the奥歯's、本能で爆走した初ワンマンライブ 不器用だからこそかき鳴らせるパンクロックの輝き

 パンクとは、どんな人のことも抱きしめる寛容で優しい音楽なのだと、彼らのライブを観て改めて感じた。失礼を承知で言うが、シュントは完璧なフロントマンではなく、むしろ不器用なタイプだ。MCはイマイチカッコつかない。というか、カッコつける気がない。基本的に話にオチはなく、収拾がつかない状態のまま、メンバーに「兄ちゃん、ジンちゃん、これで終わりでいい?」と尋ねたりする。「ダメ~(笑)」と笑うハルマも、同じく笑いながらスティックで「×」のサインを出すジンも、おそらくシュントを完璧超人だとは思っていないが、お互いの歪で人間臭いところを面白がりながらバンドをやっているのだろう。シュントが語った「俺は普通に、中途半端に生きてきて。パンクロックはぶっ飛んだヤツがやるものかと思いきや、小心者ばかりでした。そこに救われる自分がいました。同時に“ここなら俺も狂えるかもしれない”っていう安心感がありました。弱虫なんです、僕。そういうところを見せ合っていきたい」という想いは、the奥歯'sの本質だ。

 全部を見せ合いたいとステージに立つ彼らはあまりにも素直で、結成から3~4年が経ってバンドの初期衝動が失われつつあることや、それでも音楽でもっとワクワクドキドキしたいと思っているということも、飾らずに打ち明けていた。割り切れずもだもだとした感情さえも音楽に変えながら、キラキラと、爆走していく姿がとても眩しかった。そんななか、アンコールでは、ライブタイトル『下を向いて歌おう』の由来となった初期の楽曲「臆病事」をシュントが弾き語りで披露。この曲は本来歌うつもりではなかったようで、シュントはライブタイトルについて説明したあと、「でも今日は歌いたい曲があるので……」と他の曲を歌おうとしていたが、観客の反応を受けて、「あっ、聴きたいよね」と方向転換する形に。〈下を向いて歩いてたら 悔しさ嫉妬がうるさいよ〉〈下を向いて歩いてたら 何もできない僕がいたよ〉と歌うこの曲を通して、原点を見つめながら思うことがあったのか、シュントは「なんでこんな曲作ったんだろう? ってくらい暗い曲ですけど、今歌ってみたらいい曲だなって。次からはセトリ考えます」と言っていた。ロマンチストで小心者で、弱虫で泣き虫。そう自称する彼らが酸いも甘いも噛み分けながら描く夢を、この先もっと見てみたい。

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