日向坂46「Love yourself!」MV分析:小坂菜緒の指揮が先導するグループの新章 20人の個の表現と全体の調和

 日向坂46の14枚目のシングル『Love yourself!』が、5月21日にリリースされる。このシングルは一期生全員の卒業を経て、二期生から四期生までの20名体制で送り出される初めての表題曲となる。グループにとって重要な節目であるこの作品は、「自分を愛する」という直球のメッセージを掲げながら、新たな出発を印象づけるアンセムに仕上がっている。

 先行して5月7日から楽曲のストリーミング配信も開始され、MVは5月9日22時にYouTube上で公開された。センターには前作に続いて二期生の小坂菜緒が選ばれ、グループの“顔”として、再びその存在感を強く示している。

 MVは、視覚的な演出を超えて、楽曲のテーマである「Love yourself!」=「自分自身を大切にすること」を多層的に描き出している。色彩、振り付け、ロケーション、そして小坂を軸にした構成。そのすべてに新体制としての覚悟と希望を刻むように力強く、しかし軽やかに鳴り響いている。

日向坂46『Love yourself!』MUSIC VIDEO

 「Love yourself!」のMVと、そのコンセプト「日常を指揮する」における象徴的な仕掛けは、“指揮者”としての小坂の存在だ。彼女は白い衣装に身を包み、指揮を振りながら、メンバー一人ひとりを導くように楽曲の世界を展開していく。その動きに呼応するようにして、メンバーたちは屋上や芝生、部屋の中といった様々な空間で、音に身を任せながら自由に踊り始める。

 この「日常を指揮する」というコンセプトは、演出以上の意味を持つはずだ。それは、「他人に流されるのではなく、自分の人生を自分で奏でる」というメッセージの視覚的な体現であり、まさに“Love yourself”という主題にも直結している。小坂の指揮は、そのまま自己肯定と自己表現の象徴なのだ。特に、彼女の指揮に合わせてメンバーが楽器を奏でるかのように踊るパートは、視覚的な楽しさと高揚感を生み出しつつ、個々の表現が解放されていく様子が鮮やかに描かれている。

 また、指揮することを統率するという意味合いにも落とし込んでいるMVの構造は、新体制となった日向坂46の今を象徴しているとも思う。センターとして立つ小坂の背中を、後輩たちが信頼をもって追いかける構図は、まさに新章の幕開けを告げる情景だ。互いの個性を尊重しながらも一つの方向に向かっていく。そんな日向坂46の現在地をこのMVは確かに描き出している。

 「Love yourself!」の歌詞が描き出すのは、現代を生きる誰しもが抱え得る“他者の目”との付き合い方だ。冒頭では、〈心の中で/引っ掛かっている/誰かのさりげない一言〉や〈悪意などないってことくらい/君もわかっているだろう〉といった、日常に潜む小さな棘が綴られる。それはSNSをはじめ、評価や言葉が可視化されやすい現代の社会において、誰もが経験しうる感情を的確に捉えた描写だ。

 そんなモヤモヤとした想いを、〈吐き出してしまえばいい〉と受け止めることで、歌詞の主人公は〈君〉に寄り添いながら次第に肯定へと歩みを進めていく。〈Love yourself!/もっと自分 好きになれよ/君が思ってるより 君はイケてるんだ〉というサビのフレーズは、飾らないストレートな表現だからこそ、まっすぐ心に刺さる。誰かのためではなく、“自分のため”に、自分自身を愛してあげるということ。その当たり前のようで難しい行為を、軽やかに、しかし真摯に訴えかける。日向坂46が持つ“優しさ”と“誠実さ”が、楽曲全体に通底していることがよくわかる。

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