AA=『#7』ロングインタビュー 上田剛士が語る自分にしかできない音楽、BUCK-TICKカバーへの思い

JUBEEとのコラボで見せたヒップホップ×バンドの原点回帰
――次が「Re-create-AA= ver.- feat.JUBEE」です。ラッパーのJUBEEさんに提供した「Re-create」をリクリエイトしたわけですね。
上田:そうです。「Re-re-create」にしようかって話もあったぐらいで(笑)。
――このタイトルは何かの数式みたいに見えますよね。
上田:パッと見た感じ、何が書いてあるのかわからないですよね。JUBEE(=ジューベー)というのもちょっと読みづらいし。これは、最初に彼から話をもらった時から、AA=バージョンも作るつもりでいました。90年代に通じることなんですけど、ヒップホップとバンドとのコラボレーションが当時は結構盛んにあったじゃないですか。それをあえて今やってみよう、と。元々、僕自身もあの時代のヒップホップがすごく好きだったので、JUBEEから曲を作ってほしいと言われた時に、だったらこういうのがいいなと思って作っていたんです。それこそ、デモの段階ではラップの部分にPUBLIC ENEMYのトラックを入れて作っていたぐらい。だからこういった曲をバンドとしてやるというのも、自分的には自然な流れでしたね。
――当時はPUBLIC ENEMYとANTHRAX、ICE-TとSLAYERが一緒にやったりというのもありましたもんね。
上田:あの感じもいいですよね。『JUDGEMENT NIGHT』(1993年発表の同名映画のサウンドトラック盤。ラップ/ヒップホップ系アーティストとメタル/ロック系バンドのコラボによる楽曲で構成されていた)的なノリっていうのは。今の時代、そういうのがあまりないのは、逆にそれらが普通にバンドの中に取り入れられちゃってるからでもあるだろうと思うんです。ただ、僕としては、そうなる以前の時代の、あのカッコよさに惹かれるんですよね。まだスタイルとして洗練されてなくて、未完成な感じというか。だからこそヒリヒリする。日本で言うところの“ミクスチャー”みたいな感じになっちゃう前の話ですよね。
――言い換えれば、“ミクスチャーの典型”というのができる前ということですね?
上田:そうですね。それがカッコいい。あの感じを自分でも求めてみたかったんです。だからバンドアレンジとは言いながらも、彼に送った曲をそのままやっている感じでもあるんです。
――そしてこの次に「CRY BOY」がくると、一段落つく感じがしますよね。先日のライブの際もそうでしたけど、全体の流れの中ですごく印象に残ります。
上田:そう言ってもらえると嬉しいです。曲調が曲調だけに印象に残りやすいというのもあるかもしれませんけどね。これも「FIGHT & PRIDE」と一緒に『餓狼伝』のアニメ用に作った曲で、こちらはエンディング主題歌だったわけですけど、テーマ的には2曲とも同じで、闘うことの虚しさと同時に、この時代において自分が伝えたいと思っているメッセージを強く出しているものですね。
――〈勝つ事だけが全て/そんなロマンティシズム、とらわれた〉という歌詞がとても象徴的だと思います。そして、ここからLPで言うところのB面へと移っていく。作品のサイズ感として、LPの長さが感覚的に染み付いているようなところもありますか?
上田:この作品自体はLPのフォーマットに対してはちょっと長いと思うんですけど、曲を作って並べてみた時に、偶然ここで切り替わる感じがすることに気付かされて。それがすごく気持ち良かったんです。
――実際、次の「THE OLD BLOOD CLASSIC!!!」が、2回目のオープニングのようになっていますもんね。
上田:そうなんです。その流れが気持ちいいかなと。
――ライブに置き換えると、「CRY BOY」で本編が比較的コンパクトに終わって、そのあと暴れられるアンコールがたっぷり用意されているような感触でもあります。
上田:なるほど、確かに。
――ちなみに僕のメモには“今時の激烈メタルコアへの回答”と書いてあります。
上田:激烈メタルコア限定ではないんですけど、オールドブラッドという言葉の通り、僕らの時代なりの激しさで今の時代に一撃喰らわす、みたいな感じですね(笑)。そういう意味では、今の子たちにはできないものかもしれないし、そこで「こっちのほうがいいだろ?」とは言わないけど、「これも最高だろ?」とは言いたい。そういう曲です。
――昨今、その種の音楽は足し算で作られたものが多いと思うんですよ。余計なものを入れている、とまでは言わないにしても。
上田:それはまあ、彼らの世代にとってのリアルであるはずだから、それはそれでいいと思うんです。ただ自分にとっては、それは違うものなので。
――それこそ30年前に大人気だったPanteraが再評価されるような流れとの重なりも感じますし、しかもこの曲が2分あるかないかで終わってしまうのも痛快です。
上田:そういうアプローチにも、あの頃の時代感というのがちょっと出てる感じですよね。当時は2分どころか1秒の曲とかもありましたし(笑)。さすがにこの曲をそれで終わらせるわけにはいかなかったけど、それはそれでアリだと思ってるところがあります。
温存された名曲、偶然の連鎖が導いたセッションから生まれた楽曲も
――次が「30 YEARS, STILL GOOD GIRL」。これは、もしも僕がレコード会社の担当者だったらシングルとして出したい曲です。
上田:ありがとうございます。この曲自体は少し前に作ったものです。溜めていたものをいろいろ聴き直してみて、「今、この曲やりたいな」と感じたものを引っ張り出してくるようなことが結構あるんですね。だから逆に言うと、この曲を作った当時には、感覚的にまだやる気になれなかったということにもなるんですけど。そこはある意味、その時の自分のノリとかテンションみたいなもの次第という部分もあって。
――瞬間風速的な勢いで「今すぐこれをやろう!」となる曲もあれば、「ちょっと様子を見ておこう」という感じで温存しておいたほうがいい曲というのもあるわけですね。そうなってくると、デモ音源とかは迂闊に処分しないほうがよさそうですね?
