“AI作詞作曲”リリースになぜ挑戦した? 世が世なら!!!「AIでええ愛」企画者に聞く試みの狙い

 ChatGPTの普及など、日常生活においても身近な存在となりつつある生成AI技術。しかし、エンターテインメントの分野においては、権利上の問題や“クリエイターとの共存”など検討すべき課題が多く残されており、特に楽曲制作への活用は慎重な姿勢がとられている。そんななか、先日「作詞・作曲:AI」というクレジットによる楽曲が配信リリースされた。つばさ男子プロダクション所属のボーイズグループ・世が世なら!!!の新曲「AIでええ愛」である。本件の企画者であり、自らもさまざまな楽曲制作に携わってきた世が世なら!!!のチーフマネージャー・堀切裕真氏に話を聞いた。

「AIツールを活用することが日に日に増えていくなか、音楽シーンでもその波は近い将来必ず来ると思っています。前例のない今だからこそ、アイドルとしてジャンルや表現の幅を超えて活動している世が世なら!!!であれば、“AIが作詞・作曲する”というチャレンジングな試みをやる意義と面白みがあると感じたのがきっかけです」

 堀切氏は「“AI作詞作曲”というワードだけ見ると音楽に対して手を抜いたように思われるかもしれませんが、熱量と情熱を人がしっかり込めてやれば、質の高いものに仕上げられるという挑戦でもありました」と今回の制作を振り返る。「AIでええ愛」を制作する上でAIのプロンプト(指示)に設定したのは、「ROCK」「AIでええ愛という韻を踏む楽曲にしたい」「かっこいい」といった極めてシンプルなワードだ。また、トータルで70回程度AIへのオーダーを繰り返し、出来上がった楽曲の中から1曲を選ぶという“擬似コンペ”のような形式を採用した。

「作家事務所などを通じて楽曲を集め、その中から楽曲を選んでいくコンペ形式と同じように進めていきました。一度出来上がった楽曲のBメロだけ気に入らないからBメロだけを作り直す、といった調整は行っていないので徐々に精度があがるといったことは今回は経験していません」

 堀切氏はAIが作詞・作曲した楽曲を聴き、そのクオリティの高さに驚いたという。

「こんなにも人間のツボをおさえたメロディをAIが認識・精査して曲を書けるとは想像以上でした。曲構成やイントロのリフのライン含め、ここまで技術が発達していることにも驚きましたし、“AI作詞作曲”ということを隠してリスナーが聴いた時、AIと人間、どちらが制作したものかジャッジするのは難しいのではないかと思いました。『AIでええ愛』の〈ひび割れた夢のカケラ/どこへ消えたのか教えてくれ/画面の中に何がある/嘘まみれの罠ばかり/輪郭が消えるアイデンティティ/答えはどこにあるんだ〉という歌詞については、〈ひび割れた夢のカケラ〉の行く末をこんなにも深みのあるトーンで書けるとは、と感心しました」

 「AIでええ愛」は、MV制作においても生成AIを一部使用しているが、メンバーの再現度など楽曲制作に比べると精度が劣る部分もあったという。

「MVではAIでメンバーを再現しているパートと、メンバー本人が出演しているパートが出てきます。AIのパートはところところ絶妙に『誰!?』という映像になっていますが、そのおかげでメンバーの生身の姿の価値が上がっていて、『やっぱりAIより俺らが踊った方がいいでしょ!』というMVのストーリーも相まって他にはない作品に仕上がったと思います」

 「AIでええ愛」を実際に歌唱し、MVに出演した世が世なら!!!のメンバーも、今回の取り組みについては手応えを感じているようだ。

「最初は企画に対して全てを理解できていなかったのですが、曲を聴いたり、MVの撮影を進行していく中でAIの特性を理解しました。この世の中で新しい一歩を踏み出せたこと、その一員であることがうれしいです」(中山清太郎)

「完成形はAIにしかできない世界観。AIを取り入れることによって自分たちだけじゃ出せなかった味や、表現の幅を広げることができました」(大谷篤行)

「ハイスペックかつツッコミどころもいい意味で多いMV。面白い取り組みでした」(内藤五胤)

世が世なら!!!「AIでええ愛」MUSIC VIDEO

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