大森靖子、“野良”として立った12年ぶりの渋谷QUATTROワンマン ギター1本で見せた圧倒的な才能

 2025年3月31日をもってエイベックスとの10年半にわたる契約を満了した超歌手・大森靖子。インディーズに戻った彼女が2025年4月5日に渋谷CLUB QUATTROで開催した『少女再築 単独弾語りLIVE 12年振り渋谷QUATTRO ワンマン』は、アコースティックギターによる弾き語りライブであり、「大森靖子」というアーティストの生データに触れるかのような体験だった。だから、こう言うしかない。ライブの現場に来なければ、大森靖子の真価はわからない。インターネットには意味がない。

 この日、開演20分前に入場すると超満員。学割チケットを買ってきたのであろう若者が非常に多い。『12年振り渋谷QUATTRO ワンマン』という公演名は、2013年5月13日に同じ渋谷CLUB QUATTROで開催された『「魔法が使えないなら死にたい」ツアーファイナル!〜つまらん夜はもうやめた〜』を踏まえてのものだろう。どちらも大盛況のライブだったが、2013年の場合は、大森が各方面にゲストチケットを郵送して集客したという。それに対して12年後は、わずかな関係者しかおらず、あとはすべてチケットを買ったファンが会場を埋め尽くしていた。

 なお、2013年5月13日の渋谷CLUB QUATTROについては、今もライブレポートを読むことができる。当日のライブレポートを執筆し、インターネット上で閲覧できる状態を維持している唯一の音楽ライターが私であることは声高に主張したい(※1)。

 さて、12年の歳月が流れた。この日のステージには棺桶が置かれ、底には「死ぬまで少女」と書かれている。テーブルには「ナナちゃん」が鎮座していた。

 定刻に会場が暗転すると、「絶対絶望絶好調」の冒頭の大森のセリフが流れ、そこに幾重ものセリフが重なっていく……という展開は、2025年3月26日にKT Zepp Yokohamaで開催された「春の大森靖子祭三大ワンマンライブ『少女貫徹 四天王LIVE LAST AVEX ワンマン』」と同じだ。違っていたのは、大森がステージに登場すると、セリフの音源が終わらないうちにギターを弾きはじめたことだ。〈あのまちを歩く才能がなかったから〉を繰り返し、「新宿」が始まった。

 「ミッドナイト清純異性交遊」でピンクのペンライトが振られる光景には、ピンクのサイリウムが振られた12年前を思い出した。そして、長く歌われてきたことにより、クラップやコールなど、ファン側のリアクションが仕上がっている。「絶対運命ごっこ」は、MAPAへの提供曲にして、最新作『THIS IS JAPANESE GIRL』でもセルフカバーされている楽曲だ。そして、ギター1本で演奏されても聴き応えは変わらない。

 「ハンドメイドホーム」の後に、アカペラで「5000年後」が歌われ、そのまま「エンドレスダンス」へと流れ込んだ。この日の「エンドレスダンス」は、ギターのプレイはもちろん、その響きの奥行きの深さも含めて素晴らしく、ギターの弦をノイジーに鳴らしながら「あまい」へと続いた。「あまい」では、大森によるモノローグも楽曲に混ぜられていき、まさに大森の弾き語りの持つ凄味を体現していた。そこから「ひらいて」への流れも美しく、そこには緊張感がはりつめる。

 「あたし天使の堪忍袋」では、大森がファンに「みんなで歌うパートだよ!」と呼びかけ、さらに「アリーナ」「2階席」「柱の後ろ」と呼びかけた。柱の後ろでも歌ってくれるファンに、大森も感心しきりだった。

 MCでは、大森が「野良になった私はどうですか?」と聞くと、ファンから「大好き!」という声が起きた。インディーズ時代からのファンに挙手を求めると、「あんなに炎上したのに残ってる」と大森は笑った。

 「少女3号」からノンストップで「怪獣GIGA」へと続く。「怪獣GIGA」もMAPAへの提供曲のセルフカバーだ。「料理長の音楽は豚肉の焼ける音だった」「展覧会の絵」「キラキラ」と続いたゾーンは、あえてインディーズ時代を意識したのだろうかと思うような選曲だった。

 MCを挟んでの「音楽を捨てよ、そして音楽へ」では、サビ前に一瞬セリフを入れた。そして、「魔法が使えないなら」「コーヒータイム」と続いた。

 MCでは、「今日変だよね、ウケる、楽しいんだよね」と大森は笑った。何をやってもいいし、帰ってもいいのだと言い、しかしライブを見た感覚にさせると言って、歌いだしたのが「Rude」だった。それでも、「Rude」を歌いだした後に、最前列のファンにビールのサイズを聴くなど、小技を入れて、しかし楽曲へと集束させていく。そこからノンストップで「VAIDOKU」へと続けた。

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