上田:そうですね。せっかく今はデータをいくらでも保存しておける時代ではあるので、すぐに捨てたりせずに残しておいたほうがいいよ、と言いたいです。で、この曲の歌詞については、時代感というか同世代感というか、同じ時代を生きてきたみんなに向けてのラブソングみたいなところもあります。

――そして、次が「BE LOST…feat.SHIGE(WRENCH)」です。このアルバムの中で一番不穏な曲でもありますが、これはやはり終盤に置くべきものでしょうね。
上田:置き場所としてはそうなりますね。特にこの「30 YEARS, STILL GOOD GIRL」の後というのは、自分でもグッときます。これは、ただただSHIGEとやりたくて作った曲です。そのためだけに作りました。
――SHIGEさんのどんなところに一番惹かれていますか?
上田:彼の良さはもう、わかる人にはガッツリわかってるはずで。彼しか持っていない世界があるじゃないですか。それを口で説明するのは難しいんだけど。とにかく僕自身、そういった彼の世界も、WRENCH自体もとても好きなので、自分が彼を呼んで何かを形にするとすれば……これがまさに理想みたいなものですね。今回一緒にやることになったのには、ちょっとした流れがあって。WRENCHが普段から使っている古めの機材があるんですけど、それが壊れちゃったらしいんですよ。それでメンバーがSNSで「誰か持ってない?」と呼び掛けていたんだけど、たまたま僕がそれを持っていたんです。しかも非常に綺麗な状態で。WRENCHにとっては、それがないとライブが成り立たないぐらい重要な機材だったりするはずなので、困ってるだろうなと思って、僕のをあげちゃうことにしたんです。
――貸すのではなく?
上田:ええ。そこで「その代わり、一緒にやろうぜ」と(笑)。そうなってくると、さすがにSHIGEにも断るわけにはいけない(笑)。
――その駆け引きの末に生まれたこの曲ですが(笑)、アルバムの中でもとても独特な存在になっていると思います。歌詞には混沌、残像、朦朧といった言葉が出てきますけど、それらを描写することで歌詞にするのではなく、その言葉自体を投げつけてくる感じで、そこにも興味深いものがあります。
上田:これは基本的に、レコーディングのその場で作ったもので。元々のデモを作っていた時点でのテーマというか、この曲の仮タイトルが“CHAOS(=混沌)”だったんですね。実は彼にあげた機材というのがKORG社のKAOSS MIXERというパッド付きミキサーだったので、とりあえずそのテーマだけを持ち掛けたんです。それ以外に事前に決めてたのは、ずっとディレイを使って繰り返していくってことだけで、歌を入れるかどうかも特に決めてなかったくらい。別にインストでも構わなかったし、どうするかはその場で考えよう、と。ただ、彼が来た時に「どうする?」と聞いたら「何かちょっと言葉ちょうだいよ」と言ってきたので、「じゃあ“CHAOS”でいこう」という話になり、その場で彼が作り「じゃあ、ちょっと録ってみようぜ」という感じで録ったのがこれなんですよ。
――面白いですね。何から曲が生まれるかわからないというか。念願叶って一緒にやるとなれば、意気込んで細かく作り込みたくなるんじゃないかと思うんですが。
上田:そうですね。ただまあ、SHIGEとのことなのでそのほうが彼っぽいというか、彼ならではの面白さが出ると思ったので。もちろんこれは、昔から知っている仲間同士だからこそできたことでもあると思います。
――そして12曲目で「THE BOMB」が炸裂する。これはライブでも先行披露されていましたが、早めに出来ていた曲ということになりますか?
上田:出来た時期という意味ではほかの曲たちとそんなに変わらないです。ただ、曲的に簡単なので、サクッとライブでやるにはやりやすいな、と。準備不要というか「やろうぜ!」ということになればすぐにできる。ライブの時は、何か1つ新曲をやろうと思っていたので「だったらこれをやろう」ということになったんです。
――この曲の歌詞についても説明は無用そうですよね。こういったことを演者と観客が一緒に歌えるというのも、ライブならではの楽しさだと思います。
上田:そうですね。シリアスになりすぎない曲調にこの言葉をのせる、というのが自分の中でのテーマではありました。まさしく“冗談みたいな世界”でもあると思うので。日本風に言うならば「それ、ギャグじゃないの?」みたいな。


















