星野源、藤井 風からジャスティン・ビーバーまで K-POPシンガー・dori、“今”に繋がるルーツと初来日公演を語る

今や世界中のリスナーが関心を寄せるジャンルとなったK-POP。とはいえ、注目してほしいのは、ヒットチャートの常連であるダンスポップやバラードだけではない。その筆頭格がインディーズのロック/ポップスである。韓国では1990年代後半から同シーンが盛り上がり、純粋に自身のスタイルを追求する個性派や実力派が次々と登場。彼ら/彼女らが生み出す質の高いサウンドはメインストリームにも大きな刺激を与え続けてきた。なかでも5月24日にビルボードライブ横浜で初の単独ライブを行うdoriは、韓国の音楽に詳しくないリスナーでも押さえておいて間違いない男性シンガーソングライターだろう。
2022年2月にプロとしての活動を開始した彼は、R&B系の軽快なポップスで着実にファンを増やし、現在ではYouTubeの総再生回数が1億回を超え、Spotifyの累積ストリーミングが2000万回以上を記録するほどの注目アーティストに。日本でも大ヒットドラマ『サムダルリへようこそ』(JTBC)や『涙の女王』(tvN)のオリジナルサウンドトラック(OST)への参加で知名度が急上昇中だ。待望の来日公演を間近に控えたdoriにインタビュー。リハーサルやレコーディングの合間を縫って、今の心境や日本への思いをにこやかに語ってくれた。(まつもとたくお)
自分自身を表現するためのR&B
――doriさんがデビューしたのは2022年ですが、プロになりたいと思ったのはいつ頃だったのでしょうか。
dori:最初から本格的にやろうと思っていたわけではなかったんです。幼い頃からシンガーソングライターに憧れていたので、とりあえず芸術系の高校に進学しようと思いました。そのために1カ月ほど専門の勉強をして合格もしたのですが、学費が高かったせいで断念することになって。普通の高校に入学してからは、日々の生活のなかで「自分は音楽で何ができるだろうか?」と常に考えていたような気がします。高校2年生の時、自分が中心となってクラブを設立しました。名称は“音楽芸術部”。ちょっと大げさな名前ではありますが(笑)、実際は楽器を演奏したり、作曲をしたりと、それぞれが好きなことをする軽めのサークルといった感じです。そこの部長を務め、部活の活動支援金をもらえる自治体のプロジェクトなどに参加していくうちに、「もっと積極的に音楽に関わりたい」と思うようになったのが始まりだったでしょうか。
――「シンガーソングライターになろう」と思った時期に影響を受けたアーティストを教えてください。
dori:僕の創作活動に大きな刺激を与えてくれたのは、キム・グァンソク(韓国フォークの最後の継承者と言われ、1980~90年代中期に活躍)さんです。高校生だった2010年代当時、授業以外にも“自律学習”という時間がありました。僕の学校では、他の学校と違ってそれが申請制だったんです。僕は特別勉強熱心というわけではありませんでしたが、友達に迷惑をかけないくらいに、自分も経験して学ぶべきだと思いました。毎晩10時まで勉強したり本を読んだりしながら、「この時間に自分は何を学べるだろう?」と悩むのと同時に、アーティストを目指す人間として、感性を失わないように本を読んだり音楽を聴いたりしていたんだと思います。その時期、無意識に手に取ったのがキム・グァンソクさんの音楽でした。今振り返ってみると、僕がまだ経験したことのない感情を、歌詞と声で伝えてくれた唯一の人だったように思います。ちょっとしたエピソードをひとつ挙げるとすれば、自律学習の時間にキム・グァンソクさんのアルバムを全曲通して聴いていたら、思わず涙がこぼれてしまって……ちょうどその日は担任のチェ・イニョン先生が担当だったんですが、泣いている僕を見つけて、先生も僕もとても慌てたことがありました。チェ・イニョン先生に、あらためてお礼を伝えたいです。
――doriさんは韓国でR&B系のアーティストと言われているので、ベテランのフォークシンガーをリスペクトしているのは意外でした。
dori:「自分のことを音楽で表現したい」と思うきっかけになったのがキム・グァンソクさんなんです。彼のサウンドを意識したというよりも、音楽に対する向き合い方に影響を受けたと言ったほうが正しいかもしれません。「自分自身を表現するには何が最善なのか」と考える過程でたどり着いたのがR&Bだったんです。

――僕自身、韓国のR&B系の韓国人アーティストを数多く取材してきましたが、影響を受けた歌手としてブライアン・マックナイト、アッシャーをあげる人が多かったので、doriさんのコメントは新鮮でした。
dori:もちろん彼らも大好きです。でも、「自分もこんな音楽をやってみたい!」と思わせてくれたアーティストといえば、クリス・ブラウン、ジャスティン・ビーバーでしょうか。その前の世代ではポップスの象徴的な存在とも言えるマイケル・ジャクソンにも影響を受けました。僕にとって音楽の基本は、この3人と言っても過言ではないです。
――現在の韓国のR&Bシーンについて、doriさんはどのように見ていますか?
dori:デビューしたばかりの頃はシーンを俯瞰する力を持っていなかった、というのが正直なところです。でも、プロになって3年目に入ったあたりで見えてくるものもありました。それは、先輩たちが磨いてくれた道のりやマーケットのあり方でしょうか。あとは新人たちも以前と比較して増えてきたような気がします。マーケット全体が大きくなっているのだと思います。
――そのような状況のなかでdoriさんの生み出すサウンドはオンリーワンの輝きを放っていますよね。軽やかさを大切にしたライトなR&Bは韓国のインディーズでは相当レアだと思います。ご自身としても意識的にほかとは違うものを作ろうとしていたのでしょうか?
dori:それはあまりないと思いますね。創作活動を始めた当初は、むしろ自分が本当に好きで楽しんで作れるような音楽をやることに集中していました。僕のセンスや感情をどうやって伝えればいいのかに悩み、工夫していただけです。でも、そういったことをやっていくうちに音楽的な方向性とノウハウが固まってきたような気がするので、最近は自分なりのカラーが出た作品を作りたいという気持ちがだんだん強くなってきました。