“ハーフの子ども”として日本で過ごした経験――ユキミ・ナガノが来日公演直前に語る、人生と家族と音楽

 スウェーデンのフォーピースバンド、Little Dragonの結成からもうすぐ30年。そんな節目の年を前に、フロントマンでボーカルのユキミ・ナガノがソロデビューを果たした。3月にリリースした記念すべき1stアルバム『For You』は、ミステリアスでエキセントリックなバンドのイメージとは一線を画し、よりパーソナルで内省的なサウンドを追求。彼女の人生の断片とそれぞれのできごとで湧き上がった感情が繊細に綴られている。身のまわりで起きたことや自分を取り囲む家族、そして自己愛、喪失、再起――そのすべてを見つめながら生まれた楽曲の背景から、日本の仙台で過ごした子ども時代の話まで、ユキミに話を聞いた。(Honami Arai)

到達したソロアルバム――「私は『これはあなたのためでもある』と伝えたかった」

――まずはソロアルバムのリリース、おめでとうございます。バンドでの活動からソロプロジェクトへと踏み出したきっかけを教えてください。

ユキミ・ナガノ:今回のアルバム制作は、特に計画していたわけじゃありませんでした。何か空気のなかに漂っているような感じがあって。私たちはみんな「バンド全体のことを考えずに、自分自身を表現してみたい」と感じていたと思います。だから、ソロで曲を書くというのはすごく自然な流れでした。私は、ただその直感に従ってやってみたという感じです。

――つまり長期的なプロジェクトというより、突然生まれたアイデアだったのですね。

ユキミ:そう。本当に“計画”という感じではなかったです。私はずっと「私たちは永遠にバンドでいるだろうな」と思っていたから。でも、人生って必ずしも思い通りにはいかないものですよね。それで、ふと「ソロアルバムを作ってみようかな」と思いついて、5分くらい考えをあたためてからその場の勢いで決めました。そこからはもう、進むだけでした。

――ソロアーティストとして活動するなかで、大きな変化や驚くような発見、自分についてなにか新たに学んだことはありましたか?

ユキミ:曲を書いていると、常に自分について新しいことを発見しているような気がします。それがアルバムにも表れていると思います。10年前の私には、このアルバムは書けなかったと思うから。今の私の頭のなかや、身のまわりで起こっていることが反映されていますし。とても個人的なアルバムを書いたこと、それ自体が新しい体験でした。Little Dragonではすべての曲にみんなが関わっているので、音の幅が広くて多様です。でも、今回のソロアルバムはひとつのサウンドスタイルにまとまっている感じ。似ている要素もあるけど、やっぱり違います。

――今回のアルバムはとても内省的で、オープンで、感情が伝わってくる作品だと感じました。Little Dragonのボーカリストとしての“Yukimi”はエキセントリックでミステリアスなイメージを持たれていましたが、今回の作品ではよりパーソナルで率直な印象を受けました。どんなテーマやメッセージを表現したかったのでしょうか?

ユキミ:そうですね、ミステリアスなイメージって、ある意味では実は私のシャイな部分を隠すための手段だったのだと思います。でも、今回のアルバムではもっとパーソナルで、心を開いて、自分の人生や考えをさらけ出す準備ができたと感じました。ここまでくるのに、時間が必要でした。

Yukimi - 'Break Me Down' (Official Video)

――アルバムタイトル『For You』には、どんな意味が込められているのでしょうか? それはご自身のためですか? それともリスナーのために?

ユキミ:私は、すべての人がクリエイティブであると思っていて、それぞれのやり方でそれを表現できると思っています。とても個人的な視点でこのアルバムを作りましたが、同時に「私たちはみんな人間でたくさんの共通点を持っている」とも思っています。この作品を通して、私は「これはあなたのためでもある」と伝えたかったです。創造することの素晴らしさって、お互いに分かち合うことができて、それをきっかけに繋がりを持てること。誰もがそれぞれの方法でできるんだということを示す例になればと思っています。そして、自分のことについて赤裸々に書いたら、人々がより共感してくれるような気がした。そこには、「隠さない準備ができた」という側面もありました。それが人間であることの美しさのひとつだと思います。だから『For You』というタイトルにしました。

――アルバムのカバーがとてもユニークで目を引きました。撮影の裏話やコンセプトについて教えていただけますか?

ユキミ:「人生を通して自分自身を背負っていかなければならない」というのがビジュアルのコンセプトでした。でも、あの女の子……本当はあれ、私だったんです。あとから私の顔をPhotoshopで合成する予定だったけど、私が重すぎて彼女には持ち上げられなかったので、座って支えることになりました。だから椅子を使うことになって! 彼女は「倒れそう!」って何度も言って、それで「じゃあ椅子を使おう」ってことに(笑)。撮影は海辺、ゴットランドの海岸(スウェーデンの島)で行いました。自己というもの、つまり“エゴ”を背負うというイメージですね。「人生で自分を担いでいく」という象徴的な意味合いのビジュアルです。

――作品の制作過程で、ひとりのアーティストとして孤独やプレッシャーのようなものを感じましたか?

ユキミ:もちろん不安になる瞬間もありました。「このアルバムを作る意味って何だろう?」という漠然とした不安を感じる瞬間はあります。でも、曲を書いている時、そのプロセスはとても楽しいものです。毎日がジェットコースターみたいで、簡単に進む日もあれば、難しい日もある。でも、創作中は「人がどう思うか」とか「どう受け止められるか」は一切考えていません。書き終わってから、「うまく届くといいな」と思うだけだから。

Yukimi - 'Make Me Whole' (Official Video)

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