母性とは慈愛か支配かーー阿部真央「マリア」、ドラマ『ディアマイベイビー』と育っていくEDテーマの醍醐味

阿部真央「マリア」の普遍性

 楽曲とドラマの親和性にとどまらず、物語の普遍性を視聴者のなかに深く留めるコラボレーションというものが稀に存在する。阿部真央がテレビ東京 ドラマ24『ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~』エンディングテーマとして書き下ろした「マリア」はなかでも突出している。

 松下由樹演じるベテラン芸能マネージャー吉川恵子が、デビュー前から育てた国民的女優が独立、自分を裏切ったことに絶望するなか、偶然出会ったフリーター青年・森山拓人(野村康太)をスターに育て上げる決意をする、というのが初回のあらすじなのだが、ドラマのオープニングは人気俳優が担当マネージャーをナイフで刺したニュースからスタートする。もうそれだけで2人の関係性、恵子の支配と抑圧の末なのでは? という予測が立つ。実際、ドラマの序盤ではマネージャーの役割を超えた偏愛、共演女優への嫉妬など、ともすれば単にヤバい人に映る恵子の行動。だが、拓人への執着や歪んだ愛情の原因が徐々に明らかになっていく。現在、6月6日放送の第10話までのストーリーが明らかになったが、この間、拓人がいわゆる毒親の支配によるトラウマを抱えていること、そして恵子もまた母親からの理解や愛情を得られなかった過去もわかってきた。登場人物の背景が明かされるごとに、エンディングテーマの聴こえ方も徐々に変化し、阿部が描こうとした「マリア」の実相も明らかになる。ドラマとエンディングテーマが同時に育っていく醍醐味があるのだ。

阿部真央 (Mao Abe) - マリア "Maria" [Drama Collaboration PV](ドラマ24「ディアマイベイビー~私があなたを支配するまで~」エンディングテーマ)

 毎話、人物の心理状態に重なるように流れる〈Oh マリア 微笑みは愛か支配か〉という歌い出し。その荘厳さはデフォルメされた非現実的なストーリーや少々大げさな演技の後味を純粋な読後感に昇華する役割を果たしている。理由として「マリア」の神聖な曲調が挙げられる。この曲のアレンジのキモはコーラスとオルガンのサウンドをポップスのバラードとして昇華しているところだろう。主旋律の強度に重なるコーラスと残響が教会で歌われる讃美歌のような歌い出しの切実さと緊張感。有機的なバンドアンサンブルに乗る抑えめのバースは透明感のある声で淡々と綴られ、印象的な鐘の音がさらに祈りの場のイメージを拡張していく。孤独感を際立たせるピアノの単音フレーズ、ティンパニのようなドラムロールが慟哭の念を伴うと、声の温度がグッと上がり静かな祈りは絶望が混ざった懇願に変化していく。エンディングに向かって鳴るパイプオルガンのサウンドが再び神聖な空間を作り出し、最後の音色もその残響であることが全体の印象を決定づけている。

 音の隙間が歌の緊張感を作り出すダークな楽曲で言えば、阿部が近年ピアノでの作曲を取り入れたバラード「I've Got the Power」や、その片鱗を見せたSia「Alive」のカバーも地続きなのではないか。ただ、エモーショナルなこの2曲と比較すると「マリア」での阿部の歌唱は芯がありつつ張り上げる強度とは違う丸さを持ったものだ。R&B系のパワーバラードとはまた違う側面に「マリア」の新しさを感じる。

阿部真央『マリア』ジャケット写真
阿部真央『マリア』ジャケット写真

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