれは国民だったんですね! おもしろい。
TAKE:あと、歌のレコーディングのディレクションもさせてもらったんですけど、「じゃあちょっと違うパターンの人で」みたいな感じで、いろんな声音で歌ってもらって。でも、テラシーは器用だからいろんなキャラクターが出てきて、いろんな国民が一丸となってる絵が作れて良かったですね。
寺島:急にアフレコ作業みたいでした(笑)。今回はTAKEさんが録ってくださるということで、いつも一緒にやっているディレクターさんも見学に来て、ワクワクしながらレコーディングに臨んだんですけど、もう本当にいつものTAKEさんのままのテンポ感で、ノリがすごく良くて、自分としても乗っていきやすかったです。
TAKE:ボーカルは一番感情が出やすいパートだから、変に悩ませたくないというのがポイントとしてあって。テラシーはこの曲に対してどうアプローチするか、自分の中で仕上げてきてくれていると思ったので、全然迷わなかった。テラシーが表現したいものをピックアップさせてもらうような作業でしたね。
ーー寺島さんの中では、歌についてどんなプランを組み立てていたのですか?
寺島:イメージとしては、やっぱり題材になっているキャラクターたちが想起できるような歌い方はどんなものか、ということをすごく考えました。今までにあまりないタイプの曲だったので、自分にできることや表現の幅がこの曲をきっかけに広がればいいなと思って。特に1Aメロの発声や語尾の処理の仕方は、今まであまりやってこなかったことができた印象で、自分の中では丁寧にできたかなと思ってます。
TAKE:テラシーは表現が本当に器用で多種多様だよね。かっこいい系の「Nameless Story」や「Trinity」もあれば、ど直球ヒーローソングの「Buddy, steady, go!」とか爽やか系の「sunlight avenue」や「ハートチューニング」もできる。その中で今回の曲は、既存の曲とはまた違ったところにちゃんと着地できたんじゃないかな。
寺島:まさにその通りですね。今までにない場所に踏み込むことができたので、この曲から得たものは多いなと、自分の中では感じています。
TAKE:結局、楽曲提供させていただいて一緒にやる意味は、今までにない部分の良さを引き出したり、もともと持っている良さをさらに強く押し出すことが大事だと思っていて。その意味では新しい扉が開いたみたいで、コラボした意味があったのかなと。
ーーTAKEさんはいろんな方に楽曲提供されてるなかで、今回のように声優アーティストの楽曲を手がけることも多いですよね。
TAKE:そうですね。声優さんだったら内田真礼ちゃんや大橋彩香ちゃん、それこそ福山潤さんとも去年一緒にやったし、あと最近だとLustQueenで結那ちゃんと一緒に『ポケモン』の曲(『怒りのオコリザル観察日記』エンディングテーマ「そうです!!!」)を作ったりして。そういえばテラシーは熊田茜音ちゃんと一緒にやってるよね?
寺島:はい、『転スラ(転生したらスライムだった件)』のゲームの曲(「VISIONS(feat.寺島拓篤)」)を一緒にやってます。
TAKE:熊田茜音ちゃんのデビューのきっかけになったオーディション、私が選ばせていただきました。審査員をやっていたので。
寺島:えっ! もう、親みたいなもんじゃないですか。娘さんをお借りしてすみません(笑)。
ーーそんななかで、声優さんに楽曲提供やディレクションする時ならではのアプローチや経験はありますか?
TAKE:ディレクションに違いはなくて、基本は同じスタイルですね。自分の場合、亀田誠治さんにバンドのデビュー当時からお世話になっていたので、その意味では俺のディレクションはほぼ亀さんから学んだんですよね。亀さんはスタジオの空気作りをすごく大事にする人だから、その構築と、あとはちゃんと耳で判断して瞬時に吸収していくっていう。もう20年以上前から亀田塾の塾生として学ばせてもらったので。
寺島:うわあ、すごい! でも実際にTAKEさんは、明るいテンションの中に、物事をピンポイントで見ているところがあって、レコーディングでも委ねられる部分がすごくあって、スタジオ職人でしたね。
TAKE:でもこんなにズカズカ入ってこられたら嫌な人もいるだろうけどね。「ノックもしねえのかよ」みたいな。谷山紀章さんにも「TAKEちゃんはズカズカ入ってくるから」って言われました(笑)。
寺島:その有無を言わさず感が気持ちいいノリになっていくのが本当にすごいです。